第2話 ちみっことバカップル
情報を整理しよう。
まずこの世界『星の乙女と煉獄の王』通称『セイレン』には三人の攻略対象者が存在する。
その一人目が今、壇上に居る第二王子の『アルベルト・フォン・アルタイル』外見は金髪碧眼の正統派キラキラ王子様スタイルだが、中身は腹黒である。
二人目が公爵である宰相の子息で『氷の貴公子』の異名を持つ『エリオット・カーライル』銀髪に銀のフレームの眼鏡を掛けたインテリ風のツンデレである。
三人目が侯爵である魔道騎士団長の子息でワンコ系キャラの『シルベスター・ホプキンス』亜麻色のふんわりとした髪に小柄で可愛らしい小動物系の外見は、癒されると女子に人気である。ちなみに前世のミナのイチオシでもある。
さて、攻略対象者が三人というのは乙女ゲームとして少ないと思われるかも知れないが、それはこの『セイレン』が乙女ゲームとして画期的? なシステムを導入したことによる。
なんとこのゲーム、最初に攻略対象者を選ぶ所から始まるのだ。要するに王子ルートなら王子以外攻略不可で逆ハーエンドも無ければマルチエンディングも無い。それは乙女ゲームと言えるのか? とネット上では賛否両論あったが、前世のミナは面白そうだと思って購入した。
なお、それぞれのルートは全て攻略内容が異なる。王子ルートなら対戦型の格闘ゲーム、所謂『格ゲー』をクリアする必要があり、前世のミナは苦手にしていたので、あまりやり込んでいなかった。なんとか一度クリアするのがやっとで、やり込めば出てくる隠れキャラの隣国の王子を見ることは出来なかった。
氷の貴公子ルートは戦略シミュレーションゲーム、ワンコ系キャラルートは普通のRPGで、前世のミナはどちらもやり込み、それぞれの隠れキャラを見ることが出来た。ちなみに氷の貴公子ルートでは第三王子、ワンコ系キャラルートでは伝説と謳われた大魔道師が隠れキャラだった。
どのルートでもヒロインとなるのは『アリシア・スピアーズ』で黒髪黒目の清楚系美女である。ただし、ルートごとにそれぞれの立ち位置が異なる。王子ルートでは平民の特待生、氷の貴公子ルートでは侯爵令嬢、ワンコ系キャラルートでは伯爵令嬢と、王子ルート以外ではそれぞれ家格が釣り合う設定になっている。
それは何故か? 実はこのゲーム、所謂悪役令嬢が登場するのは王子ルートのみで、他のルートでは最初、ヒロインは攻略対象者に敵視というかライバル視されているからだ。そこからレベルを上げていき、徐々に攻略対象者に認めて貰えるようになり、最後は手に手を取り合って『煉獄の王』と対峙するというストーリーになっている。
ちなみに王子ルートのみ現れる悪役令嬢が今、壇上の王子に熱い視線を送っている『シャロン・スカーレット』公爵令嬢である。燃えるような赤髪を縦ロールに纏め、やや吊り上がった黒目は意志の強さと迫力を感じさせる美女である。
このシャロンが送り込んでくる刺客を全て倒さないと王子の愛を勝ち取れない。最初はクラス内模擬戦、次に学年対抗戦、更に学園選抜戦と。徐々にステップアップしていき、最後には王国の四天王と対決するという。
どこまで脳筋なヒロインなんだよっ!? って突っ込んだのは良い思い出である。四天王を倒し見事王子の愛を勝ち取ったあとは、手を携えて『煉獄の王』を倒しに行くというストーリーである。
さっきからちょくちょく出てくる『煉獄の王』とは要するにラスボスのような存在で、ストーリーの終盤、ヒロインが『星の乙女』になる為に必要な『星力』に目覚めないと勝てない仕様になっている。その為に攻略対象者達と絆を深め合っていく必要がある。
ヒロインがどのルートに進むのか、現段階ではまだ分からない。何故ならヒロインはまだこの学園に通っていないからだ。
この魔道学園『シリウス』はその名の通り魔道を学ぶ為の学園である。魔力が無い者は例え王族であっても入ることを許されない。逆に魔力があれば平民でも入ることが出来る。
一般に平民より貴族の方が魔力持ちは多い傾向にある。更に同じ貴族であっても高位になればなるほど魔力持ちは多く、より強力な魔力持ちが生まれ易くなると言われている。
王族ともなれば尚のこと顕著になる。過去、王族で魔力無しだった者は一人も居ない。唯一の例外が隠れキャラである第三王子で、氷の貴公子ルートではその理由が明らかにされる。
魔力には属性がある。一般的なのは火、水、風、土の所謂四属性で、その他に希少な闇属性、聖属性が存在する。
魔力が発現するのは個人差がある。子供の頃から発現する者も居れば、ある日突然発現する者も居る。ヒロインは後者の方で、一学期の終わり頃に学園へ編入してくる。
珍しい聖属性持ちとして。星力に目覚める者はこの聖属性持ちが多く『星の乙女』になることを期待されて入学してくる。
翻ってアタシの立ち位置なんだけど、これがどうにも良く分からん。ヒロインのお助けキャラ的な位置でも無いし背景のモブキャラでも無い。そもそもこんなキャラのスチルは無かった。あったら記憶に残ってるはずだ。
大体、15歳なのに10歳児並みの体格って時点で何かおかしい。容姿はピンクブロンドのふわふわした髪にエメラルド色の瞳。顔立ちは整っていて、普通に成長していればヒロイン並みの美少女だったかも知れない。不本意ながら今は美幼女って所だろうが...
それ以外、例えば魔力の属性は珍しくも無い土属性だし魔力もそんなに強く無い。身体能力も平凡な(これも不本意ながら)10歳児並みで特出した所も無い。
転生者なんだから何かしらチートっぽい能力でもあるのかと思えば、特にこれと言った特技がある訳でも無い。要するに無い無い尽くしなのだ。自分で言ってて情けなくなるが...
だったらせめて目立たないように大人しくしていようと思ったんだけど、どうも入学式で大泣きしちゃったのをあの二人に見られていたようで...面倒なことにしっかり目を付けられてしまった。
◆◆◆
「あのシャロン様...」
「なあに?」
「この体勢はさすがに恥ずかしいので降ろして頂けると助かるのですが...」
「気にしなくていいのよ~♪」
いや、気にするわっ! なんで膝の上に抱えてんだよっ! 周り中の視線が痛いわっ! さっきからの「あ~ん」攻撃で食堂中の視線を釘付けにしたってのに、これ以上はホント勘弁してくれっ!
「い、いやでも重いでしょう?」
「全然重くないわよ~♪ そんな事より~♪ スンスン...クンカクンカ...フガフガ... あぁ、なんて良い香り~♪」
匂いを嗅ぐな匂いをっ! 変態かっ! 変態なのかっ!
「あ~いいな~! 俺も抱っこしたい~! シャロンばっかりズルい~!」
変態もう一人居たっ! なんだコイツら! 二人仲良く変態飛行かっ!
「さすがにアルベルト様はマズいと思いますわよ...」
いや、あんたもだよっ! いい加減降ろせぇぇぇっ!
「う~ん...そっか...それじゃしょうがないか...ナデナデ...スンスン...クンカクンカ...フガフガ... あぁ、なんて良い香り~♪」
頭撫でるなっ! 髪の匂い嗅ぐなっ! ロ○か!? ロ○なんか!? ロ○やろぉ~!
「はぁ~ このままお持ち帰りしたいですわぁ~」
「それいいな! このまま後宮に閉じ込めて...グフフ♪」
怖いわっ! それを実現可能な権力がっ!
「「ミナたん、ペロペロ~♪」」
いい加減にしろっ! このド変態バカップルがぁぁぁっ!! !
あぁもう! なにがどーしてこーなった!?
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