第7話 甲賀君はシリアス展開にさせない
間宮雫。
甲賀君が洗面所で歯磨きをしている間に私は颯爽とベットの中に入り布団に包って狸寝入りを楽しむ。
同居生活が始まってあっという間の一日が過ぎた。
初めて男性の人と一日を過ごしたが、可愛らしくからかいやすい何かを持っている甲賀君の反応が面白くて飽きない一日だった。
「あれ!?もう寝てるの?」
一人でシリアス展開な回想に入ろうかと思うと、甲賀君が洗面所から歯磨きを終えて現れた。
寝たふりをしているので目では見えないが、甲賀君が布団の前で何度も歩いている足音が聞こえて笑みを零しそうになるのを歯を食いしばって必死に耐える。
「ソファは…だけど、間宮さんの方が朝早くに起きたら絶対に怒るよな…」
当たり前だよ。
もう、今すぐ起きて説教タイムだね。
「……良し」
少しどたばたと音がしながらチラリと薄目にすると甲賀君が大量の漫画を持ってきている姿が見受けられる。
成る程。
考えたね。
自分の理性を制御する為か心を無心にしたいのかの心理は私には分からないが、好きな物を見て心を落ち着かせるのは良いし、寝る前にスマホやテレビなどの光を見て睡眠の質を落とすのではなく、本だからこそ私も文句は言えない。
まあ、甲賀君の場合はそこまで深く考えているわけでも無さそうだし、単純に本が好きだから見てるだけだろうけど。
布団がギシギシと音を立てるのを耳に、密かに隣を見ると私に配慮しているのか明かりは消したまま、ソファに置いていた明かりを付けて漫画を読んでいる姿が見受けられる。
――――彼は何を考えているのだろうか。
私に手を出せば犯罪者になると思っているのか、それとも自分自身が無理やりに行うのを嫌うのか…答えは彼にしか分からない。
二億円を支払ったのも、この家に住んで良いと伝えた言葉の真意も私には分からないけれど…こんなことは初めてで私にとっても驚きの連続だ。
ここで何を考えているのかを全て彼に問いただせば話してくれるのかもしれない。
けれど、私は答えを聞き信用することが出来るのか。
――否、決して出来ないと断言できる。
だからこそ、私はこの家に来たんだ。
頭の中は整理できなくて、けど思考は加速し眠気も全く消えて一人で自問自答を繰り返しているが、回答は見つからない。
「ん?」
明かりが消す音が聞こえて隣を見れば甲賀君が明かりを消して寝息が聞こえてくる。
食事は健康的な物は一切取っていなかったけど、まだ夜の十一時にも関わらず寝入っている姿を見れば早寝早起きは心がけているようだ。
段々と速かった寝息が落ち着き、安らぐように眠る形で落ち着いた息遣いが聞こえてくる。
私はパッチリと覚醒した目で甲賀君を見るが彼は私とは反対に向いているので私に気付くことはない。
少し身を捩り彼に近づいて行く。
私が近づけば彼の気持ちが分かるだろうか。
私が寄り添えば彼の考えていることが理解出来るのだろうか。
手を伸ばそうとして戻して、また伸ばす、同じ動作を何度も繰り返しながらも私の手が彼に届くことはない。
まるで、私たちの距離を測っているようにも思えてしまった。
まだ、出会って二日だ。
慌てる所ではないと自分自身を必死に落ち着かせて手を引き戻した瞬間に――彼が寝返りを打って私の右手が胴体で抑え込まれる。
「え、ちょ」
無意識に近づき過ぎたせいで彼との距離が縮まって寝返りで彼との距離は更に縮まり、顔が直ぐ目の前にある。
「ちょ、本当にこれは」
必死に腕を戻そうと全力を込めるが、彼の体重が私の腕を抑え込み動かすことが叶わない。
「ち、ちかいっ!?」
心臓の鼓動が体全体に響き渡るように警鐘を鳴らし、妙に時計の針の音が耳に浸透していく。
彼が身を捩る度に近づく顔が私の頬を高揚させ、湯冷めした身体に再び熱が灯されていく。
「ん」
「へ?」
甲賀君が再び寝返り遠くなるのを見て私は腕を戻すが、覚醒した身体は全く寝付けず思わず身体を起き上らせる。
――――今、私のシリアス展開的な回想だったのに急に来る!?
起き上りその場でジタバタと暴れ回りたい衝動を必死に抑えながら体の熱を冷ますために洗面所で顔を一度洗う。
「……私の方が眠れないよ」
無意識の行動だとしても彼に気付かれては駄目だ。
私は攻めるのは得意でも――攻められるのは弱いだなんて絶対に知られては駄目だ!
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