第8話生徒会

後から声をかけられたはずなのに、そこに顔は無かった。声はすれども姿は見えず、さっきマヨイガにあったばかりだし、もしかしたら幽霊が、、、


「ごめん、下だよ。僕はミロ・バースト」


そんな事は無かった。入学式の時に出会った生徒が僕の目の前にいる。平民の制服である緑色の制服を着て。、、、流石に幽霊は言いすぎたと思うけど、うんどう考えても身長が小さすぎる。


「飛び級の先輩ですね?僕はレオンハルト・オイラートです。宜しくお願いします」


僕が自己紹介すると、あからさまに暗い顔をし始めた。僕の発した言葉に何処か不快感を感じてしまったのだろうか?う~ん、妹と同じ様に考えてもいいのかな?


「レオンハルト君、私は19歳なんだけどね?君より歳上なんだよ?」


僕にとっては驚愕に値した。第一成長期も、第2成長期も訪れていないのか?先輩は服的に男子生徒。身長が160も無いなんて驚きだ。


「あの、牛乳飲みます?」


「!そう言うのは人に失礼たからね?デリカシーを持ってね?」


顔付きも何処か少女みたいで、なんだろう。僕に弟がいたらこんな感じで誂っていたのかな。


「まぁ、いいよ。立ち話も何だし生徒会室に入ってね。お茶菓子もあるし」


そう言って生徒会室の中に入った。中は執務机が1個に大きい会議用の机。高級感のあるソファ。本棚には数多くのファイルや学校関係の本がしまってあるようだ。


「どうぞ座って。クッキーに紅茶とコーヒー、どっちが好き?」


「コーヒーでお願いします」


「うん、良いチョイスだね。とても珍しい豆があるんだ」


そう言って先輩はコーヒーを入れ始めた。出されるまで、少し本棚を見ることにしたんだけど、中は予算分布だったり僕が見ても特に解らなかった。


「うん、できたけど。レオンハルト君、飲もうか」


「はっ、はい」


一口飲んでコーヒーの味を確認する。うん、可もなく不可もなしって感じなんだけど、なんだろう?このコーヒー、飲んだ事があるような。


「これはね、あのビールスの温泉水で育てられた豆なの。運良く手に入ったんだよね」


「ビールスの、それなら納得です。ミロ先輩はコーヒーは好きなんですか?」


「そうだね、僕は両親が交易商をしているから、気付いたら好きになってたんだ。でも、勘違いしないでね、コーヒーと紅茶どちらも嗜む人間だから。でも、ターシェ王国の伝説の豆ガバメリアだけは飲んだ事は無いんだ。とても苦くて、ブラックじゃ飲めるものじゃ無いって話なんだよね」


なんだろう、もしかしたら今朝飲んだあのコーヒーかもしれない。でも、リオン君が持ってなくて、糠喜びさせてしまう場合もあるし、第一迷惑をかける事になる。それは避けなくちゃいけない事だから。


コンコンコン


「入ります」


ノックと共に見知らぬ人が入って来た。ミロ先輩と同じ様にワッペンを付けて、キリッとした顔付きの貴族の男子生徒だ。純白の制服を身に纏って、その姿は物語の貴公子その物だ。リオンさんと隣り合うのも想像してみたけど、この人は物語の勇者でリオンさんは魔王みたいで、、、。うん、本人に話すのは止めておこう。


「ふむ、噂のE組の生徒か。もしかして生徒会への入会希望なのか?」


「え?いや確かに入る部活は決めていませんが、、、」


「う~ん、レーヴェ君ならウチでも頑張れると思うけどなー」


ウチって事は生徒会ってこと?でも、僕が生徒会だなんて正直イメージが沸かないな。でも、入りたいって思える部活も今の所は無いし確かに、忙しいだろうけど充実感や達成感は得られそうだし、やってみる価値はあるね。でも


「まだ、考えさせて下さい。明日には答えを出しますから」


「当たり前だ。レオンハルト君、決めるのは自分自身だ。良く考えてから、生徒会に入るか決めると良い。それと、私の名前を伝えていなかったな。私はシルヴィア・フォン・アルカディア宜しく頼む。レオンハルト・フォン・オイラート」


「えっ、フォン?!」


僕は驚いた。此方に来てからはフォンの称号を名乗った事は一度も無いし、貴族だなんて言ってもいない。今までのプリントだって、、、プリント?書類?まさか、


「シルヴィア先輩、僕の入学書類を見たのですか?」


「いや、オイラート家とアルカディア家は古くから親交があるからな。レオンハルト、お前は私の顔を忘れたのか?」


知らなかった。僕の家とシルヴィア先輩の家に親交があったなんて。いや、それよりも僕はシルヴィア先輩と過去に会ったことがある?そんな記憶は僕には、、、


「もしかして、シー姉さん?」


「その呼び方を聞いたのは10歳の時以来だな。レーヴェ」


男子生徒かと思ったのは男装をした幼馴染みのお姉さんだった。シー姉さんとは8年前に別れて以来、会ったことは無かったけどまさかこうして再開するなんて。


「所でレーヴェ、なぜ貴族位を名乗らない?」


そうか、シー姉さんは知らないんだ。僕の事を。


「僕は、父さんの拾ってきた捨て子だったんです。髪の色も似てたし母さんとも目の色が似ていました。だから誰も気付かなかった。でも、父さんとお祖母様の会話を聞きました。いつまであの捨て子育てるのかと。お祖母様は伯爵家からオイラート男爵家に嫁いできたお方です。そんなお祖母様にとって僕は邪魔者でしかないのです」


思い出すだけで嫌になる。大嫌いなお祖母様、あの話を聞くまで認めて貰おうと思っていたけど、もう

嫌な気分でしか無い。家族の笑顔も、ただの気まぐれとも感じられる。僕は、家族にとって本当は邪魔者だったのではないか?そう感じて家にいる気がなくなった。士官学院を受験したのはそれか理由だった。家族と離れられる、個室が与えられてプライベートは保たれるし、僕を知るものはそういない。平民として入学すればって思っていたけど、、、それができなくて仕方なく入学書類にはフォンを書いた。でも、もう貴族なんて


「悪かったなレーヴェ。私からの話は終わりだ、だが最後に一言言わせて貰う。ならお前は尚の事生徒会に所属するべきだ。卒業後、ガンダルフ士官学院の生徒会所属と言うだけでかなり有利になる。務めきれればだが」


僕は一瞬だけ、目を見開いてしまった。直ぐに平常にもどしてシー姉さんを見る。


「考えておくね、明日必ず答えをだすから。、、、それじゃあ、ミロ先輩、シルヴィア先輩、E組レオンハルト。失礼しました」


僕は、生徒会室の扉を静かに閉めると第3学生寮への帰路についた。






「シルヴィアさん、レーヴェ君をどう思う?」


「8年振りの再開ですから何とも言えませんが、、、かなり思い詰めている気がします」


私がレーヴェと離れたのは10年前だ。当時10歳の私は伯爵家の娘ではあったが妾腹であった。正妻から疎まれていた私は最低限の淑女教育ノミを施され、父と親交深いオイラート男爵家に預けられた。父が私に危害が及ぶのを防ぐためだ。仲の良かった両親と離れ離れにされて、勝手がわからない中でオイラート兄妹に出会った。私達は最初こそ不安であったが、直ぐに打ち解けた。弟妹のいない私には、大事な存在だった。活発な妹と、木陰で本を読んでいる弟。正反対な弟と妹がとても可愛く、愛しかった。

だが、10年前正妻が病死した。子供が出来ない身体であると判明した事によるショック死だと言われている。事実、医師に子供が作れないと言われた時からヒステリーを起こしたらしいし、おかしくはなかった。でも、そのせいで私は二人と離れる事となった。思い返せば、あの時泣いていたのは彼女だけだった。レーヴェは泣く素振なんて見せず、


「シー姉さん、僕も頑張るから姉さんも頑張ってね」


と一言発して何時もと同じ笑顔を見せただけだった。別れの悲しみを堪えているのかと思っていたが、もしかしたらあの時にレーヴェは自分の未来を決めていたのかもしれない。もしそうなら、父と男爵に話しレーヴェを私と共に


「シルヴィアさん、駄目だよ。これはね、レーヴェ君の選択した道なんだ。シルヴィアさんが悲しんだら、レーヴェ君はもっと辛くなるんだよ」


ミロ会長から言われて、自分の顔を確認した。目元に触れると、一滴の涙が流れていた。


「ミロ会長、この事はレーヴェには伝えないで貰えますか」


「、、、わかったよ。大丈夫だから」


レーヴェ、私も頑張るからな。

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