第2話 圧倒的1番人気女子
4月6日、偶然にも僕の誕生日。
東京で暮らし始めた。
引越し作業を終えて、
田舎の駅で元嫁から渡されたスティッチの封筒を開けた。
手紙と写真が入っていた。
写真は2人で沖縄に行った時に、海が夕陽を照らしてた時撮った写真。
裏にマーカーで「忘れないように(^^)」と書かれていた。
手紙を読んだ。
「お父さんの事があって、決断した時、本当は悲しかったよ。でも、今は応援してる!何かあったらすぐに連絡するように!て言うか、1週間連絡なかったらお仕置きだよ!本当に出会えて良かった。ありがとう。あと、田舎に戻る時は必ず連絡してね。いっぱいお話ししよう!」
元嫁。ありがとう。本当にありがとう。幸せになって!
入学式を迎えた。
しかしスーツは好きではない。
あんな煩わしいのを毎日着ていられる人って尊敬できる。
あまり大きな学校ではないので、生徒は60人くらい。
世代は新卒や若い人が大半だけど、入試の時見たように、同世代や僕の親世代の方もいた。
本来なら「かわいい女子いるかな♪」なんて周囲
を見渡すんだけど、慣れない都会暮らし。
「友達になれそうな人いるかな?」クラスメイトを見渡していた。
直感、インスピレーション。
そんな類には無頓着な僕ではあるが、仲良くなれそう!と感じた生徒を発見!
しかし、入学式当日に会話する事はなかった。
そして正式に学生生活が始まった。
小中高とまともに勉強をしてこなかった僕には、授業はアラビア語ですか?くらいにしか思えない。
ただ訳の分からない授業に出席して帰宅。
1週間その繰り返しだった。
僕は人と関わる事が得意な方ではない。
でも1週間経過するとクラスメイトと関わる事がある。
入学式に、なんかいい!と根拠なく思った人と関わる事があった。学校の屋上だった。
彼は大場君と言う。29歳。ちょっと色黒で細身。音楽が大好き。とにかくノリがいい。
「なんかラテンぽいなー。これからラテンって呼ぶわ(笑)」
「それ、いいね!オレ、今日からラテンね!」
それ以降、僕とラテンは友達と言える関係になった。
学校帰りにラテンと2人で中華屋に行った。
「何で学生になったの?」と聞いてみた。
「俺さ、10年付き合ってた彼女と別れちゃってさ。その時に人の役に立てる仕事ないかなぁ?って思ってね。」
「えっ?俺も別れたんだけど。って言うかフラれて離婚だよー(笑)」
10年と離婚。どっちが深刻なのかわからないけど、ラテンとは波長が合う。
入学から4週間経過して、
クラスで飲み会が開かれた。
30人くらいは集まった。とにかく賑やかだった。
若い男女が多く、早くもいい感じになっている2人もいた。
一次会が終わり、大半が帰宅した。
10人くらいでバーに入った。ていうか男ばかり。
二次会は男会。
恒例?の女子の査定が始まった。
俺、あんまり女子知らんなぁ。。話しやすかったリカちゃんって言っておこう。
そして、ひとりひとり女子の名前を言っていく予定だったが。。
A君「松下さん!」
B君「えっ!俺も!」
C君「同意!」
ラテン「俺もだよ!笑」
10人中8人が松下さん推し。
圧倒的1番人気!
松下さん。
名前はアスミ。年齢は23歳。
黒髪が似合う和風美人のお手本みたいな容姿。
確かに美人。
二次会は終始そんな話で幕を閉じた。
「電車ないから泊めてよ!」とラテンが言う。
便乗して飲み直そうぜ!と他に2人も便乗。
4人で僕のマンションに戻る途中、
圧倒的1番人気である、帰宅途中の松下さんを発見!
松下さんも呼ぼう!と、1人が追う。
その日の夜、
僕31歳。
ラテン29歳。
リョウスケ25歳。
エイタ24歳。
それと1番人気である松下アスミちゃん23歳。
5人で僕の部屋でお酒を飲む事になった。
アスミちゃんは下戸みたいなのでお茶で。
朝まで色々語り合った。
アスミちゃんは彼氏がいるらしい。
「普通の彼氏だから」と謙遜していたが、次元が異なる男なんだろうと簡単に推測できる。
僕以外の3人も、そりゃいるよね。ってリアクションだった。
その飲み会以降、
僕、ラテン、リョウスケ、エイタの4人でよく会っていた。
と言うか、よく僕の部屋に来ていた。
エイタなんて、バイト帰りにビール持参でよく部屋に来る。みんなからコンビと言われていた。
変わらず、授業→バイト→エイタと乾杯。
週一で野郎4人で乾杯。
そんな学生生活を送っていた。
僕は約束通り、元妻に毎週1通はメールをしていた。友達できたよ!みたいな他愛のない内容が多かったけど。
6月に入り、深夜にラテンと2人でファミレスに行った。
「俺、10年間付き合ってたって言ったじゃん。たまに思い出してたんだよね。」
「そりゃ、10年も一緒にいたらねぇ。それが当たり前になっちゃうよね。」と僕も共感できる部分もある。
「でもさ、、」
ラテンはすぐ感情が表情に出る。表情を隠すのが下手すぎて笑える。
色黒な肌が赤く染る。
恋したな!ってすぐにわかった。
「100%恋してますって顔してるじゃん(笑)」
「うん。好きな人できた。。」
「アスミちゃん?」
「うん。。俺アスミが好きだわ!」
でも、アスミには彼氏がいる。
しかし何度か2人でご飯に行っていたらしい。
「そこで、彼氏の事聞いたんだけどさ、あんまり順調じゃないみたいなんだよね。詳しいことまでは聞けてないけどさ。。」
自分に都合よく曲解してません?とツッコミたくなったが、
ラテンが圧倒的1番人気女子に恋をしている事はわかった。
もちろん応援する。
アスミちやん。
美人。笑顔が多い。熱心に授業を受けている。付き合いがいい。批判的言動は見せない。でも、自分の事はほとんど語らず。
アスミちゃんっていい人なのはわかる。
でもどんな考えを持った女性なんだろう?
自慢するわけではないが、田舎にいた頃、元妻や同僚から「聞き上手」だと言われていた。
なので相手の心を引き出す自信はあった。
アスミちゃんをご飯に誘った。近所のサイゼリアではありますが。
授業の話など当たり障りのない話を経て、核心的な話へ。
「ねぇ。彼氏ってどんな人なん?」
「いやいや、普通だから。」語りたがらない。
「どんな人が好きなん?」
「空気を読める人かなぁ。。」多くを語りたがらない。
僕、聞き上手ではないっぽい。。
ダイレクトに聞いてみた。ヤケクソ。
「ラテンの事はアリ?」
「あー。ラテンね(笑)いい人だよ。それよりさ。そっちはどうなの?いい人いるの?」
見事な惨敗だった。
聞き出せた情報。
実家は山梨。3姉妹の末っ子。姉と仲がいい。
そして、ラテンはいい人止まり。。
応援しているけど、劣勢かな。。
どうやら、姉がミスチルの大ファンらしい。
僕もファンクラブに入会している。
エイタもミスチルの曲全部ギターを弾けるくらい体内に曲が入り込んでいる。
近いうちに4人でカラオケに行く事になった。
カラオケ。
楽しかった!
エイタは歌が上手い!
そして、アスミは姉の前では心がオープンだった。
姉の前では大笑いや馬鹿面、心から出る表情を見せていた。
そして姉も言わずもがな、小顔で美人だった。
それから数日後、クラスメイト20人くらいで、ボウリングに行った。
ボウリングの後、二次会でカラオケに向かった。
歩いている途中、ササっと僕のとなりにアスミが来た。
そして小声で「別れた」と告げて、ササっと離れて行った。
「別れた」と一言しか言わなかったアスミ。
数秒ではあったが、とてもいい表情をしているように思えた。
そして、すぐにラテンに連絡した。
「アスミ別れたんだって!」
「あぁ。。知ってるよ。」
知ってたんだ。。それより、何で落ち込んでるんだろう?
「なんかあったん?」
「何もないけど色々考えちゃうよね。」
恋煩いってやつか。
「とにかく今責めないとどうすんの!応援するから行け!」
他人事なら強気に言える僕。
そして夏休みに入った。
中間テストが散々だった僕は、自主的に補習授業に参加していた。点数が良かったはずだけどラテンも授業に参加していた。
僕の席の前にラテンが座った。
授業の途中、ラテンが後ろに反り返り、僕のノートに一言書いた。
「つ き あ い ま し た」
声に出せなかったが、おめでとう!と嬉しい気持ちでいっぱいだった。
ラテンが圧倒的1番人気女子を射止めた。
ラテンはマジメな男だ。
いい男だと保証できる。
翌日、
いい事があったんだ!と友達の恋の話を元妻に話した。元妻は「あんたの話じゃないんかい!」と笑っていた。
それからも、僕ら4人とアスミ。
5人でよく遊んでいた。僕にとっては大切な仲間だ。
学校でアスミが「ねーねー」と僕を呼ぶ。
僕にスマホの写真を見せてくれた。
ラテン、僕、リョウスケ、エイタ。
4人が学校の屋上で空を眺めているのを背面から撮った写真だった。
「なんか青春ぽくない?」
「でしょ!」
その写真を送ってもらった。
青春に年齢は関係ないと実感した1枚だった。
その写真を見る度に、ミスチルの「Sign」が頭の中で毎回流れる。
東京に来た時は不安があったけど、大切な友達が出来た。
本当にいい経験をさせてもらっている。
その後も、ラテンとアスミは順調に愛を育んでいた。
ラテンの隣にいるアスミは特別な表情になる。
アスミは絶対に他者批判をしない。
ファンを前にしたアイドルみたいだ。
クラスメイトみんなから信頼される存在だった。
誰にでも相談に乗る。
イベント事には必ず参加する。
リクエストがあったら盛り上げ役にもなる。
とにかく献身的。
時にはから元気に思える時がある。
「無理しないでね」と時々アスミに言っていた。
「大丈夫だから。気遣ってくれてありがとう」って毎回決まって言われていたけど。
そんな天使と言っても過言ではないアスミも、
のちのち仇となる事が起きる。
2人は変わらず順調に交際している事は変わりないけど。。
ベランダと駐輪場。 ちりとり @kou_uni
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