第3話 ちみっことツンツンメガネ
やっとの思いでバカップルから解放されたアタシは自分の教室に戻ってきた。
あぁ、疲れた...いやマジで勘弁して欲しいわ...
「ミナちゃん...お疲れ様...今日も大変だったね...」
「ミナちゃん...顔色悪いよ...大丈夫?」
「ミナちゃん...甘い物でもどう?...アメちゃん食べる? クッキーもあるよ?」
「みんな、ありがとうね」
アタシに対するクラスメイト達の態度は同情、憐憫入り混じった感じではあるが、概ね好意的と言って良いと思う。少なくとも嫌われてはいない。あとやたらお菓子をくれる。子供扱いあるいはマスコット的扱いなのは仕方無いと思ってもう諦めているし、変態的なスキンシップをしてこないだけアイツらより余程マシだと思っている。
それにしても...ヒロイン編入前だからなのかな? あの二人があんなに仲良くしてるのって...ヒロインが編入してきてゲームが始まったら、アタシの記憶の中にある王子様と悪役令嬢みたいに啀み合うようになる? いや、ちょっと待てよ? アタシはゲームの設定に関して記憶を掘り起こす。
アルベルトとシャロンは子供の頃から政略による結婚を義務付けられて育った。貴族として生を受けた以上、割り切るしかないと諦観していたアルベルトに対し、シャロンの方はアルベルトに本気で惚れ込んでいた。
公爵令嬢として蝶よ花よと育てられた結果、シャロンは我儘で高飛車で高慢な令嬢になってしまった。その上、王子の婚約者ということを笠に着て傍若無人に振る舞いだした。嫉妬深く少しでもアルベルトに近付いた令嬢には容赦なく攻撃を加えた。物理的にも精神的にも。まさに悪役令嬢と言えるだろう。
そんなシャロンに対しアルベルトはすっかり辟易してしまい、学園に入る頃には既に冷えきった関係ではなかったろうか? そんな心の隙間にヒロインが入り込むというストーリーだった気がする。
翻って今の二人はどうか? シャロンの性格がゲーム通りの悪役令嬢なのかは分からないが、少なくともアルベルトはゲームの時のようにシャロンを嫌ってる風には見えない。ゲームとは展開が違ってきている? アタシの存在も含めて?
アタシは頭を振って思考を止めた。まだ始まってもいない内からあれこれ考えても仕方無い。ヒロインが編入してくるまであと約三ヶ月、それまでは何も起こらないだろう。それにアタシはゲームのストーリーに関わりは無いはずだ。次の授業の支度をしながらアタシはそう思っていた。
◆◆◆
「は~い、じゃ~ この問題を~ ミナさ~ん、前に出て解いてみてね~」
やたらと語尾を伸ばしながら、舌っ足らずな口調で身をクネクネさせているコイツは、数学担当の女教師だ。うん、ハッキリ言ってキモい。
「...ここで答えます」
「ダメよ~ ちゃんと前に出てきてくれなきゃ~」
「...x2+y2+3xy=5、x2+y2−x+y=1...」
「あ~ん、いけず~ でもさすがね~ 正解よ~」
誰が前に出るかいっ! この女教師、わざと黒板の上の方に問題を書きやがる! アタシが答えを書こうと背伸びして足がプルプルしてるのを見て「尊いわぁ~」とかホザいて恍惚としてやがる! そんな変態を喜ばしてたまるかってのっ! あんな屈辱は一度で十分だってのっ!
フフフン、ざまぁみろ! してやったりとアタシが得意げでいると、なにやら冷たい視線が横の方から。見ると氷の貴公子ことエリオット・カーライルがこっちを睨んでる。
アタシなんかしたっけ?
~~ 一ヶ月後 ~~
今日は学力テストの日だ。懐かしい響きだなぁ~ 学生時代を思い出すよ~ 教師になってからは出題する側だったからね~ よ~し一丁気合い入れますかね!
この世界の教科は国算社理それに外国語。外国語は隣国の言葉らしいんだけど、アタシの場合転生特典なのかこの世界の言葉はどれも日本語に聞こえるんで無問題。国語が二つあるようなもの。その他の教科も日本で言えばせいぜい中学程度のレベルなんで楽勝だね!
だから結果は当然こうなる訳よ。
1位 ミナ・バートレット 500点
2位 エリオット・カーライル 451点
3位 アルベルト・フォン・アルタイル 440点
4位 シャロン・スカーレット 435点
・ ・ ・
・ ・ ・
・ ・ ・
おっ! 2位は順当として、あのバカップルやるじゃん! 王子はともかく悪役令嬢は頭カラッポだとばっかり思ってたよ。いやいや失敬失敬。もうバカップルなんて呼んじゃいけないね!
「ミナちゃん、凄~い!」
「頭良いとは思ってたけど凄いね~!」
「ミナちゃん、おめでとう~!」
「「おめでとう~!」」
「ありがとう~」
クラスメイト達からの賛辞、素直に嬉しいもんだね~ 転生して良かったかも~
なんて感動に浸ってたら、それをぶち壊す声が。
「こんな結果は認められないっ! ミナ・バートレット! 貴様カンニングしたなっ! じゃなきゃ僕が貴様なんぞに負けるはずが無いっ!」
「は?」
エリオットが叫んでいた。
カンニングだぁ? 聞き捨てならんぞ小僧! 元教師のアタシに向かってなんてことホザきやがる! いいだろう、その喧嘩買ってやんよ! その代わり吐いた唾飲まんとけよ!
「証拠はあるんですか?」
「フンッそんなもの、お前の使ってた机を調べれば一発で分かるだろう!」
あぁ、前世で言う所の「内職」ってヤツね。机にコッソリ教科書の内容を書いておくっていう。でもねぇ...
「お忘れですか? 我々がテストを受ける際、教室を移動したことを。筆記具しか持ち込みが許されない状況でどうやって机に細工すると? どの机に座るのかも事前に知らされないのに?」
そう、この学園って貴族が通うだけあって無駄に広い。空き教室も沢山ある。だからテストの時は不正を防ぐ意味で教室を移動するんだよね。ってか、自信満々に人のことを告発しといて、こんな初歩的なことにも気付かないってコイツもしかしてそんな賢くない?
もっと言えば確たる証拠も無しに人を貶めるってバカなの? アホなの? 死ぬの? どんだけテンパッてんだか知らないけど、お粗末にも程があるよね。
「じゃ、じゃあアレだ、隣のヤツの答案を盗み見したんだっ! そうに決まってるっ!」
「私の成績が一番良いのですが、どなたの答案を盗み見る必要があるのでしょうか?」
「うぐぐっ、そ、それはっ!」
ほらほら、もうネタ切れでしょ? 素直に謝っちゃいなよ? 今なら土下座で許してやんよ。
「そ、そうだっ! きっと制服にカンニングペーパーを隠していたんだっ! そうに違いないっ!」
おぉ、なんとかひねり出したね~ 偉い偉い。でもねぇ...
「いや、それは無いな。テストの時、俺はたまたまミナの後ろの席だったんだが、ミナに怪しい素振りは一切無かったぞ?」
「アルベルト殿下!?」
あれ? 殿下後ろに居たんだ? 全然気付かなかったよ。これも不正を防ぐ一環で、仲の良い人達を一ヶ所に固めないようクラスをシャッフルするんだよね。だからクラスの違う殿下が近くに居たんだ。
「私も隣で見ていたから間違いありませんわ。ミナさんは不正など行っておりません」
「シャロン嬢まで...」
...をいっ! お前らちゃんとテストに集中しろよ! アタシは隣に居たのも気付いてなかったぞ! いや、お陰で助かってるけどさ...なんかこうモヤモヤするっていうか...
「で、でもお二人ともずっと見ていた訳じゃないでしょう?」
うわぁ、往生際悪いねぇ。ってか引くに引けなくなった感じ?
「いや? ずっと見てたぞ? お陰でテストの方は散々だった」
「私もですわ。眉間にシワを寄せて考え込むミナさんのなんて尊いこと! テストどころじゃありませんでしたわ!」
「なにそれ! 俺も見たかった~!」
...おいバカップル! お前らやっぱバカップルだわっ! 見ろよエリオットの顔色。そんなお前らとほとんど差がなかったから真っ青になってんじゃん! 少しは空気嫁っ!
「そ、それでもお二人が目を離した隙に...」
おいおい、大丈夫かエリオット? なんかプルプル震えてんだけど!?
「そこまで言うなら記録水晶で確認するか? 学園長に許可して貰う必要があるから時間掛かるけどな」
殿下が言ってる記録水晶ってのは平たく言えば監視カメラ映像のことだ。魔道学園というだけあってこういう便利な魔道具を使ってる。もちろん、普段なら簡単に許可は下りないが、王族の殿下が言えば早いだろう。
「あら~ その必要は無いわよ~ ミナさんに不正は一切無かったわ~」
「「先生っ!?」」
「ついさっき、映像を見終えた所よ~ ミナさんの可愛らしい姿は眼福ものだったわぁ~」
「せ、先生っ! 俺にも見せて貰えません!?」
「わ、私も見たいですわっ!」
をいっ! お前ら色々と台無しだろっ!? どーすんだよこの空気! あれ? エリオットどこ行った? 居たたまれなくて逃げたか? 謝罪の言葉も無しに?
ふざけんなよっ!
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