第5話僕の学院生活の始まり 4/3

「ふぁあ、、、」


僕が住んでいるのは《第3学生寮》。貴族生徒用の《第1学生寮》でもなく、平民用の《第2学生寮》でもない。僕等のEクラスの為だけに用意された物なんだ。でも、最初はホコリまみれで、入学式終わってすぐに僕等の個室だけ掃除して、昨日E組の皆と周りのボランティアの住民方と片付けをしてやっと全部が使えるようになったんだ。3階建てて、地下2階まであって地下2回は大浴場で地下1階は訓練場になってて、ホコリまみれだった以外は本当に凄い施設だよ。


「まったく、丸一日を掃除に費やすなんて」


僕はせっかく大浴場があるんだしと、朝風呂に行こうとしてたんだ。階段を降りて行くにつれ、誰かの声が訓練場から聞こえてきた。


「86、87、88」


中を覗くと、もう何kgかも解らない程のバーベルでトレーニングしているリオンさんの姿だった。


「そこで、なに、見てる、入ってこいよ、」


気付かれていたことに驚きつつも、僕は訓練場へと入った。中ではリオンさんはタンクトップに運動着の姿で水を飲んでいた。


「バーベル、凄いですね」


「150kg、100回1時間でなんとかな。それよりも、レオンハルト。君は朝が早いな」


「いや、リオンさん程じゃないです。それに、僕の事はレーヴェと呼んで下さい」


「そうか、ではレーヴェ。君も訓練をしに来たのか?」


リオンさんはタオルで顔に流れる汗を拭きつつ、僕に話しかけてくる。


「朝風呂をしようと思って、そうだリオンさんも一緒にどうですか?汗をかいたならシャワーだけよりも入浴の方が良いですよ」


リオンさんは少し悩んでいたようだけど、少し微笑んでから


「そうだな、ならご一緒しようか」


と言ってきた。僕とリオンさんは雑談をしながら大浴場へと向かった。大浴場の中は静まり返っており、湯気がもくもくと上がっている。昨日も入ったけど、大浴場はやっぱり気持ちがいい。


「ふぅ、疲れた身体に熱いお湯が染み渡るな」


「凄いですね、リオンさんの身体」


「!?」


リオンさんが驚いた顔をして僕との距離を離す。そして、僕は自分の言った台詞を慌てて取り消した。


「ちッ違います、僕も鍛えてますけどリオンさん程じゃなくて、、、凄い傷の量ですね」


「まったく、、、レーヴェ。俺の身体の傷を話すんなら、君の体の傷の量もさながらだぞ」


「そうですね、すみません」


僕の傷は《マシュー先生》との鍛錬の傷。僕の努力の証だけれど


「レーヴェ、お前は駄目だ。これ以上鍛練をお前に与えても、価値はない。初段を与える、それ以上は、、、自分で考えろ」


「先生!先生!」


僕はマシュー先生にとって、良くできた弟子じゃ無かった。僕は、、、


「レーヴェ、どうかしたか?」


「リオンさんは僕を見て、どう思いますか?」


「、、、筋肉の付き方はおかしくない。だが、足と腕にかけては使う武器の影響だな。それ以外はバランスの取れた肉づきだと思うぞ」


冗談で言ったつもりだったのだけれど、それに本気で答えて貰って戸惑い半分、嬉しさ半分と言った所なんだけど、聞いた身からしたらおかしな事だよね。


「ふぅ、そろそろ上がろう。長風呂は逆に身体に悪い」


リオンさんにそう言われ、僕は湯船から上がった。

リオンさんと僕は風呂から上がり、談話室で休んでいた。湯上がりにスポーツドリンクを飲んで塩分補給をしつつ、ただソファに身体を沈める。


「まだ6時ですし、リオンさん何か、、、あれ?」


リオンさんがいた場所にはその姿はなく、キッチンからガサゴソと音が聞こえてきた。


「何してるんです?」

 

「朝食を摂ろうと思ってな。レーヴェ、君も食べるか?」


「え?良いんですか?」


「ふっ、俺の料理に文句は言わせんからな」


リオンさんはニヤリと嗤った。その姿は何か悪い事を考えているようだったのだけれど、完成したのは見たことのない料理だったけど、とても美味しそうだ。


「フレンチトースト、チキンサラダ、ジャガイモのポタージュにコーヒーだ。ターシェ王国産のかなり苦い豆だ。目覚めには良い。ミルクや砂糖は自分で入れてくれ」


リオンさんはシャツにエプロン姿で僕の前に立って料理のメニューを教えてくれた。一口食べるだけで僕の口から言葉が消えた。美味しいって簡単な言葉は出来なかった。感想を言おうとしたけど、僕は気付いたら黙々とただリオンさんに出された料理を食べていた。


「!もう7時かレーヴェ、俺の朝食はどうだ。文句は言わせないと自負しているんだが」


「美味しいです!すみません、もっと良い言葉があったかもしれません。でも、僕はそんな事を言える人間じゃないので、、、でも、美味しいです!」


リオンさんは軽く微笑むと


「食器は自分で片せよ」


と一言述べた後、自分の分を片付けて自室に帰っていった。まだ余っている朝食を食べていると、起きてきたばかりのルイスがキッチンに入ってきた。


「これ、レーヴェが作ったのか?」


「違うよ、リオンさんが作ったんだ。もう、美味しい以外の感想が浮かばなくてさ」


「俺も一口」


「嫌だ」


ルイスに奪われる前に残ったフレンチトーストとポタージュを飲み込んだ。味が混ざってしまったけど、美味しい物は変わらず美味しかった。


「あっ、酷え!」


コーヒーを飲みつつ、チキンサラダを食べる。サラダのドレッシングもさっぱりして本当に美味しい。


「なら、これだけは」


「あ」


僕は苦いの大丈夫だけど、それでも一口のんでミルクと砂糖を足そうと思った代物なのに。まさか、一口で飲み干そうなんて。


「!!!」


「ルイス、大丈夫かい?」


顔が青くなっている。うん、あのコーヒーは目覚めには最高だろうね。コーヒーをなんとか飲んだルイスは急いでキッチンの冷蔵庫からミルクを取り出すと、ジョッキに入れてそれを飲み干した。


「うぷ、、、」


500mlのミルクを一気飲み。そりゃあ、気分も悪くなるよ。ルイスは今にも吐きそうな顔でキッチンを出て何処かに向かった。僕はルイスな為にコップに水を入れておいた。案の定、ルイスはそれを飲み、僕に感謝の言葉を述べた。


「なんだよあのコーヒー!」


「リオンさんいわく、ターシェ王国産のかなり苦い豆だって。多分、ミルクとか砂糖を入れるの前提なんだろうね。あっ、でもリオンさんはブラックで飲んでたような」


「うげぇ、あんなのをブラックか。流石、ターシェの人間は違うな。っと、俺は酒場で朝食にするか。レーヴェ、またな」


ルイスがいなくなって、僕も食器を片付けていると階段を一斉に降りてくる音が聞こえた。多分、女子生徒だろう。キッチンを覗く事なく、第3学生寮を出ていった。


「う~ん、どうせやることないし《図書館》でも行くか」


僕は第3学生寮を出て、学院の図書館に向かった。ここは歴史書等も沢山あって、僕には宝の山みたいな物だった。


「君は、歴史を嗜むんですか?」


「え?」


本を選んでいると不意に声をかけられた。驚いて振り返ると学院の教官を示すバッチが胸に付いている。


「おや、E組の子ですか。では始めましてですね。私は歴史学を教えているトーマス・ワトソンです。気軽にトーマス教官と呼んで下さい」


「はい、トーマス教官」


歴史学か、僕も好きな教科だし色々話してみたいな。


「おや、君が手に取ろうとした本。〘北都制圧戦の真実〙ですか、なかなか面白い物を読みますね」


「はい、歴史は戦争の勝者だけでなく敗者の視点から語られる物もあります。北都制圧戦は10年戦役において、唯一あのエルフリーデ大帝が住民を虐殺した事で有名な戦闘です。一般には市民達は帝国で違法だった奴隷商法を行っていた為、粛清の為と言われています。しかし、それはエルフリーデ大帝軍の視点であり、《アラン》軍の視点や、第三者の視点では無いのです。しかし」


「この本にはそれぞれの真実が記されている。ですか」


「はい、トーマス教官も知っていたのなら止めてくれても良いじゃないですか」


つい熱く語ってしまった事に恥ずかしさを覚えつつ、僕の前でニヤついているトーマス教官に異を唱える。しかし、トーマス教官は笑いながら僕に話しかけてくる。


「いえいえ、私は喜んでいます。今の子は歴史に興味が無い人が多いのでして。中々新鮮でした。では、、、そうだ、名前を聞いていませんでしたね」


「僕は、レオンハルト・オイラートです」


「ではレオンハルト君、歴史の授業で会いましょう」


そう言ってトーマス教官は図書館を出ていった。ピクシーを開いて時間を確認すると0745と表示されている。僕は北都制圧戦の真実を借りてE組の教室へと向かった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー解説

第1学生寮

貴族生徒の為に建てられた学生寮。と言うよりむしろホテルと言ったほうが良い。管理人及び120名の貴族生徒の健康を管理するメイドが300人程働いている。このメイド各貴族家から派遣された人員である。


第2学生寮

平民生徒用の学生寮。管理人はいるが基本的に掃除や洗濯、すべて自分で行う必要がある。食事も出ることが無いため、皆近くの酒場で朝食と夕食を摂る生活をしている。


第3学生寮

元は軍人が30名程駐屯していた施設。それが6年前に廃棄されたのを学院が買い取りE組専用の学生寮となった。3階建て+地下2階があり1階には談話室、30名が入れるキッチン食堂がある。2階は女子生徒の個室が与えられ、3階は男子生徒の個室がある。

地下1回には訓練場、地下2階には大浴場がある。


マシュー先生

レーヴェに七ノ葉一刀流を教えた師匠。女性でありながら、剣聖と呼ばれる。かなりの呑兵衛であり、

博打にも目が無い駄目人間とレーヴェは思っている。


北都制圧戦の真実

作者不明だが、かならりの量が帝国内にて出版されたが、かなりマイナーな歴史書。内容はエルフリーデ大帝に批判的な物もあるため、歴史書として人気が低いが史実だけでなく各方面からの視点も描かれている為、人気は低いが有能な歴史書となっている。

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