第4話 間宮さんの悪戯は止まらない
「なあ、今日は漫画談義していかないのか?」
「悪いけど今日は早く帰らせてくれ」
友達に断りを入れて帰路へと立つが、今日からが本番とも言える。
昨日は間宮さんも着替えの服装も何も準備していなかったので家に帰ったが今日から間宮さんが俺と一緒に暮らすのだ。
未だに信じられないが目の前の現象が現実であり、今日も夕ご飯を作ってくれるので早く帰ろう。
いや…全速力で帰らせてもらおう。
今までダラダラと無気力に、また明日も学校かと夕方から憂鬱な気分で帰っていたが足が軽く、スキップでもしたくなるのを必死に我慢しながら全力で走って帰る。
昨日まで二十分かけて帰っていたのを半分の時間で帰れたので一度息を整えよう。
散々、間宮さんには弄ばれたが今日からは俺がきちんとした男として接して普通に過ごすのだ。
「ただいま」
「おかえりなさい」
玄関の扉を開けると間宮さんが少し小走りで現れて満面の笑みを浮かべて出迎えてくれる。
…もう、料理とか掃除などの前にこのおかえりなさいの一言で気が緩んでしまいそうになる。
落ち着け。
俺は甲賀大樹、何事にも動じない精神力を身に付けたはずだ。
「少し早いけどもう夕ご飯の準備も出来てるし、お風呂も沸いてるよ。あ、それとも私?」
「ご飯に決まってるだろ!?」
前言撤回。
俺はまだまだ間宮さんの小悪魔的な発言の耐性は無かった。
あたふたしながらリビングに入れば丁度良い香りが醸し出されている。
「少し考えて二日目のカレーも美味しいかなって思ったんだけど、今日は筑前煮、みそ汁に白ご飯の栄養満点にしたの」
「へえ。美味しそう」
リビングに既に置かれてある料理は一般家庭料理染みているが、その美味しさは期待以上な気がする。
今までカップラーメンやコンビニの弁当ばかりを食べていた弊害かも分からないが涎が溢れて止まらない。
「台所と冷蔵庫を見れば直ぐに食生活が偏っているのが分かったからね。色々と美味しい物を作りたいけどまずは栄養を蓄えないと駄目だよ」
「……はい」
何も言えない正論の言葉に正月に母親が俺の家に来て𠮟りつけた言葉が蘇るが気にしない。
今日から栄養に心がけたらいいよね!
まあ、何だかんだと言いながら手を合わせて料理を食べよう。
最初は興奮したが所詮は筑前煮だ。
普通の料理だし、昨日のカレー程の美味しさは無いだろうな。
「――――!!」
フラグ回収と言わんばかりに目を見開いて目の前の筑前煮をカレーの時と同じく凝視してしまう。
「……な、なんだこれ」
普通の一般料理の筈なのに…格別に旨い気がする。
「美味しいと思えるのは甲賀君が基本その料理を食べてない証拠だし、栄養が偏っているからこそ身体がその栄養を欲しているんだよ」
「へえ」
「更に引っ越しの準備で今日は学校を休んで時間もあったからじっくり弱火で煮込んでこんにゃくにも味が染みわたっていると思うよ」
「食べてみる」
間宮さんの言葉に生唾を飲み込み、こんにゃくを食べると…やばい!!
味が染みわたってただのこんにゃくではなく筑前煮のこんにゃくだと言わしめんばかりの美味しさが漂っている。
「こんにゃくには切り込みや少し炒めることで味を染みやすく出来るお手軽な方法があって今回は両方を使って味を染みやすくしたから余計に美味しいと思うよ」
間宮さんは将来料理人になる器を持っているのではなかろうか。
実家の家庭料理を思わせる風味を堪能しながら炊き立てのご飯を掻き込み、たまに味噌汁を飲んで味直しをする。
……何て完璧な料理なのだ。
一品だけの料理も美味しいが、三つのトライアングルで形成された料理メニューもまた素晴らしく身体の芯から温められている。
「本当は甲賀君の好きな料理とか作ってあげたいけど…流石にあの台所を見て栄養を取らせない訳にはいかないからね。まずは、家庭料理の美味しさを味わってから色々と食べて欲しいなって思ったの」
「最高だよ。筑前煮って今まで当たり前で手ごろな料理と思ってたけど、久しぶりに食べるとこんなに美味しいんだって気付かされるね」
「なら、今日の献立は大成功だね」
「うん」
間宮さんは俺をからかう時のいきいきとした表情は頂けないが、料理や掃除に関しては文句の付けようがない。
美味しすぎてもう胃袋を掴まれて間宮さん抜きでは生きていけない身体へと徐々に変化している気がする。
「あ、そろそろお風呂も焚けるけど入る?」
「え?まだ六時だけど」
何時もお風呂に入るのは八時か九時、まばらに適当に入っているが流石に六時というのは経験が無い。
「私が思うに適当に入るより、もう大体の事を終わらせてから漫画を堪能した方が良いと思うんだよね。漫画を読んでいる時に時計を見て風呂に入ろうかなぁ~って思うより先に済ませておけば時間を気にせずに読めるでしょ?」
何なのかなー。
この完璧美少女は。
俺への気配りを忘れずに全ての下準備を終える家政婦並みの凄さ。
否…もしかしたら既に一般の家政婦の域を超えている気がする。
「だけど、食後に直ぐにお風呂に入るのは厳禁だからね。食後の三十分後まではお風呂に入ると消化不良や胃の調子が悪くなるからね」
「だったら丁度良いかもな。俺が皿洗いをしておくから終わったら入るよ」
「そう言うと思ってお風呂の温度を高めに調整しておいて良かったよ」
先々を見通す力でも持っているのかな?
流石に完璧すぎて引いてしまいそうになるが、有難い話ではあるので素直に感謝の念を抱いておこう。
「ありがとう」
「全然気にしなくて良いよ。私も皿洗い手伝うね」
二人揃って台所に並び食器を洗うのだが…いや、これ間違いなく新婚夫婦だよね?
俺達は付き合ってもいないし、そもそも間宮さんんは美少女で俺に二億の借金を返した恩を感じても惚れることはないだろう。
お金を渡して女性が惚れるのならこの世に付き合っていないカップルなど存在しないからな。
「甲賀君って長風呂派の人?」
「うーん、普通ぐらいかな。早風呂は疲れが取れないから嫌いだし、かといって長すぎてものぼせるから二十分ぐらいで上がるかな」
「私は長風呂なんだよね。一時間ぐらい平気で入るから先に甲賀君がお風呂に入って良いよ」
急に何の話かと思えばお風呂に入る順番か。
「俺は別に後からでも大丈夫だけど」
「あ、もしかして一緒に入りたい?」
この人はビッチなのかな?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます