第18話 ちみっことヒロイン その2

 次の日、アタシはアリシアを自分の部屋に招待した。



 嫌がれるかなと危惧していたが、案外あっさりOKしてくれた。どうやら彼女もこのままでは埒が明かないと思ってたようだ。


「ようこそ。さあ座って」


「...お邪魔します」


 アリシアは若干緊張しているようだ。


「マリー、お茶をお願い」


「畏まりました」


 二人分の紅茶を入れた後のマリーに告げる。


「マリー、悪いんだけど、席を外してくれないかしら?」


「お嬢様...ですが...」


 うん、分かってる。護衛も兼ねるマリーとしては、二人っきりにするってのは気が引けるよね。でもアタシも引けない。これからする話は聞かせる訳にいかないから。


「大丈夫だから。ね? お願い」 


「...分かりました」


 渋々といった感じで頷いたマリーが退出する。


「では始めましょうか」


「ちょっと待って」


 話し出そうとしたアタシをアリシアが止める。訝しんだアタシにアリシアは何やら魔法を掛けた。


『サイレント』

 

「遮音結界を張った。誰にも聞かれたくないのはお互い様でしょ?」


「そんな便利な魔法も使えるんだね...聞かれたくないってことは、あなたも私と同じ転生者だと思っていいのかしら?」


「えぇ、その通り...ってちょっと待って! あなたもなの?」


 あれ? てっきり気付いているもんだと思ってたよ。アタシが頷いたのを見てアリシアは「なんてことなの...」と呆然として呟いた。


 アタシはこれまでの全てをアリシアに語った。前世のこと、転生した後のこと、精霊王の祠でのこと、果ては1000年前に起こったことまで。ゲームの続編ではないか? という考察まで含めて。


 長い話になったが、その間アリシアは一言も口を挟まず黙って聞いてくれた。アタシは全てを語り終えた後、すっかり冷めてしまった紅茶を飲み干した。


 アタシの話を聞き終えたアリシアは、しばらく考え込んだ後、


「...私の他にも転生者が居たなんてね...聞きたいことや突っ込みたいことは山程あるけど、取り敢えず今の状況は理解出来たかな。だから次は私のことを話すね。その後であなたの話との擦り合わせを行おうと思うんだけど、それでいい?」


「えぇ、構わないわ」


 意外と冷静なアリシアに感心した。


「まず私の前世は高校二年生の夏休みで終わったみたいね」


 そんなに若くして亡くなったのか...


「友人達と山にキャンプに行って、川で水遊びをしてたのね。そこで川底にあった石に足を取られて後ろ向きにひっくり返った。覚えてるのはそこまで。頭を打って死んだのか、溺れて死んだのか、ハッキリしない」


 淡々と語るアリシアはどこか遠くを見ているようで...それを見ていたアタシは居た堪れない思いに駆られた。


「私が前世の記憶を取り戻したきっかけは一ヶ月くらい前。私の実家はそこそこ裕福な商家だから、王都学園に通えたのね。その日、帰りが少し遅くなった私は、近道しようと思ってうっかり入った裏路地で五人の破落戸に絡まれた。身の危険を感じた私は大声を上げたんだけど、すぐに抑え込まれて口を塞がれてね。もうダメかと思った」


 当時を思い出したのか、アリシアは少し震えていた。落ち着かせようとアタシはアリシアの手を握りしめた。ちなみに王都学園とは、魔力を持たない貴族や裕福な平民の子供が通う学校のことだ。


「その時ね、急に頭の中に前世の記憶が蘇ったんだ。そして自分の魔力を初めて感じた。不思議なことにね、初めてなのに魔法の扱い方がすぐ分かったんだよ。そこから先はこの間の魔法実習で見せたように、身体強化の魔法を使ってちょっと暴れたら破落戸共は全員地を這ってた」


 あぁ、そりゃあの力を使われたら堪らないよね。


「その後、私は自分の名前、国の名前、魔道学園の名前を確認して、この世界が前世でハマった乙女ゲーム『星の乙女と煉獄の王』の中だって確信したんだ。あぁ、これが噂に聞いた異世界転生で、私は生まれながらにしてヒロインなんだって大喜びしたよ。すぐに両親に報告したら、私以上に喜んでくれてね。しかも魔力判定を依頼したら、希少な聖属性持ちだって言われてまた嬉しくなったよ。さすがはヒロインだなって。この学園の入学許可もすぐに下りて、意気揚々とやって来て見れば...まさかゲームが既に始まっていたなんて思いもしなかったよ」


 アリシアは苦笑しながら紅茶を飲み干した。アタシは新しく紅茶を入れ直しながら、


「え~と...なんかゴメンね...」


 もう謝るしかなかったよ...


「っていうかさ、ゲームが始まったって言っても、私達の知ってるゲームのシナリオ通りじゃないってことはさ、もう違うゲームってことだよね?」


 アリシアの言うことは一理ある。アタシもその可能性を視野に入れてた。


「うん、設定だけは『セイレン』のゲームに準じているけど全くの別世界だと思う」


「そうだよね。ミナ...さんの存在含めて、私達の知識あんま役に立たないかも」


「ミナでいいよ。でもそうなると、なんで私とアリシアさんだけ前世の記憶持ちなのかって疑問が残るよね」


「私もアリシアでいいよ。確かにね、そこに何らかの意味があるんだろうけど...取り敢えず今、私が一番知りたいのはさ...なんでそんなにちっちゃいの?」


 アタシはズッコケた。


「そこっ? 今そこなのっ?」


「あぁ、うん。まぁ他にも色々あるけどまずはそこかなって...」


「知らないよ、そんなの。私が知りたいくらいだよ...」


「両親もちっちゃいとか?」


「両親は...確かに大きくないかも...母親が150ちょいで父親も160ちょいで...で、でも弟は私より大きいんだよ?」


「弟いくつよ?」


「10歳...だからそんな可哀想なモノを見る目で見ないでよぉ!」


「ご、ゴメンゴメン、き、きっと成長が遅れてるだけだって。ま、まだ成長期なんだしさ、こ、これから伸びるかも..よ?」


「いいよもう...諦めてるから...」


 か、悲しくなんかないんだからぁっ!


「わ、分かった! も、もうこの話題止めるから! き、機嫌直してよ~」


 アタシの機嫌が直るまで更に一杯の紅茶が必要になった...もうお腹が紅茶でタポタポしてるよ...



◇◇◇



「え~と、それじゃあさ、順番に擦り合わせしていかない?」


「順番ってどんな順番?」


 アタシは首を捻った。


「まずは1000年前の話。ミナが『セイレン』の続編じゃないかって予想した件」


「うん、どうだった?」


「結論から言うとミナが正解。続編の『セイレン2』で間違いないよ」


 やっぱりかぁ~ 有りがちな設定だったしね~


「内容もそのまんま? 私が精霊王様に聞いた通りだった?」


「うん、概ね合ってたよ。ただね...」


 アリシアが言い淀む。なんだ?


「ただ? 何かが決定的に違ったとか?」


「完全に格ゲーになってました」


「なんじゃそりゃあ~! タイトル詐欺にも程があるじゃん!」


 アタシは再びズッコケた。


「アハハ、全くだよね~ まぁでも無印の時から乙女ゲームらしからぬ乙女ゲームだったからね~」


「それにしたってさぁ...無印版のファンは離れて行ったんじゃないの?」


「それがそうでもなかったんだよね~ 元々さぁ、無印版でも一番人気があったのは王子ルートだったからね~」


「そうなの? アリシアもそうだった?」


「うん、私も格ゲー好きだったからさ」


「そうなんだ...私、格ゲー苦手だったから...隠れキャラの隣国の王子も結局見れなかったし...」


「あぁ、隣国『ヴェガート獣王国』の『ライオネル王子』ね。確かにやり込まないと出て来ないキャラだったわ」


「アリシアは当然見れたんだね...」


「もちろん。ただあの獣人ライオネルは手強かったわぁ~ 倒すのめっちゃ大変だったよ~」


「え? 倒す? 仲間になってくれるんじゃないの?」


「倒さないと仲間になってくれないんだよ」


「そうだったんだ...」


 そんな強いんじゃ例え出せてもアタシじゃ勝てそうもないや... 


「っと、話逸れたね。その『セイレン2』にさ、お助けキャラ的な『ちっちゃい』妖精が出て来るんだけどね、それがなんと...」


 スッゴク嫌な予感...ちっちゃい強調してるし...


「ミナにそっくりなんだよね~」


 やっぱりかぁ~!


「ちなみに名前は『ピクシー』だった」


 ベタな名前だな!

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