第10話襲い来る者

「どうやら、ここが最後みたいだね」


「あぁ、《主の部屋》ってところだ。リオン、ユリウス戦えるか?」


「アーツもまだ大丈夫だ。しかし、後方支援なら導力杖を持って来ても良かったかもしれないな、アレはアーツの火力を数倍に跳ね上げるのだろう?」


「確かにな、だが今は問題は無いだろう。リオン、お前の実力ならな。それに、優秀な前衛二人も付いている」


ユリウスさんはそう言って僕達に顔を向けてくる。リオンさんも一言「頼むぞ」とだけ言って戦闘態勢になっている。


「開けるよ」


「くっ何だよ」


扉を開けた瞬間生暖かい空気と何かが腐った様な悪臭があたり一面に漂っている。足元には大量の水溜りがあり、何処からか浸水しているようだ。


「主は何処にいるんだ?」


「ルイス、警戒を緩めないで行こう」


僕が声を立てると、ルイスは顔を縦に振り皆も周囲の警戒に入る。でも、一向に敵の気配は感じられず不気味な静寂だけが僕等を包み込む。


ピタ


僕の首根っこに生暖かい液体が垂れてきた。触ると少し粘ついていて、まるで唾液の、、、


「上にいる!」


「アーツを使う!」


僕の掛け声と共にリオンさんが火のアーツを放って辺りに火を灯す。そして敵の姿が僕達の前に現れた。


「ギャァアアァァオウ」


天井に張り付いていたのは人型の醜悪な化け物。大きさは3mをゆうに超え、蜘蛛の様な目と胴体を持ち脚は4本、ソレが金切り声を上げて僕へと落下してきた。空中で体を翻し、僕に覆い被さる。それを見越しての腹這いの姿勢を取ったのだけれど、馬鹿な判断だった。蜘蛛の脚が僕の足をかすめる。制服


「制服?!」


「馬鹿!制服よりも命の心配をしろ!」


制服でいた事を今更思い出し、更に制服が傷ついてしまった。正直、かなりまずいけど今の状況に比べたらマシだよね。


「レーヴェ、速く起きろ!」


「世話を焼かせるな!」


ルイスとユリウスさんが僕を助けに来てくれた。僕は蜘蛛の脚から助けられ、愛刀の詠月を構える。


「終わったか?!なら、手伝え!!」


リオンさんが蜘蛛の左脚を華麗に避ける。が、避けた先に今度は右脚が襲いかかってくる。その脚はリオンさんの右手のガンダガーを弾き飛ばし、もう一方でリオンさんの胴体を切り裂こうとする。


「キシャァァァア!!!」


「おぉ」


「なんと」


「すげぇ」


リオンさんは蜘蛛の左脚を左手で掴み、首を刺そうとする右足を右手で掴んだ。膝を着きながらも、腕力一つで蜘蛛の攻撃を防いでいて、凄いしか浮かんでこない。


「速く手伝え!」


「はっはい!」


僕は蜘蛛の腹に向かって刀を振り降ろす。腹を切断できるかと思ったけど、何と人型の部位が僕の刀を防いだ。鎧や甲殻があるはずの無い、生身の肉体とも思える部位が、僕の刀を受けて防いだんだ。嫌、違う、刀は確かに肉まで入ったでも、すぐに再生して、、、


「キシャァァァア!」


「グブッ」


後ろ脚で僕の体は吹き飛ばされ、壁に打ち付けられる。背中に激しい痛みがあり、僕は動けない。蜘蛛は獲物を僕に定めているようで、だんだんと近付いて来ている。


「レーヴェ!!」


「キャァァァァァァ」


鼓膜を破壊されるかとも思える甲高い悲鳴を発した蜘蛛。すぐに声は収まったが、あたり一面からカサカサと何かが蠢く音がする。


「ヒートカノン」


リオンさんが火のアーツを放つ。何かに当たり、周囲に焦げる臭いが充満してくる。


「子蜘蛛か!」


「呼び寄せやがったな、ルイス、ユリウス、レーヴェの事は任せた。子蜘蛛の群れは俺が殺る」


「リオン、一人じゃ無茶だ!」


「ルイスよせ、リオン任せるぞ」


「かかってこい虫けら!こっちだ!」


リオンさんが聞いていたか解らないけど、リオンさんの方から銃声が聞こえてくる。っきまで何も持っていなかった筈なのにいつ武器を回収したのか。そして、ありえない事に子蜘蛛の群へと突撃していった。でも、今は不味い動けない上に、僕は蜘蛛の腕に掴まれ、捕食されようとしている。人間の部位は全く同じ、僕を見ながら口から涎を垂らしている。


「誰が、食わせるかよ!」


「気色悪いのは嫌なんでな」


「ギャァァァ」


ルイスが僕の詠月を多節棍で落とし、ユリウスさんが銃剣で撃ち抜く。幾ら再生が速くても完璧に吹き飛んだ腕を繋げる事はできないのか、泣き叫んでいる。


「レーヴェ!」


僕の詠月をユリウスさんが3回撃つ。すると、どうだろう。落とされた詠月が弾き飛び、僕の腕へと戻ってきた。


「感謝します。《七ノ葉一刀壱の型木ノ葉斬》」


僕が、マシュー先生から教えて貰い、何とか覚えられた型。初段だけれど、


(良いか?レーヴェ、舞い散る木ノ葉を斬るのは難しい。だが、タイミングが合えば斬るのは簡単だ。お前は目は良い、だが目だけに頼り過ぎるな。全感覚を使って、その一瞬を見極めろ)


「キシャァァア」


見えた。僕は詠月を振り、振り降ろされる左足を詠月で斬り落とした。


「きゃぁぁぁぁぁあ」


今度は金切り声じゃなくて、人間の女性の悲鳴に聞こえた。でも、ありえない。女性なんてここにはいない。


「コッ、、、コロサ、、イデ」


喋った。蜘蛛の化け物は確かに僕に向かってそう言った。僕にはこう聞こえた。「殺さないで」と。まるで、恐怖に怯えているかのように。


(コロセ!ころせ!殺せ!)


「僕は、、、」


殺したくない。僕は詠月を降ろしてしまった。それが、どんな結果をもたらすかを考えもしなかった。


「オ、マエ、、アマイ」


「!レーヴェ!!!」


僕を突き飛ばしたルイスの背中に右足が振られる。制服を破り中から鮮血が辺りへと飛び散る。


「?!あっ、あぁ、、、ルイスゥゥウ!!」


僕の目の前でルイスは倒れた。必死で背中を抑えても、ルイスから血が流れ続ける。


「アマイ、、、ヨワイ」


蜘蛛が僕を殺そうとしてくるけど、どうでもいい。もう、コレに対して容赦はしない。


「《壱の太刀落葉》」


壱の太刀。壱の型の奥義。全員が教えられて、全員が使える最も簡単な奥義。でも、これで良い。呼吸と、タイミング。そして、、、怒りだ。


「アァアアアァアア!!!」


蜘蛛の胴体は2つに別れ、それでも活動を続けている。僕はその2つに対して火のアーツを放った。化け物の体は業火と化し、肉の焼ける匂いが僕等を包み込む。


「!レーヴェ、、、」


「ユリウスさん、倒し、、、まし」


「レーヴェ!!!」


僕は疲労から詠月を支えに片膝を付く形になってしまい、すぐには動けそうに無かった。


「僕は大丈夫です、それよりもユリウスさんはルイスの手当をお願いします」


弱々しい声だったけど、ユリウスさんは聞き入れてくれた。だって、僕は戦わなくちゃいけない。今も、鳴り響く銃声。リオンさんが子蜘蛛の群れを引き付けて、何処かで戦っているんだ。


「今行きます」


僕は身体に鞭を打ち、一人で戦い続けているリオンさんの下へと向かった。




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主の部屋(ヌシのへや)

所謂ボス部屋。古代に作られた人工魔獣が主を務める。


アルケニー

蜘蛛の化け物の正式名称。古代文明のころに女性の死刑囚と蜘蛛の魔獣を合成して創り上げた。まさに悪魔の所業であるが、罰としては有効であった。尚、この正式名称をレーヴェ達が知るのは後の事である。


子蜘蛛

アルケニーの蜘蛛の身体から産まれた。アルケニーとは違い、蜘蛛の姿をしているが大きさは20cmを越えており、それが群れをなして襲ってきた。


七ノ葉一刀流壱の型木ノ葉斬

七ノ葉一刀流の基礎の型。コレを覚えると初段を与えられる。


壱の太刀落葉

木ノ葉斬を奥義へと昇華させた物。










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