第6話 間宮さんはシリアス展開にさせない

 「良し。今日、俺はホテルで泊まるよ」


 「駄目だよ。私は甲賀君の家に来ている訳だし、もしもホテルで泊まるなら私が泊まるよ」


 「いや、泊りを許可したのは俺だし間宮さんの布団事情を把握していなかった俺が悪い。という事で、俺がソファで寝るかホテルに行く!」


 同じ布団で一緒に寝るなんて事は断じてできない。

 ぶっちゃけると一緒の布団で寝て理性が保てるかと言われると絶対に無理だ。

 というより、明日は土曜日なので、明日の事を考える必要は無いのだが寝られる気がしない。


 「私が布団を持って来てたら解決出来た話だし、力のない私のせいだから今日は私がソファかホテルで寝るね!」


 …意外と間宮さんは頑固者なのか譲らない。

 もしくは、俺が頑固なのかは分からないが女の子をソファで寝させて俺がベットで寝るなどと世の中の男性のみならず女性にまで非難の声が上がりそうなことを出来るわけがない。


 「でも、お金はないんじゃないの?」


 我ながら卑怯だとは思うが間宮さんと口喧嘩をして俺に勝てる気がしないので最終手段を使わせてもらおう。


 「大丈夫だよ。アルバイトをしてから少しはお金が有るし、食費だって全額払えてるんだから一日ぐらいはホテルで泊まっても大丈夫」


 胸を張って満面の笑みで呟くが…今、とんでもない発言をしなかった?

 俺の聞き間違い?


 食費を――全額払っているとか聞こえたような…。


 「あ、あのさ、まさかとは思うけどこの二日間の食費って俺の生活費から支払ってるんじゃ」


 「?全部、私が払ってるんだけど」


 「何してんの!?」


 聞き間違いではなかった!!

 衝撃の新事実に夜の寝る場所などとは言っている場合では無かった。


 俺の考えでは母が間宮さんを信じて通帳かお金の場所を教えてそのお金で食費を払っていると思い込んでいたのにまさかの間宮さんが全額負担をしているとは。


 「ちょっとテーブルで二人で話そう」


 「え?私何かしたの?」


 「残念ながら俺の知らない衝撃事実が出てルールを決めないと駄目だなって思ったんだ」


 今の様子を見れば明らかだが間宮さんは自分が支払うのが当たり前だと思っている節がある。

 間宮さんと一緒にリビングに座った所でまずは話し合おう。


 「俺も確認しなかったのが悪いんだけど、食費を全部間宮さんが支払っているとは思わなかったからまずはこの先だけど、食費は全額払うって俺が言うと間宮さんは絶対に反対するよね」


 「うん。するよ。絶対にそれは駄目。そもそも、私は甲賀君に二億の借金を肩代わりしてもらったから食費ぐらいは払いたいなって思うんだけど」


 「絶対に駄目」


 俺の答えとしては家事全般を行ってくれるだけで十分な報酬で二億を支払ったことは間宮さんの為でありながら、自分が後悔しない道を選ぶために支払ったものだ。

 間宮さんに気にするなという方が難しいのかもしれないが、それでも少しでも普通に過ごしたいというのがお金を返すよりも大切だと俺は思えてしまう。


 「間宮さんが感謝してるのは分かるよ。俺も逆の立場なら分かると思うだろうけど、一緒に暮らすと決めた中で一人に負担を強いるような真似はしたくない」


 「……そうだね。なら、今日は一緒に寝ようか」


 「何でそうなるの!?」


 シリアスモード的な形に入ったかと思いきやまさからのラブコメ展開!?

 俺達にシリアス展開は似合わないのかな?

 借金取りの時も俺の勘違いで変な雰囲気になったし、やっぱり物語の主人公的な形は俺には似合わないらしい。


 「誰か一人に我慢を強いるのが嫌なら平等に布団で寝るのが一番だと私は思うけどね。まあ、私はソファでも良いけど」


 「俺がソファで」


 「それは駄目」


 誰から見ても正しい事を言っているのは間宮さんの方だ。

 だけど、一緒に寝る展開は予想外だった。

 考えてもみなかったというのが適切だが当たり前で単純な布団問題に直面することになるとは。


 「分かったよ。俺がホテルに」


 「ホテルも駄目。誰か一人に強いることを禁じるなら甲賀君が私の為にお金を使うのは正直に言って私が申しわけなさすぎるの」


 「ですよねー」


 腹を括るしかない。

 というより、俺の理性を保つのを頑張るしかない!


 「分かったよ。布団で寝よう」

 

 男らしくここはきっぱりと伝えたが、過程が長すぎるのは仕方ない。


 「後、明日は土曜日だからもしも間宮さんに用事が無かったから家具を買いに行くんだけど一緒に行く?」


 「うん。私も欲しい物とか結構あるし、明日にでも一緒に行こうよ」


 間宮さんが喜色に満ちた笑みを浮かべているのは素直に嬉しい。

 美少女をお出掛けに誘うのは気恥ずかしい思いもあったが、それ以上に間宮さんと過ごしていく中で色々と必要な物も出てくるのでその為に買い物はしておきたい。


 付け入る隙が多すぎるのか、これ以上墓穴や隙を無くすためにも家具屋は必須だ。

 このまま過ごせばきっと同じ食器を使ってるから間接キスだねなどと呟くに違いない。


 間宮さんと出会って二日目だが段々と思考が読めている節もある。


 「という事で今日は大人しく寝て明日に備えよう」


 「甲賀君が襲わなかったら早起きできるね」


 「今穏便な形で締めくくったのに何で変な事を言うんだよ!」


 折角互いに意識しないように平穏な形での一日を終えるオチを付けたのに、許さないと言わんばかりの間宮さんの精神的攻撃に思わず顔をテーブルに叩きつける。


 「普通に寝るパターンだったのに」


 「甲賀君の狙いは分かりやすすぎるね」


 「分かってるなら困らしたら駄目だろ!」


 何て良い性格をしているんだ。

 もう駄目だ。


 今すぐ布団に潜って寝れば大丈夫か!?


 「あ、布団に入る前にきちんと歯磨きはしないとね」


 「…間宮さんは?」


 「私はお風呂上りに既にしてきたよ」


 ……俺を陥れたいの?

 それとも誘ってるの?


 この子の気持ちが全然分からない!!


 


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