第13話 甲賀君には分からない

 徐々に視線に慣れている節はあるが、流石は間宮さんだ。

 待ちゆく人の視線を釘付けにして俺には嫉妬の視線が集中するという芸能人レベルの扱いを自然と受けている。


 ……今度からは絶対に服装をもう少し気にして外に出る事を心がけよう。


 「甲賀君?さっきから少し挙動がおかしいけど大丈夫?」


 「もう大丈夫。少しだけ緊張してたけどもう慣れたから」


 「……?」


 間宮さんは意味が分からない様で首を傾げていたが、深く問い詰める気はないのか何も言わずに歩いて行くので俺も隣に付いて行く。


 「大丈夫なら今日の予定はどんな感じか考えてる?」


 「何処か行きたい所があるなら間宮さんを優先しても良いよ。家具屋は荷物も多くなるだろうし欲しいものがあるなら先に買った方が良いと思うし」


 「…うーん、私はクレープを食べたい気分なんだけど流石に速すぎるし朝だからね。荷物も増えないだろうし、先に家具屋に行こうか」


 「そうしようか。予定としては布団は必須だからね」


 これ以上間宮さんと寝る日々を過ごせばいつ俺の理性が崩壊するかも分からない。

 昨日の漫画を熟読して気を紛らわせよう作戦は上手くいったがこの先も大丈夫だという確証は一つもない。



 「…今朝連絡してみるともう家にあった布団は全部捨てられたと聞かされた時は絶望したなぁ。仕方ないけど、布団は確かに必要だね。シングルベットだと小さいからね」


 「…まるで、俺と間宮さんが寝る前提で話すの辞めない?」


 「あれ?バレちゃった?」


 可愛らしくクスクスと笑みを浮かべる間宮さんの姿は可愛らしいが小悪魔にしか見えない。

 悪い言い方をすれば歯についている虫歯菌の格好をして常にからかわれているようなものだ。


 俺の目標として今回の家具屋で歯医者の治療と同じく今後からかわれる要素を少しでも削減して生活するのが一番だ。


 「…着いたし、最初にベットを見に行く?」


 「そうだね」


 間宮さんの借金を肩代わりして二億円ほど消えたが、まだ手元には一億円はあるのだ。

 好きなベットや家具を買うにはもってこいだ。


 残ったお金は全部本に使うつもりだが、一気に買った所で置く場所も無いので今は必要な物を買うことに専念しよう。


 「甲賀君が私と一緒に寝るベットを率先して探してくれることに感激だよ」


 「段ボールを買う準備をしないとね」


 「ねえ?冗談だよね?私も流石に段ボールはきついよ?」


 「さあね」


 間宮さんが不安げな表情を見て少しでもからかいに対する仕返しが出来て満足できたので二階に上がりベットを拝見できる所に歩いて行けば色々と種類もあれば、下地の硬さや大きさなどが数多く存在している。


 今まで使用していたのは家から贈って貰ったベットなので今まで気にしたことも無かったが、流石に中学生の頃から使用して約五年の月日が経っているので変え時だろう。


 「私は布団で十分だし、甲賀君はベットでも買ったらどう?」


 「俺こそ布団でも全然眠れるし、間宮さんにベットを買うよ。今まで食費を払ってもらった恩も有るし」


 「……食費って三日分だし、しかも三千円をもいってないよ」


 間宮さんから呆れられた目を向けられるが、俺だけがベットで寝て間宮さんを布団で寝かせるのも忍びないし、布団であろうとベットでも眠れる俺は正直に言うとどちらでもいいのだ。


 「やっぱり二人で寝る?」


 「勘弁してくれよ」


 間宮さんの言う通り二人で同じベットを使うのが両方が納得出来る最適解ではあるが本当に理性が崩壊するぞ?

 狼になって襲っても大丈夫と言うのならベットで良いけど絶対に駄目だよな。


 「もう恥ずかしがり屋だなぁ。私は全然…き、気にしないし」


 「ん?間宮さん?」


 急に歯切れの悪い返事をする間宮さんの方を見ると、ハッとした様に目を見開き顔が真っ赤に染まりあがっている。


 「な、何でもないよ。ベットは色々と意見もあるだろうし違うの見ようか!」


 「へ?う、うん」


 何故か急に慌ただしく無理のある会話の変更に驚きながらも首を傾げて間宮さんに付いて行く。

 ……見たことない顔をしていたな。


 人をからかっている時の悪魔的な笑みや、素顔は見たことあったが赤面している間宮さんを見るのは初めてだ。

 怒っていると言うよりは少し恥ずかしがっているようにも見えたが、何が起きているのかはさっぱり分からない。


 「うーん、やっぱり服とか色々と仕舞うタンスが欲しいな」


 「まあね。何時までもキャリーバックに入れている訳にはいかないよね。だけど、置く場所があったかどうか…」


 俺の家は一軒家でも無い普通のアパートだが引っ越しを検討するべきか?

 しかし、間宮さんがそんなことするなと注意しそうだし無理があるか。

 壁際にまだ余裕はあったので、後は本棚を少しだけ台所かトイレに持って行けばタンスが入る可能性は高い。


 「無理だよね。私は今まで通りキャリーバックの中に」


 「買おう」


 「え?」


 「勿論俺が払うよ。流石にベットは間宮さんも申し訳ない気持ちがあるだろうし、タンスは俺が買うよ。これでいい?」


 真っ白に塗られた木材の三段のタンスを指差せば間宮さんが首肯してくれたので店員さんに声をかける。


 「すみません。このタンスを下さい」


 「分かりました。郵送しましょうか?」


 「お願いします。住所を書きますね」


 店員さんが用意してくれた紙に手際よく書いて、色々と説明を聞いてお金を払って完了した。


 「終わったよ」


 タンスの方を眺めている間宮さんの所まで行くが、少しだけ間宮さんは呆気に取られた表情をしていた。


 「…甲賀君って何でも行動が速すぎるよ」


 「俺は素早く行動するタイプだからね。買いたいものが決まったら直ぐに買うのが俺の行動だから」


 次々に考え出せばきりが無いし自分が良いと思ったものを直ぐに買うのが俺のモットーだ。


 「あのさ、私がここでタンスを見て思ったんだけどこれ入るかな?」


 「それは大丈夫だと思うよ。頭の中で物の配置を考えればタンスは置けるのは想定済みだよ」


 自信満々に呟くが間宮さんの表情は晴れずに俺の方を苦笑い気味で見ている。


 「いや――布団が二つも入るかなって」


 「――――え?」


 そう言えば…俺の家に布団が二つも入るスペースって無いような…。

 

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