やまない雪

 雪の降りしきる空を、僕は見上げた。


 どうして雪はやまないんだろう?


 どうして冬は終わらないんだろう?


 いつになったら春は来るんだろう?


 僕が気づいたときから雪は降っていて、いっこうにやむ気配はない。


 なんでだろう?


 不思議な、やまない雪。


 雪がやまないと、なんだかさみしいな。


 おや?


 誰かがやってきたぞ。


「やあ」


「どうも……」


 にこにこと笑っている。


 どうしてだろう?


 なんだか、気味が悪い。


 こんなに雪が降っているのに。


「どうして君は、笑っているんだい?」


「うれしいからだよ」


 ますます不気味だ。


 雪がやまないのに、うれしいだなんて。


「君こそ、どうしてそんなに悲しい顔をしているんだい?」


「空を見ていたからだよ」


「どうして空を見ていると悲しいんだい?」


「雪が降っているからだよ」


「雪? 雪なんか、降っていないじゃないか」


 この子は本当に大丈夫なんだろうか?


 こんなに雪が降っているのに。


 この雪が見えないのか?


 このやまない雪が。


 それとも、「雪」の意味がわからないのかな?


「あれを見てごらん」


 その子は遠くのほうを指差した。


「え……」


 木、木だ……


 大きな木……


 真っ白な花が、満開に咲いている。


 その花びらが、乱れ飛んでいる。


 あの木は、いったい……


「桜の木だよ」


「えっ……」


「君が雪だと思っていたものは、雪なんかじゃない。あの桜の木の花びらなんだよ」


「そんな、じゃあ……」


「うん、冬はもう終わったんだよ。いまはすっかり春さ」


「そう、だったのか……」


「行こうよ!」


 その桜の木に向かって、僕たちは勢いよく走り出した。

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