第12話 間宮さんはすっぴん

 パチリと不意に覚醒する目が朝だと知らせ、ゆっくりと身体を起き上らせる。

 ベランダから見える日光の光に無意識に手で押さえながら片手で背伸びをする。


 「朝か…」


 ご飯などは手抜きで不健康な生活の様に思えるが、俺の今までの経験則から早寝早起きは心がけているおかげで、目覚まし時計が無くても余程疲れていない限り同じ時間に起きることが出来るようになったのだ。


 「甲賀君、朝早いね。おはよう」


 台所の方から良い香りを醸し出しながら今までと同じくピンク色のエプロンを着た間宮さんが姿を現して目覚めの言葉をかけてくれる。


 「おはよう」


 不思議な感覚だ。

 何時もの土日なら何もない自堕落な生活の始まりで寝ぼけた表情で朝ご飯を適当に食べながら漫画を読む日々であったのに、今日はやけに気持ちのいい朝で今日も一日頑張ろうと思えてしまう。


 「朝はご飯?パン?」


 「うーん、どちらでも良いけど昼も夜もご飯を食べるから朝はパン派かな」


 食事には頓着が無かったので俺はパンの日もあればご飯の日もあるが、最近はカレーライスも食べたし昨日の夜ご飯では白ご飯を二杯もお代わりしたので今日は無性にパンが食べたい。


 「両方とも一応用意は出来てるから食パンに苺ジャムでも大丈夫?」


 「全然大丈夫」


 ゆっくりと思い腰をあげてリビングに入れば既にリビングのテーブルの上には苺ジャムとパター、香ばしい匂いを醸し出す食パンが用意されていた。


 「一応、ご飯用にお味噌汁も作ってるから足りなかったら食べてね」


 「何から何まで助かるけど……」


 俺ってこんなに食料を買っておいたっけ?

 一昨日は突然の間宮さんの来訪に、昨日は料理の美味しさに何も考えることが出来なかったが、今更ながらに思ってしまった。


 俺は普段からカップラーメンしか購入していないことに。

 食パンなんて買わないし、朝はそもそもコンビニで買えるゼリー飲料か菓子パンで食パンも苺ジャムも無い。


 「どうかした?」


 「…この食材はもしかして」


 「私が引っ越してきた後に購入して来たものだよ」


 「ですよねー」


 分かってはいたが全部間宮さんが購入していたのか。


 「全額を俺が払うとは言わないって昨日決めたし半分は支払うから」


 「うーん、レシートも無いし今回は私が払うから今日欲しいものがあったら甲賀君が驕ってくれるって言うのはどう?」


 「…まあ、それで良いか」


 少しだけ誤魔化されている気もするが、朝から考えるのも億劫なので手を会わせてバター、苺ジャムを食パンに付けて食パンに噛みつくと…美味しい。

 絶品料理かと錯覚するほどに美味しいし、懐かしいからか少しだけホテルの朝食を取っている気分だ。


 「――――ごちそうさま」


 再度手を合わせて今日も大変美味しい料理を作ってくれた間宮さんに感謝の念を込めて食器を片付ける。

 今まで食器を片付けることも無かったが、中々に新鮮な味わいで悪くない。


 「今日はどういう予定か考えてるの?」


 「うーん、取り敢えず家具屋で色々と今後に必要な物を買った後は漫画を読むことしか考えてない」


 「…本当に甲賀君の頭の中は漫画で一杯だね」


 「勿論」


 馬鹿だが漫画を好きな気持ちだけは変わらない。

 因みに俺は土日に友達と遊ぶ予定はない。

 それぞれ、土日は撮り貯めをしていたアニメを見る、ラノベを読むなど自分たちの欲求に素直に生きているのが俺の友達だ。


 土日に遊ぶ暇など無いと言わんばかりの休日を謳歌しているので誰も誘わないし、遊ぶ気も無いのだろう。

 しかし、仲が悪い事も無く俺達は土日に自分たちの欲求を発散しているので平日の放課後に集まって土日に見た物や自分のお勧めをする談義をしているのだ。


 昨日は間宮さんの料理を早く食べたくて辞めたが月曜日には顔を出す様にしよう。


 「私も絶対に欲しいって訳ではないけど、折角だし色々と見て回りたいんだけど良い?」


 「早速気を遣わないでくれて嬉しいよ。俺は土曜日は別に潰れても日曜日で保管できるし幾らでも出かけよう」


 間宮さんも嬉しいのか笑みを浮かべてその場から動かない。

 ん?

 何だこの雰囲気は。


 「あ、あのー。出掛ける為に着替えたいんだけど」


 「ご、ごめん!!俺は洗面所に着替えがあるから終わったら言って欲しい!!」


 当たり前のこと過ぎて何も考えてなかった!!

 今のは完璧に早く着替えないかと着替えを覗き見る変態の所業だ!


 何時も弄る間宮さんでさえ少し苦笑いを浮かべてしまう程の馬鹿な事をしてしまった。

 まだ、普通にからかわれた方がましだ。


 これ以上恥ずかしさが増さないように気を紛らわすように適当な服に着替えて顔を洗って熱を冷ます。


 「…これ以上黒歴史が増えないようにしよう」


 「何時、黒歴史が出来たの?」


 「うお!?」


 鏡と睨めっこをしながら決意を固めていると、鏡越しに間宮さんがドアから顔を出しているのが見えた。


 「え!?もう着替え終わったの!?」


 「うん。私は化粧品ももってないし、服を着替えるだけだから」


 ……うそーん。

 世の中の殆どの女子が絶句しそうな爆弾を投下しながら間宮さんは靴を履いている。


 服装は濃い緑色のロングスカートに白の長袖、スカートと同じ色のカーディガンを羽織り、腰には細く見えるような何か良く分からない物が軽く巻かれ、ベルト代わりとしても役に立っている気がする。

 女子の服装は俺にはいまいち分からないが、普通に可愛い。


 「良し、甲賀君、早速行こうか」


 「そうだね」


 美少女の間宮さんに比べて俺は黒のズボンに黒のパーカーの根暗な印象が際立つ服装だ。

 今まで服装には全く興味が湧かなかったが今後は間宮さんの隣に立つので服装に気を付けて行動しよう。

 似合わないって言われても今の俺には文句が言えないのだから。


 世の中の男性に伝えよう。

 女の子と出かける時は絶対に服装を確認してから出よう。

 お似合いでないと凄い目で見られるのを実感してます。

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