第9話夜に
カーテンをあけ窓の外を見ると、街灯に火が灯り雲一つない満天の星空が見えてくる。時間は既に20時を周って、周りの店舗も閉店準備を始めている。活気があるのは酒場だけだ。そんなレスタの街を眺めているとシー姉さん、ミロ先輩との会話が浮かんできた。
「生徒会」
シー姉さんの言うとおりだろう。就職とかって経歴を大事にするみたいだし、、、一人になるには必要な事だものね。
(また、失うぞ)
「!誰だ!」
自室じゃない、ただ闇だけが広がる空間。
(また、失う。また、去っていく)
「黙れ」
(皆がお前に恐怖する。お前は、、、怪)
「黙れ!!!」
キィン!
激しい金属音がして僕は現実に戻った。手に愛刀を持ち、何か、いや誰かに振り降ろしていた。
「目が覚めたようだな」
ガンダガーで刀を受け止めるリオンさんが、ただ僕を見つめるように佇んでいる。その目は何かを見透かすようにも思えてならなかった。
「すみません、リオンさん」
「迷いか、、、刀は迷いを持つ者が振るえば、修羅となるか、活人剣を見出すか。レーヴェ、君はまだ修羅ではない。君を思ってくれる人の事を忘れるなよ。まだ、君は堕ちるほど心は死んでいない」
どう言う事ですかとリオンさんに聞こうとした時にはリオンさんは既に離れていた。背中から質問は受け付けないと言う空気を発し自室へと入っていく。
「ありがとうございます、、、リオンさん」
リオンさんの部屋に向かい小さく声を出して、お辞儀をした。返事は無いけど、扉が一回カンっと音がした。きっと、伝わったんだ。
「詠月」
僕の愛刀の名前。マシュー先生が用意してくれた僕だけの刀。まだ、眠くない。僕は詠月を装備し、夜の士官学院に向かった。勿論、既に門は閉まり入れなくなっている。でも、僕が入るのは旧校舎の方だ。旧校舎の地下は魔獣の棲家であり、経験を積むにはもってこいの場所だ。今はただ、刀を振るっていたい。誰にも見られず。旧校舎には門はなく、周りを崖で囲まれている。今回、昨日の掃除中に見付けたロープを持ってきた。長さは15m程で崖はせいぜい10m位だった。これなら降りれるハズだ。
「ん、よし」
古くても、作りがしっかりしているロープだ。僕はそれを近くの太い木の幹に巻き付け、崖を降りていく。長さに問題もなく、自面へと着地することができた。
「鍵は、、、あれ?」
旧校舎には鍵がかかっていた事を今更に思い出して離れようとしたはずなのに、僕の体は何故か旧校舎にむけて歩き出していた。南京錠は掛かっている筈なのに、僕が扉に手をかざすとギイっと音を立てながらゆっくり開いて行った。
「入れって事かな」
僕が入るとバタンと扉が閉まる。案の定、出られなくなっている。でも、不思議と恐怖は感じなかった。前に進んでみると、青白い人型の何かが僕を手招きしている。
「契約者となる者よ。その名を示せ」
「僕は、僕はレオンハルト・オイラート」
「ふむ、ではレーヴェと呼ぼう。我が契約者よ、我はまだ目醒める時ではない。いずれ会おうぞ」
それだけ言うと青白い人型はスゥと消えていった。少し時間を使ってしまったけど、まだ時間はある。
「魔獣狩りだ」
落とし穴ではなくて今度は階段を降りて地下に向かおうとしたら、地下は2日前とは違った形状になっていた。無かったはずの扉が存在し、魔獣の気配も増している。
「たった一人。でも行くしか」
「レーヴェ、一人じゃないぜ」
後ろを振り向くと、ルイスとリオンさんが壁に寄りかかりながら此方を見ている。
「どうやら、お前を見ていたのはもう一人居たようだな。ユリウス・フォン・ローエングリン、出てきたらどうだ」
「リオン・マーキュリー。流石だな」
まさかのユリウスさんまでもがここに居た。
「レーヴェ、悪いと思ったんだけどさ。俺はおまえの友達だからな!でも、男だけなのは許してくれな!こんなのに女子は巻き込めねぇから」
あはは
「ルイス、それじゃあ男子は巻き込んでも大丈夫って聞こえるよ」
「ふっ、そう言ってんのさ。男に見られる努力より、女に見られる努力の方が恥ずかしいからな」
うん、それはルイスの持論だね。だって、リオンさんとユリウスさんは呆れてる。でも、笑いながら僕に近づいてきてくれた。
「リオンはさ、最初お前を追いかける邪魔をしてきたんだぜ。それが急に血相を変えて、、、」
「ルイス・フォン・ミューゼオ。それ以上は話すな。、、、レーヴェ、今だけだ。俺は後方支援に徹する。存分に戦え」
「、、、なら中衛に志願しよう」
「俺とレーヴェが前衛だな、ほら行こうぜレーヴェ!」
苦笑いとかじゃない純粋な笑顔が僕の顔に現れた。出会ってたった2日で、クラスメートって理由だけで彼等は僕を心配して来てくれたんだ。
「うん、皆行こうか!」
僕達はそれぞれの武器を構えて扉の中に入って行った。
「!これは一体何だ?!」
第一声はユリウスさんだった。中はまるで迷宮の様な形状に変化しており、魔獣の気配がそこら中から感じられる。
「《ダンジョン》か」
「ダンジョン?」
リオンさんが不意に口を開いた。
「ダンジョンだ。古代文明の遺産だな、魔獣を人工的に増殖させているんだろう」
ダンジョンの話は聞いた事がある。古代の宝物庫だったり、王家の墓だったり色々な物があって、中は魔獣の棲家になっていると言うものだけれど、今まで魔獣を駆逐出来なかったのは人口的に増やされていたからなのか。
「人口的にって、そんな事ができるのかよ!」
「古代文明の事はわからん。オーバーテクノロジーがあったのは確かだ。そして、魔獣の人口増殖は確かに行われていたからな」
リオンさんは何か知っている感じだけれど、これ以上は話してくれなかった。ルイスも何度も聞こうとしていたけど、リオンさんがソレに関しては何も言わない事を理解してさっさと諦めていた。
「レーヴェ!《植物種》の魔獣だ!暗くて解らねぇ」
「こんな時こそ!」
僕はピクシーを出して魔獣をスキャンした。釣り部で貰った生物図鑑、それには魔獣のデータも入っていた。今はルイスが抑えているから
検索完了
ヴェノムプラント
プラント種に属する魔獣。根を足のようにしながら獲物を探し続ける。光合成が出来ない場合、周りの魔獣や動植物を根で吸収し、栄誉を確保している。
毒の花粉を放出し、獲物を弱らせるため注意が必要である。
「ルイス、下がって!ヴェノムプラントだよ!」
「ちぃ!面倒な魔獣だな!くっ」
ルイスが不意に体勢を崩し、苦しんでいる。
「ルイス!」
僕はルイスを助ける為に何も考えず走った。そして、ヴェノムプラントの茎に向かって、技を放った。
「壱の型木ノ葉斬」
木ノ葉を一枚斬るように繊細な一閃。それがヴェノムプラントへと襲いかかる。僕の一撃を受けたヴェノムプラントは茎から斜めに崩れ落ちた。
「ルイス!」
「馬鹿!敵の前で油断するな!」
「なっ!」
ルイスへと振り向いた僕へ植物の根が襲いかかってくる。それをユリウスさんの銃剣とリオンさんの放った弾丸が根っこを吹き飛ばした。
「借りを返すぜ、レーヴェ!」
ルイスが多節棍を投げて根っこの付け根を潰した。僕とユリウスさんは武器を構えて警戒しているけど、それ以上ヴェノムプラントは動かなかった。
「プラント種の本体は茎と根の合流地点だ。そこを毒を浴びながら潰したルイス。お前の行動は称賛に値するな」
「ありがとな、でも早く解毒してくれないか?」
「待ってろ。しかし、マスターモーテルか。水のアーツしか使えないとは不便だな。アーツと言う物は。それ、キュア」
リオンさんの携帯からアーツが出される。僕はここで始めてリオンさんのマスターモーテルの属性が水だと知った。そして、リオンさんがアーツに対しての知識が少ないと言うことも。
「リオン、ありがとうな、レーヴェ、先に進もう」
「ルイス、気を付けてね!」
僕達は魔獣を倒して素材を回収したり、返り血を浴びたりしながら奥へと進んでいった。
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植物種
魔獣において植物の特性を持つ魔獣種。光合成を行う他、通常の魔獣のように他の魔獣を襲い食らう。
植物でもあるため、焼き払うか根の中心に復活不可能な傷を与えると倒せる。種で増えるが、発芽した瞬間に他の魔獣に食べられる為、数はあまりない。
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