第28話 リサの事情③

***


「どこから話せばよいのでしょうか……」


 リサは戸惑いを隠せない。なにせ彼女は自分の事情を人に話したことなど無いのだ。それはリサの誇りが許さなかったし、自分の弱みを見せることなど、決してあってはならぬことだと思っていた。一方でアルフィリースをからかうのであれば、立て板に水を流すかの如く彼女は言葉を紡ぐ自信があるのだが――

 口ごもるリサを見かねて、ミリアザールが助け船を出す。


「お主は最初から孤児だったのか?」

「いえ。ごく普通の家庭に生まれて、両親との三人暮らしでした。裕福でも貧しくもなく、ごくごく普通の家庭だったと思われます」

「ではそこから話すとよかろう」


 ミリアザールに促される。そう、確かに普通の家庭だった、はずだ。

 リサの父親は彼女のおぼろげな記憶によると、元々地方からこのミーシアに出稼ぎに出てきていた青年で、よく仲間達とたむろしていた酒場の看板娘であった母親と結ばれたと言っていた。父親もなかなかの好青年だったらしいが、母親はそれは美しい女性で、彼女目当てに来る客で店は繁盛していたらしい。その二人がどうやって馴れ初めたかが、よく家庭では話題になっていた。

 そして結婚してリサが生まれる頃には、父親は仕事ぶりが見込まれ、出稼ぎ扱いではなく正規の人員として雇われた。都市で職を得ることは田舎育ちの者にとっては憧れであり、まさに父親にとって、人生の絶頂期と言ってもよい時期だっただろう。

 母親も酒場は夜が遅いという理由で花屋に転職したが、自分が働き始めてから売り上げが倍以上になったと、自慢話を毎夜のようにリサにしていた。自分が扱う花の種類や名前をリサに教えるのが、母の日課となっていたし、リサも毎日新しい花の名前を教えてもらえるのは楽しみだった。母が一輪ずつ持ち帰る色とりどりの花、かぐわしい匂い、花の名前、その意味。花を一つ知るごとに、世界が一つ広がるようだった。


「とても幸せな家庭でした。週に一度は必ず休みを家族でとって、三人で色々な場所に出かけました。私の髪の色は少し不思議な色でしたが、両親は『とてもきれいな色だわ。リサを見ていると、優しい気持ちになれるの』といつも褒めてくれました。そう、とても上手くいっているはずだったのです。リサがあの一言を発するまでは」


 幸せな家族。人間は自分が幸せであると中々自覚はできないものだが、それでもリサは実感していた。しかし、リサにはどうしても不思議に思うことがあった。そう、なぜか……なぜか、父の首に女がいつもしがみついているのだ。


「首に女が?」


 ミリアザールが尋ねる。


「はい、うっすらとしか見えませんでしたが、母にも劣らぬ美しい人でした。母が明るい美人だとすれば、影のある美人というところでしょうか。特に害意があるというわけでもなさそうで、母と父を寂しげな、羨ましげな目で見ているのです。話すことはできず、私のことは見えていないようでした」

「何かおかしいとは思わんかったのか?」

「今ではそう思いますが、当時は他の人にも色々なものが見えたので、人間とはそのようなものだろうと特に疑問も持たなかったのですが」

「なるほど、お主の目は霊視の魔眼じゃったかもしれんな」


 魔眼――生まれつき、ないしは後天的な修行により獲得する、特殊な能力を持つ目のことである。大抵は生まれつきだが、有名な魔眼と言えば、千里眼、石化の魔眼、発火の魔眼などがある。リサの場合は死者を見ることができた可能性がある。ミリアザールはふと疑問に思った。


「と、言うより。リサの盲目は生まれつきではないのか?」

「生まれた時は見えていました――自分で潰したのです」

「痛々しいことをするの。魔眼持ちはその力を持て余すことはあるし、つけ狙われるからと目を摘出することもある。売れば一生遊んで暮らせるほどの値で取引される場合もあるしな」

「……話を続けましょう」


 別に言おうが言わまいが自分達に害はなさそうだったので口にはださなかったが、日に日にリサの疑問は募っていった。この年頃はそうでなくとも「なぜ」「どうして」を大人に聞きたがる年頃である。その彼女が疑問を口に出さなかったのは、良くない予感がしたからだった。

 だがついに限界を迎えたリサの好奇心は、彼女に禁断の言葉を口にさせた。そして彼女は六歳の誕生日、ついに両親に尋ねてしまったのだ。


「おとうさん。どうしていつも女の人を背負っているの?」


 その一言で、リサは両親が凍りついたのを覚えている。普通なら「何を言っているんだい?」「変な子ね」と笑ってすますところのはずだが、彼女の両親には心当たりがあったのだ。


「その夜です。私は生まれて初めて両親が罵り合うのを聞きました。私は居間で行われるその光景を、ドアの隙間からじっと覗いていた記憶があります。そして――」


 翌朝、父親は家から出て行った。リサは理由を母親に尋ねたが、母親は答えてくれなった。


「その日から徐々に母はおかしくなり始めました。仕事を休みがちになり、一日中寝ていることもありました。リサは一日中何も食べられず、自分で家に置いてあるパンをかじっていた記憶があります」


 そんな生活が何カ月か続いた後のこと。久しぶりに母親が居間に出てきた。リサは食事を作ってくれるのかと期待し、母親に無邪気に話しかけたのだが、リサが見た母親の顔は別人のように変貌していた。


「母は完全に気がふれていました。落ち込んだ、くまをつくった眼。痩せこけた頬、乾ききって艶のない唇。とてもミーシアでも有数の美人と評判だった面影はなく、まるで死人のような顔をしていたのを覚えています」

「……それで?」

「そして私を見るなりこう言いました。『お前が生まれたからいけないんだ! お前があんなことを言わなければ、あの女さえいなければ……あの人はずっと私のものだったのに!』。そう言ってリサの首を絞めてきたのです」

「今さらじゃが、実の親のやることではないの」

「リサもそう思います。ですから全力で抵抗しました」


 一瞬何が起こったかわからなかったが、リサの生存本能は思考よりも早く働いた。テーブルの上にあったフォークで母親の手を刺し、怯んだ母親に思いっきり噛みついたのだ。六歳の子供の反撃では大した怪我も無かったはずだが、それ以上に母親は精神的にショックだったらしい。


「『リサ、あなたまで私を裏切るの?』と、言われた記憶があります。リサは非常に悪いことをした気分になりそのままそこに立ちつくしたのですが、ふらりと母が歩きだしたかと思うと、鼻歌を歌いながらその辺中に油をぶちまけ始めました」

「……で?」

「もはやリサのことも見えていなかったのでしょう。リサの位置も確認せずに家に火を放ちました。私はなんとか火を消し止めようと考えたのですが、幼いながらも火の勢いが強すぎてどうしようも無いことを悟りました」


 そのままリサが怯えて縮こまることなく家を飛び出したのは、生存本能以外の何物でもなかっただろう。彼女が振り返ると狂ったように笑う母の声だけが炎の中から聞こえてきた。周囲は大騒ぎとなったが、リサにはもはや何も耳に入ってこなかった。

 そしてリサは逃げ出すようにその場を離れ、気が付けば母親が働く花屋の前だった。


「母の花屋にはしょっちゅう遊びに行っていたので、顔見知りばかりでした。ですが、リサを見る目は冷たいものでした。後で知ったことですが、おかしくなった母がそこかしこで私のことを『あの子は化け物だ』と吹聴していたようです。もともとこのような髪色ですし、リサと関わりたくないというのが周囲の本音だったのでしょう。髪色が違うということは魔術的な要素を示しているという事実を知ったのは、随分と後のことでしたが」


 リサはその時の光景を思い出す。まるで、世界に自分一人だけになったかのような孤独感。その時、彼女は母親が花屋でよく使っていた草枯らしの薬品を目にした。一回手にとって遊ぼうとすると、ひどく母親に怒られた記憶がある品物だ。


「もうリサはこの世界を何も見たくありませんでした。信じた物はあっけなく崩れ去り、幸せは二度と帰ってこない……それで確信があったわけでもないのですが、その薬を目にぶちまけたのです。焼けつくような痛みがあり、周囲からは悲鳴が上がりましたが、リサは満足でした。望み通り、何も見えなくなりましたから」

「……」

「でもおかしなものです。死にたいとは考えていなかったのか、その薬を飲もうとは思いつきもしませんでした。そのことに気付くと、リサの絶望はより深くなりました。まさか、自分に命を絶つだけの度胸も備わっていないとは思っていなかったので。この目では死ぬこともままならず、何をどうすればいいのかと。そして目が見えなくなって一人どことも知れず彷徨さまよい……どのくらい時間が経ったのでしょうか、中原のミーシアには珍しく雪が降りました」


 目が見えこそしなかったが、かなりの雪が降っていることは容易に想像がついた。リサは以前一度だけ母親の里帰りの時に雪が降るのを見たが、とても幻想的な光景で、まるで空が自分を祝福してくれているように感じたことを覚えている。

 飢えと寒さでもう雪が止むまでは自分の命が持ちそうにない事を感じとり、美しい雪の中で死ぬならまた悪くないともリサは思ったのだが、彼女は自分の意識がなくなる前に、どこからともなく聞こえてくる泣き声に気が付いた。


「小さな子の泣き声が聞こえたのです。それがジェイクでした。声を頼りにリサがジェイクのところにいくと、その子は泣き叫びながらも私にしがみついてきました。リサは既に死ぬ気だったのですが、その子まで巻き添えにしては父や母と同じではないか、と。自分より立場の弱い者に対して、無責任なことだけはしたくありませんでした」

「センサーとしてはその時覚醒したのか?」

「はい。生きる気力が沸々と戻ってきた時に、センサーとしての能力が覚醒しました。そこから後は想像できるでしょう。人の弱みを握り生きながらえ、傭兵ギルドの一員となり、今に至ります。

 当時のことは調べましたが、いまだに何一つわかりませんし、もはやそれでよいかと思っています。知っても得はなさそうですし、私は今の生活を守るだけで精一杯ですから」


 リサが飄々とかえすが、とても生半な人生ではない。もちろん長く生きてきたミリアザールにとっては、これ以上に悲惨な人生などいくらでも知っているが。それにしても、である。

 だがミリアザールは辛辣ともとれる一言を発した。リサの性格を考慮に入れた上でのことではあるが、慰めるばかりが優しさではないことをミリアザールは知っている。


「先に言っておくが、同情はせん」

「貴女ならそう言うと思いました。リサも同情はまっぴらごめんです」

「が、ワシにできることがあれば力になろう。そのくらいの度量と情はある」

「心遣いは嬉しいです。ですが、既に先ほど甘えさせてもらったので」

「ふん、気丈な女よの。まぁよい。また甘えたくなったら、いつでもよいから甘えるがよい。お前にはその権利をやろう」

「上から目線はやや気に入りませんが……そうさせてもらいましょう」


 リサがやや照れくさそうに答える。その様子を見て、ミリアザールは尻尾でリサの頭を再び撫でてやった。


「で、元の話にそろそろ戻るが。依頼は受けてくれるかの?」

「……いいでしょう。確かに貴女の言う事にも理はあります。何点か質問はさせていただきますが、貴女を信じてみることにします。ですが、リサの期待を裏切れば……」

「どうする? 殺しに来るか??」

「それは実力的に難しいので、死んだ方がマシ! というくらい恥ずかしい噂をばらまいて、社会的に抹殺してあげましょう」

「そっちの方がよっぽど怖いわ! 十三、四歳そこらの人間の発想ではないぞ?」

「ふふふ、これでも修羅場は幾つも潜ってきてるので」


 リサが無表情のまま、不敵な笑い声を出す。ミリアザールが約束を違えたら、本気で彼女はやるだろう。ミリアザールは柄にもなく、ちょっと背中にうすら寒いものを感じてしまった。人を殺すには物理的にでも魔術的にでもなく、情報で人を殺す。そういう意味ではもっとも厄介な相手と契約をしたかもしれないと感じたミリアザールである。


「では、リサからも一つ質問です」

「いいぞ? じゃがスリーサイズとかは無しじゃ」

「誰が幼女のぺったんスリーサイズなんぞ気にかけますか。それよりも、どうしてそこまでアルフィリースを気にかけるのです?」

「お主がアルフィリースを気にかけるのと、大して変わらんと思うぞ~?」


 ミリアザールとしては茶目っ気たっぷりに言ったつもりだったが、リサは苛ついたようだ。


「茶化さないでください」

「ふん、つまらんやつめ……ワシはまず第一に、ミランダの味方じゃ。アルフィリース自身も気にかかっておるが、ミランダのためにもアルフィリースには無事でいてほしい。ミランダが不死身なのはどうせ聞いたのであろう?」

「ええ、たまたまですが」

「脇の甘い奴よのぅ。不死者というものは、長らく生きておる内におおよそ同じ悩みにたどり着く。多くの不死者は単に死ににくいだけであり、大抵は明確な死に方があるのじゃが、ミランダの場合はまだよくわかっておらぬ。『死なない』うちはよい。でも『死ねない』のはつらい。以前恋人を失ったあやつを見ていた時は、本当に痛々しかった。人生に絶望しても死ねないのは、主らが思う以上に最悪じゃ」


 ミリアザールが目を細め、以前ミランダを拾った時のことを思い出す。

 魔物の返り血で全身を赤く染め上げ暴れまわる女がいるとの評判が立ち、ギルドでも問題になっていた。その女に近づこうとした人間は好悪の感情にかかわらず例外なく再起不能にされていたが、その程度なら何もミリアザールは出張るつもりはなかった。

 だが人間を襲わないと約束させた魔獣・魔物や、比較的人間に友好的であった獣人にまで手を出したと知り、ミリアザールは動いた。最初は自分の暗部である口無しを送り込んだが、仕留めたという報告が上がっても、しばらくすればまた生存が確認される始末。捕獲したその女がどんなことをしても死なないという報告を受けて、最後はミリアザールが自ら出向いたのだ。

 その時に見たミランダの目は、既に人のものとは思えぬ異様な光を放っていた。歴戦のミリアザールですら怖気おぞけを感じる圧力を、ただの人間のはずの女が備えていたのだ。

 そして同時に、ミリアザールは悲しい気持ちになったことも覚えている。そこまでの目をするようになるまでに、一体女の人生に何があったのか。そのことを考えるだけでも、ミリアザールの胸は痛んだ。

 紆余曲折を経てミランダを自分の手元に置くことにしたミリアザールだが、監視が目的と周囲には言いながら、彼女の心中ではミランダを案じる気持ちでいっぱいだった。自分の寿命ですらいい加減飽きているのに、目の前にいる不老不死の女がこれからどのような人生を歩むかと思うと、ミリアザールは胸が押しつぶされるような思いにとらわれていたのだ。


「人間に死ぬ運命が待ち受けておるのは、むしろ幸福じゃと言ってもええ。ワシのような長命の存在からすればな。じゃが、ワシは残念ながら不死身ではない。この身は既に全盛期を通りすぎており、ワシは後千年も生きんじゃろう」

「充分長いと思いますが」

「貴様らにはそうでも、ミランダには違う。お主も三百年程生きればわかるかも知れんが、ミランダは後何年生きるか想像もつかん。この大地が終わるまでは最低生きるじゃろう。もしかすると、この大地が終わっても生きておるかもしれん」

「……」


 自分の寿命がどうやら同じ種族より長いと判明した時、ミリアザールは自らの命を絶つことを本気で考えていた。当時は成立したばかりではあったものの、正直アルネリア教などどうでもよかったし、他人の救済を旨とした集団であるにもかかわらず、何かにつけて仲間で争おうとする人間に愛想が尽きそうにもなっていた。

 それでも教主であり続けたのは、アルネリアの姿が忘れられなかったことと、理由はもう一つ。芯から信頼に足る人間に再び出会えたこと。ミリアザールにとって、二回目の幸福な時間だった。

 その時から完全に消えたわけではないが、以前のような虚無感はミリアザールにはなくなった。


「ワシも長寿じゃが、まだワシには長らく仕えてくれる者がおる。また沢山の人間や仲間に愛されたよ。不幸な死に方をした者も沢山おったが、幸せな人生を送った者も多く見てきた。だがミランダは自分に良くしてくれた者を、ほとんど全て不幸な方法で失くしておる。そのような記憶ばかりでは、人間の心は死んでしまう」

「……それは確かに」

「不老もそうじゃし、不死も問題じゃ。バラバラにされても決して死なん。じゃが活動停止には追い込める。バラバラにされたまま、はりつけとかにされてみい。死にもできず、再生もできず、永遠にそのままじゃ。それがどれほど恐ろしい想像か、わかるかの?」

「リサなら絶対、御免こうむりますね」


 リサは思わず震えた。不覚にもそういった光景を想像し、その時にミランダがどういう顔をするか思い浮かべてしまった。もし自分がそうなら? 想像することすらおぞましい。


「あれはまたなまじ外見が美しいからの。そして残念ながら、人間や魔物の中には我々では想像もできんような残酷な真似ができる奴らがおる」

「それは、なんとなくわかります」


 争い事は避けてきたリサでも、ギルドにいれば戦場の悲惨さは耳にする。また自分が日常扱う事件ですら、耳を背けたくなるような事例はいくつかあった。


「それにアルフィリースも心配じゃ。あそこまでの魔術を操り、野にいるにしては修めている学も武術も高度過ぎる。やがてギルドで評価されれば、諸国や他の集団が放っておかぬじゃろう。本当は山奥で隠遁いんとんするのが一番じゃろうが、それはやはり可哀想そうじゃしの。ワシが一緒に旅をできればよいのじゃが、残念ながらそういうわけにもいかん」

「それでリサを、と。リサでは力不足では?」

「実力的にワシを上回る者など、どっちにしても大しておりはせん。それにワシもまた万能ではないしな。だいたい旅とは気を許せる者同士、対等な関係がよい。ワシではあの二人が子供にしか見えんでの……まぁ、そなたには迷惑だったもしれんがな」

「いえ、思ったほど嫌ではありません。むしろチビどものことさえなかったら、私から旅の仲間にと申し出たかもしれません」


 リサが即答する。この反応はミリアザールにもちょっと意外であった。


「ほう……なぜ?」

「なんというか……あの二人は気になります。それに一緒にいて、今までで一番気持ちの良い人間達でした。センサー風に言うと、『雑音が少ない」のです。年下の私が言うのもおかしいのですが、あの二人、特にアルフィリースは守ってあげないといけない気がしますから」


 なぜリサは自分がそう思うのかわからない。センサーは基本的に非力な生き物だし、戦闘では不意を突かない限り、自分がほとんど役に立たないことも知っている。能力的にはアルフィリースに守られる立場の自分が、アルフィリースを守りたいと思うのは変な話なのだが。


「ふぅむ。ひょっとすると、ミランダが傍におるのも同じような理由かもしれんな。確かに、不思議と保護欲をかきたてられる人間ではあるし、センサーであるお主が言うと信憑性も上がる」

「まぁ、変なのもいっぱい寄ってくるでしょうが」

「変なの、とな」


 ミリアザールは思わず噴き出してしまった。なぜかその光景が容易に想像できるから恐ろしい。


「ですが変な虫はリサが背後からグッサリやっちゃいますので、御心配なく」

「ん、まあ、ほどほどにな……くくく」


 リサが背後からグサリとやる真似をしたので、その仕草が可愛らしくてミリアザールは声を立てて笑ってしまった。


「(これも死なせるには惜しい人間。こっそりワシの暗部を護衛につけておくかの……)」


 などと考えていた。

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