第15話 閑話 マリーとイライザ

■■ マリーの日記 ■■



○月△日



 私は憤っていた。


『精霊の愛し子』だかなんだか知らないが、何故この私が子爵令嬢如きに傅かねばならないのか! 我が主の命でなければ断固として断っていただろう。


『ミナ・バートレット』子爵令嬢。それがこれから私の「仮の」主になる者の名だ。そう「仮の」なのだ。あくまで私が忠誠を誓うのは我が主ただお一人。


 その主が最近、良く口に出すのが『ミナ・バートレット』だ。気に食わない...主の心を捉えている、ただそれだけで気に食わない...それでも主の命に逆らう訳にもいかない。


 この際だ、どんな人物なのかしっかり見極めてやろう。主に相応しく無いと分かれば即刻排除するのみ! そう意気込んで部屋のドアを開けたら、


 

 天使がそこに佇んでいた。



「あ、どうも。ミナ・バートレットです」


 そう自分に挨拶されたミナお嬢様は、ピンクブロンドのふわふわした髪にエメラルド色の瞳。顔立ちは整っていてまるでお人形のよう。体は子供みたいにちっちゃいのに胸だけは年相応に自己主張して...



 まさに神が造りし芸術品のようなお人だったのだ。



 私は雷に打たれたような衝撃を受けた。そう、まるで私の中にある新しい扉が開いたかのような...そんな感覚に捕らわれた。


 私はこの方にお会い出来たことを、この方のお側に居られることを、我が主と神に感謝し誠心誠意お仕えすることを心に誓って、


「マリーと申します。よろしくお願い致します。ミナお嬢様」


 と丁寧に挨拶したのだった。



◇◇◇



○月□日



 私の朝はミナお嬢様を起こすことから始まる。


 そっと部屋に入り、枕元に近付いて寝顔を伺う。あぁ、私の天使様は今日もなんて尊いっ! うっとりして見惚れていると、瞼が覚醒の兆しを見せ始めた。


 いけないっ! 目的を果たさないとっ! 私はベッドの側にあるサイドテーブルに目を向ける。その上には昨夜使ったと思われる水差しとコップがあった。


 そのコップを手に取り...ペロペロペロペロペロペロ...ひたすら舐め回す。あぁ、なんて美味!


 ひとしきり堪能すると、そろそろ起こす時間になる。軽く体を揺するとお嬢様が目を開ける。


「お早うございます。ミナお嬢様」


「ふわぁ、おはよー、マリー」


 寝ぼけ眼のお嬢様も最高!


「朝食を用意しますので、その間に顔を洗っておいて下さい」


「はーい」


 部屋を出る前に水差しとコップの回収は忘れない。


 朝食が終わるとお着替えタイムである。ネグリジェに手を掛ける。最初、ミナお嬢様は恥ずかしがって「自分で脱ぐから!」と仰っていたが私の「職務ですから」の一言で身を任せてくれるようになった。便利なのでこれからも使おう。


 下着姿のミナお嬢様の破壊力は半端ない。私はいつも鼻血が出そうになるのを堪えるのに必死だ。


 制服を着せて髪をセットする。ツインテールとか似合うと思うのだが、勧めたら何故か全力で拒否された。今はサイドに流すだけにしている。



 うん、今日もミナお嬢様は完璧に可愛い! 



 私は「いってらしゃいませ」とミナお嬢様を送り出す...はずが、何故かミナお嬢様はドアの所で立ち止まって私の方を振り向いた。そしてはにかんだように笑いながら仰った。


「マリー、その...毎朝ありがとうね」


「...職務ですから」


 ミナお嬢様が出て行かれた後、私はついに堪えきれず、


「ブッホォォォッ!」


 大量の鼻血を吹き出したのだった。ミナお嬢様、不意打ちは反則です...


 鼻血をキレイに拭いた後、私はミナお嬢様がさっきまで寝ていたベッドにダイブする。


「スンスン...クンカクンカ...フガフガ...あぁ、ミナたんの香りに包まれる~♪」


 これが私の至福の一時である。毎日の癒しでもある。


 ...ただ昼食にはレバーを食べようと思った。



◇◇◇



 夕方、ミナお嬢様が帰宅された。


 私は部屋着に着替えるのを手伝った後、紅茶を淹れる。ミナお嬢様はダージリンがお好みだ。


 そして夕食前にメインイベントが待っている。


 そう、お風呂タイムであるっ!


 私はヨダレを溢さないよう苦心しながら、ミナお嬢様の服を脱がしていく。恥ずかしがるミナお嬢様に魔法の言葉「職務ですから」を囁きながら。



 そしてついにミナお嬢様が生まれたままのお姿にっ!



 あぁ、神よ。感謝します。


 私は興奮と鼻血を抑えようと歯を食い縛り、まずは髪から洗い、徐々に下の方へ...私の手がお胸に達したあたりでミナお嬢様から「んふっ」という可愛い吐息がっ! そして更に下の方に手を伸ばすと...「んあっ」という悩まし気な声がミナお嬢様から漏れて...


 私はもう限界に近かった。それでも何とかミナお嬢様の体を洗い終わり、髪を乾かした後、自分の部屋に戻って、


「ブッホォォォッ!」


 本日、二度目の鼻血大放出である。さすがにこれはヤバい...スッポンの血でも飲むか...いやあれは高くて無理。しゃあない、マムシドリンクでも飲んでおくか...


 私の体はいつまで持つだろうか...



◇◇◇



○月○日


 

 今日は週に一度の我が主への報告の日である。


 深夜、私は足音を忍ばせて、主の部屋へ向かう。


「シャロン様、マリーです」


「待っていたわ。お入りなさい」


 シャロン様はネグリジェ姿で出迎えてくれた。うん、めっちゃエロいっ!


「それで例のブツは?」


「はい、こちらに」


「あぁ、ミナたんっ! スンスン...クンカクンカ...フガフガ...最高っ!」


 ミナお嬢様の使用済み下着を、シャロン様が恍惚の表情を浮かべて抱き締めている。うん、気持ちは痛い程良く分かる。私も2セット持っている。家宝にするつもりだ。


 さすがに何度も下着を新品に換えると、ミナお嬢様に不審がられるので最近は控えてるが。


 ちなみにミナお嬢様が使っていたサラシは、2枚ともシャロン様に取られた。血の涙が出そうになったが主の命令には逆らえない。


 興奮状態になったシャロン様の部屋から出て、ミナお嬢様の部屋に戻る。


 小さな主人はもう寝てるだろう。部屋をそっと覗いてみる。安らかな寝息を立てている寝顔に癒される。それを明日への糧として、これからも頑張っていこうと思う。



 ...あ、新しい下着買っておかないと...




■■ イライザの業務日誌 ■■



□月△日


 

 私がミナ嬢を初めて意識したのはこの日だった。


 最初の印象は、やけに小さい子が居るなと思った程度だった。


 私はいつものように、黒板に問題を書いた。出席簿順に彼女の番だったので、前に出て解くように指示した。


 彼女は前に出て来て固まっていた。それ程難しい問題を出した訳じゃないのに、この子には無理だったのかな? と思ってたら違った。


 物理的に手が届かないのだ。


 それに気付いた私は申し訳なくて、席に戻るように言おうとしたら、なんと彼女は爪先立ちして答えを書き始めた。足がプルプル震えてさぞキツイだろうと思った私は、せめて抱き上げてあげようとして手が止まった。


『YESロ○ータNOタッチ』


 何故かこの謎のフレーズが頭に浮かんだのだ。


 そして目の前で必死に答えを書いている彼女を急に「尊い」と感じていた。

 

 彼女は答えを書き終えると私を一睨みして席に戻っていった。ちなみに正解だった。



◇◇◇



△月□日



 あれから何度か出席簿順を無視してミナ嬢を指したが、全て席上で口頭で答えられてしまう。それも全て正解。あの日以来、前に出て来てくれなくなってしまった。あの尊い姿をまた見たいのに...


 ミナ嬢成分が足りなくなってきた私は、本来の担当ではなかったが、学力テスト時の記録水晶の映像チェックを手伝うことにした。ミナ嬢の姿を探す。居たっ!



 あぁ、眉間に皺を寄せて考えてる姿のなんて尊いことっ!



 私は仕事を忘れ、ただミナ嬢の姿だけを見ていた。


 その後、あろうことかミナ嬢にカンニング疑惑が掛けられ、弁護する為に記録水晶の映像のことを事細かに話した。感謝されると思ったら何故か引かれた。なんで?



◇◇◇



○月△日



 今日もミナ嬢を指したが、やっぱり口頭で答えられてしまう。しかもまた正解。習ってないどころか、これからも習う予定の無い高等数学の問題だったのに...ぶっちゃけ私だって解けない。


 次こそはミナ嬢に口頭じゃ解けない問題を用意してやるっ! 


 そしてあの尊い姿をもう一度っ!


 私はリベンジに燃えるのだった。





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