第16話 ちみっこと総合テスト

 学園に入学してから約三ヶ月が過ぎた。



 アタシの日常は相変わらず賑やかだ。精霊達との生活にもすっかり慣れた。ヒロインはまだ編入して来ない。どうやら夏休み直前になりそうだ。


 夏休み前に、この学園では総合テストが行われる。入学間も無い頃に実施された学力テストはそのまま。今回はそれに魔法力のテストが追加される。


 学力テストの方は前回と同じだが、今回はそれぞれの順位に対応した評価ポイントが付けられる。1位なら1000ポイント。以下順位に応じて100ずつ減算される。100ポイント以下の順位になると10ずつ、10ポイント以下の順位は1ずつ、といった具合に減算の幅が異なる。


 魔法力のテストと合わせて、この評価ポイントの合計で総合的な順位が付けられる。ちなみに魔法力では、三項目のテストが実施される。


 一つ目は魔力量のテスト。これは純粋に魔力量の測定を行い、多寡を競い会う。


 二つ目は練度のテスト。魔法が発動し構築し終えるまでに掛かる時間と、その強度を競い合う。


 三つ目が持続力のテスト。構築し終えた魔法をどれだけ長い時間維持し続けられるかを競い合う。


 学力テストは500点満点なのに対し、魔法力テストは300点満点となる。評価ポイントの付け方は同じである。



 この総合テスト対策の為、アタシ達『精霊の愛し子隊』は放課後になると自主練と称して毎日集まってる。今日は魔法力対策の日だ。魔法演習場に集合したアタシ達の目の前では今、レベルの違う戦いが繰り広げられている。


「食らえっ!『ファイアーシュート!』」


「甘いですわっ!『トルネードスピン!』」


「行きますよっ!『ブリザードキック!』」

 

 うん、これなんて魔法戦争? 火焔と竜巻と吹雪が入り交じって大変なことになってるんだけど...


「アハハハ、殿下達は相変わらず凄いね~」


「うん...なんかゴメンね。本当はスライもあの中に交じりたいだろうに...アタシに付き合わせちゃって...」


 そう、シルベスターだけはアタシの土属性に合わせて相手になって貰う為、アタシの側に居てくれるんだよね。決して実力が無くあの三人に交ざれないって訳じゃないよ。

 

「いやいや、ボクとしてはミナと一緒に居られて嬉しいっていうか役得っていうか...」


「えっ? 今なんて?」


「い、いや何でもないよ。とにかくそんなこと気にしないで」


「うん、ありがとうね」

 

 うぅ、ホンマにえぇ子やなぁ~


「あ、そう言えばさ、聞いた? ボク達の強化合宿の話」


「あ、うん。夏休みにやるんだよね? 確か王都の近くで発見された未調査ダンジョンに挑むんだっけ?」


「そうそれ。王都から馬車で三時間くらい掛かる所らしいよ」


 アタシ達『精霊の愛し子隊』は、いつ闇の眷族が襲って来ても良いように、個人のレベルアップが急務とされている。いくら精霊の加護があるとは言っても個人の能力が低いと話にならないからね。


 今回の強化合宿もその一環。当然ながら、これからもこういった機会が段々増えるだろうとのこと。行く行くは冒険者ギルドで冒険者登録するらしい。


「でも未調査のダンジョンって危険なんじゃないかな?」


「これまで王都近くで発見されたダンジョンは、弱い敵しか居ないものばかりだったから多分大丈夫だよ。それにボク達五人が集まれば、かなり強い敵が出て来ても負けないと思うよ」


「うん、確かにそうだね...」


「さて、ボク達も始めようか。まずはボクから攻撃でいいかな?」


「うん、よろしくね」


 シルベスターが攻撃を仕掛けてアタシが防御する。初めて会った時と同じ。でもあの時のような敵意は、当然だけど今のシルベスターから溢れてはいない。違うのは...


「くっ! 重い...」


 そう、土の精霊の加護を授かったシルベスターの力は以前と段違い。アタシの防御は今にも破られそう。アタシだって精霊王様の加護を授かったはずなのにな...


 前に精霊王様に聞いた所によると、アタシが授かった加護は闇の力に対する抵抗力が上がるものらしい。決して魔力が上がったりするものじゃないんだって。


 うぅ、チートを期待したのにな...でも以前と比べると持続時間が延びたように思う。それと構築スピードも上がった気がする。


「良し、こんなもんかな。大分練度が上がったんじゃない?」


「ハァハァ...ありがとう」


 何とかシルベスターの攻撃を凌ぎきったよ...


「次はミナが攻撃する番だけど少し休む?」


「ううん、平気。それじゃ行くね」


 今度はアタシの攻撃をシルベスターが防御する...と、シルベスターの表情が微妙なものに変化する。うん、知ってた...アタシの攻撃はハッキリ言ってショボい。


 それは多分、アタシの前世が影響してるんだと思う。口喧嘩なら負けない自信はあるんだけど、人と殴り合いの喧嘩なんかしたこと無いからねぇ...


 これから闇の眷族を相手にしようって時に何を甘いことをって言われるかも知れないけど、こればっかりは持って生まれた性格だからねぇ。そう簡単に変わらないだろうし、困ったなぁって思ってたら、シルベスターがこう言ってくれた。


「まずは出来ることから始めようよ」


「出来ること?」


「そう、ミナは魔法の構築に関してはボクより上手いくらいなんだから、それをもっと伸ばしていこう。それから苦手を克服しても遅くないと思うよ」


「出来ることか...うん、そうだね。ありがとう、スライ」


 シルベスターの言葉はアタシの胸にすっと響いて、なんだか心が軽くなった気がした。



◇◇◇



 それからのアタシはテストまでの間、ひたすら魔法の構築に磨きを掛けた。それと同時に教師根性を発揮してシルベスターに勉強を教えることにした。


「そこの所はこの公式を使ってみて...」

 

「この場面で作者はどのような心情を抱いたのか想像して...」


「年号を暗記する時は語呂合わせするのがいいよ。例えば194年だったら「いくよ」とかね」


 などなど。全力で教えてたら、シルベスターから尊敬の目で見られた。


「凄いよミナっ! とっても分かりやすいっ!」


 そしたら他の三人からクレームが...


「ズルいっ! 俺にも教えろっ! もちろん二人っきりでっ!」


「私もご教示頂きたいですわっ! 当然、二人っきりでっ!」


「あの....出来れば僕も...良かったら二人っきりで...」


 はいはい...皆で仲良くお勉強しましょうね...あと、エリオット。バカップルに悪影響受け過ぎだからな...


 

 試験の結果は下記の通り。



□□ 学力 □□


 順位     氏名            点数  評価ポイント

  1  ミナ・バートレット        500   1000

  2  エリオット・カーライル      496    900

  3  アルベルト・フォン・アルタイル  494    800

  4  シャロン・スカーレット      490    700

  5  シルベスター・ホプキンス     485    600

  ・       ・           ・     ・

  ・       ・           ・     ・

  ・       ・           ・     ・



□□ 魔法力 □□


 順位     氏名            点数  評価ポイント

  1  シルベスター・ホプキンス     300   1000

  2  アルベルト・フォン・アルタイル  298    900

  3  シャロン・スカーレット      295    800

  4  ミナ・バートレット        294    700

  5  エリオット・カーライル      290    600

  ・       ・           ・     ・

  ・       ・           ・     ・

  ・       ・           ・     ・



□□ 総合 □□


 順位     氏名            評価ポイント

  1  ミナ・バートレット         1700

  1  アルベルト・フォン・アルタイル   1700

  3  シルベスター・ホプキンス      1600

  4  シャロン・スカーレット       1500

  4  エリオット・カーライル       1500

  ・       ・             ・    

  ・       ・             ・    

  ・       ・             ・   


 

 勉強会のお陰か、TOP5を『精霊の愛し子隊』で占める結果になった。うん、なんだかやり過ぎた感がヒタヒタと...ま、まぁ皆で頑張ったってことでいいよね?


 アタシが一位を守れたのは一重にシルベスターのお陰だ。ありがとうね。


 

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