第17話 ちみっことヒロイン その1

 ついにヒロインがやって来た!



 これでようやくゲームの本編が開始される!...はずなのに...なんだかもうとっくにゲームは始まってて、しかも本来のストーリーとはかけ離れた展開に...


 うん、ゴメン。ヒロインちゃん...もしかしなくてもアタシのせいだよね...


 せめてヒロインちゃんの見せ場があるといいんだけど...


 ヒロインちゃんこと『アリシア・スピアーズ』はアルベルト殿下達のクラスに編入するらしい。ってことは平民出身で王子ルートを選択したパターンになるのかな? お昼休みにでも殿下達に聞いてみよう。



「編入生? あぁ、確かアリシアとか言ったっけ? それがどうかしたのか?」


 お昼休み、アタシがヒロインちゃんのことを聞いた時の、アルベルト殿下の第一声がこれだった...いや、少しは注目してあげようよ...希少な聖属性持ちなんだよ?


「あぁ、あの方ね。私のことをジロジロと見た挙げ句『悪役令嬢』とかなんとか、訳の分からないことを呟いていたわ。一体なんなのかしら? 失礼しちゃうわよね」


「悪役令嬢? 意味分からんが、シャロンが悪どい奴だってことは間違いな..イデデデッ! 足を踏むなっ! 足をっ!」


「一言多いですわよ、アルベルト様」

 

 夫婦漫才は放っといて...あぁ、やっぱりね...転生者だったか...ある意味予想通りなんだが。ん? そのヒロインちゃんと思しき美少女がこっちを鬼のような形相で睨んでる!



 アリシアの見た目はゲーム本編と変わりないように見える。黒髪黒目の外見は元日本人であるアタシには馴染み深い。今は鬼のような顔をしてるが、普通にしてれば清楚系お嬢様って感じだ。


 あれ? 気のせいかな? アルベルト殿下狙いなら、本来の悪役令嬢であるシャロン様を目の敵にするはずなのに、何故かアタシのことを睨んでる?


 き、気のせいだよね?



◇◇◇



「キャッ! ご、ゴメンなさいっ!」


 うん、気のせいじゃなかったよ...あれから毎日、アリシアは廊下を歩いているアタシの目の前で、何も無い所ですっ転んでは謝るということを繰り返してる。


 恐らくだけど、アタシがアリシアのことを虐めてて、廊下ですれ違う度に足を掛けては転ばされてるってこと、健気にもそれに耐えているってことをアピールしたいんだと思う。


 ベタやなぁ~...でもさアリシア、そのアピールをするならアルベルト殿下の見ている前でやらないと意味なくね? 


 クラスが違うから当たり前だけど、移動教室で廊下を移動する時、アタシの側に居るのはエリオットなんだよね。これじゃエリオット狙いかと思われちゃうよ?


「なぁミナ、彼女は一体何をしたいんだ?」


「うん、私もそれを知りたい...」


 本当にな...


 なんでアタシをターゲットロックオンしたんだ?



◇◇◇



 ある日、たまたま殿下達のクラスと移動が被った。嫌な予感がしたアタシは、アリシアの姿を探した。姿が見えないんで安心したアタシが階段を降りようとした時、踊り場の隅に身を潜めていたアリシアと目が合った。


 次の瞬間、アリシアが踊り場から飛び降りたっ!


「キャアァァァッ!」


 悲鳴を上げながら落ちて行ったアリシアに、然しものアタシも驚いて駆け寄る。ここまでやるかっ!? 階段下で踞っているアリシアに近付いた時、


「どうしたっ?! 何があった!?」


 アルベルト殿下が叫びながらやって来た。


「あ、アルベルト様! わ、私、誰かに後ろから押されて...」


 アリシアが白々しく嘘を付く。そして瞬時に状況を把握した殿下は、


「大丈夫か!? 怪我をしたのか!?」


 と言ってお姫様抱っこした。


 アタシを。


「で、殿下っ! ち、違っ! わ、私じゃなくてっ!」


「心配するな、すぐ医務室に連れて行ってやるからなっ!」


 と言って駆け出した殿下の後ろから、シャロン様が光の速さで追い掛けて来た。


「アルベルト様っ! 抜け駆けは許しませんわっ!」


 振り返って見ると、後に残されたアリシアが呆然とした顔で踞っていた。


 自業自得とはいえ、アリシアが酷い怪我してないといいけど...



◇◇◇



 次の日、アリシア何事も無かったかのようにまた無意味な「ゴメンなさい」アピールを開始した。怪我は無いようで安心したけど、あの高さから飛び降りて怪我が無いって凄いな! 設定通りなら脳筋ヒロインのはずだから、頑丈にできてんのかな!?


 ちなみに今は放課後で、アタシの側に居るのはシルベスターだ。


「ミナ、今の何だったの!?」


「私にも分かんない...」


 ヒロインの謎行動恐るべしっ! まさかと思うけど、逆ハーとか狙ってる訳じゃないよね!? このゲームにそんなルート無いし、あったとしてもアピールの仕方間違ってると思う。


「確かあの娘、珍しい聖属性持ちってことで編入して来たんだよね?」


「さすがスライ、情報早いね」


「うん、父さんから聞いた。久し振りに現れた聖属性持ちなんで、本当ならもっと大騒ぎになっていてもおかしくないんだけど...」


「けど? どうかした?」


「それよりもっと珍しい精霊王様の加護持ちが居るからね」


 シルベスターが苦笑する。あぁ、なるほどね...アリシアがアタシに絡む理由がやっと分かったよ...ヒロインのはずの自分がヒロイン扱いされないんじゃそりゃ面白くないよね...


 モブですらないアタシがしゃしゃり出てしまったせいだよね...ホントにゴメン...でもアタシだって本意じゃないんだよな~ それだけは分かって欲しいと思う。



◇◇◇



 夏休み前、最後の魔法実習は殿下達のクラスと合同だった。土属性で集まったアタシ達は7人でまた一人余った。と、そこへアリシアがやって来た。


「先生、私の属性は私一人しか居ないんで、人数が余ってるここに入ってもいいですか?」


「あぁ、君は聖属性持ちだったな。よろしい、許可しよう」


「ありがとうございます」


 アリシアがアタシ達の所に入る。アタシは意を決してアリシアに話し掛けた。


「あ、あのっ! アリシアさん、私と組まない? 私は」


「ミナ・バートレットさん、望む所よ、あなたには負けないんだからっ!」


 ありゃ~ 参ったなぁ~ 同じ転生者同士、腹を割って話したかったんだけど、取り付く島もないよ...さっさと開始位置まで行っちゃうし。仕方無い、授業が終わってからにするか。


 あれ? でも聖属性って攻撃出来んの?


「全員位置に着いたな。では始めっ!」


 教師の号令と共にアリシアが凄い勢いで突っ込んで来る! 見るとアリシアの手足が白く輝いてる。あれは身体強化!? アタシは慌てて防御の土壁を構築する。


 アリシアの攻撃を土壁で受ける。くっ! 重い! アリシアの攻撃は単純な殴る蹴るだが、その一発一発が悉く重い! アタシは防御に専念する。


 と、しばらく攻撃を続けていたアリシアの姿が突然消えた!


 どこ行った!?...上だっ!


 跳躍したアリシアが真上から落ちて来る。あれは、かかと落とし!?


 アタシは瞬時に土壁をドーム状にしてアリシアの攻撃を受ける。途端、物凄い衝撃が襲い土壁に罅が入る! マズい! もう一撃食らったら破られる!


 アリシアがもう一度跳躍する。今だっ! アタシは瞬時に構築した植物の根でアリシアを狙う! 空中では避けられないはず!


 空中でアリシアを拘束することに成功した! 良し、上手くいった! だがアリシアは腕力で拘束を剥がそうとしている! 


 アタシは態勢を整える為、出来るだけ遠くにアリシアを放り投げた! 良し、ここから第二ラウンド開始だっ!...って思ってたら、


「キャアァァァッ!」


 アリシアの絶叫が響き渡った。


 え? なんで? アンタ身体強化してるじゃん?


「どうしたっ?! 何があった!?」


 アルベルト殿下が叫びながらやって来た。わ~お、なんてデジャヴ。


「あ、アルベルト様! ミナさんったら酷いんです! 私を一方的に攻撃して...怖かった~」


 アリシアがまた白々しく嘘を付く。そして瞬時に状況を把握した殿下は、


「大丈夫か!? 怪我をしたのか!?」


 と言ってお姫様抱っこした。


 またアタシを。


「だから殿下っ! 私じゃないですっ!」


「心配するな、すぐ医務室に連れて行ってやるからなっ!」


 と言って駆け出した殿下の後ろから、シャロン様が光の速さを超えて追い掛けて来た。


「アルっ! またアナタは性懲りもなくっ!」


 振り返って見ると、後に残されたアリシアが呆然とした顔で...


 ってか、もうテンプレは十分だよね...


 アリシアとはちゃんと話し合おう。


 アタシは心に誓った。

 

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