真実2
神父様曰く、急に倒れた俺を介抱しようと近づいたところ、俺の全身を包み込むように炎が発生したという。不思議なことに、服は燃えることはなく、まるで近づく者を威嚇しているようだったとのことだ。
神父様曰く、その後、誰かに操られているかのように俺は立ち上がり、攻撃を開始したという。神父様と少年にたくさんの火の玉が向けられたらしい。
神父様曰く、神父様自身が癒しの術をお使いになり、少年があの手この手で止めてくれたらしい。この部分は曖昧な説明だけだった。どうやら知られたくないことがあるようだが、不躾に詮索するのも得策ではないだろう。
神父様曰く、身体の痛みは様々な要因含め、身体の急速な変化に耐えられなかったことによるものだそうだ。因みに、二三日で治るらしい。
全てを聞き終わった俺は、一先ず体内にある空気を一気に外へ吐き出した。困ったことになった。今の話が本当ならこの人たち、いや、教会全体に大変迷惑をかけたことになる。どれくらいの謝罪をするべきだろうか。どれくらいの謝罪で受け入れてくれるだろうか。それに加えて、二三日動けないとなると、ホウショウよりも回復が遅い可能性の方が高い。あの仏頂面がさらに凶悪に歪むのを想像する。この事実がホウショウの耳に入ってしまったら俺は生きていないかもしれない。想像するだけも寒気がする。どうしたものか。
「あの、顔色が悪いようですが、大丈夫ですか」
横を見ると、そこには心配そうにこちらを窺う神父様がいた。逆に心配させてしまった。未だ頭の整理は出来ないが、何か話せないとこの場が持たない。そう思った俺は何とか重たい口を開いた。
「すみません、自分でも何が何だか」
取り敢えず、当たり障りのない謝罪をしてみる。
「いえいえ、これは貴方自身の意志ではないことは分かっていますので。お気になさらずに」
神父様は人の良い笑顔でそう答えた。前言撤回。この笑顔で町の人たちを騙している。この笑顔で子供たちを酷使している。想像すらできない。この暖かい微笑みは神にも匹敵するほどだ。神父様を疑っていた自分が恥ずかしい。いや、騙されるな。この笑顔も表面上のものかもしれない。
この世は嘘だらけだ。平気に嘘を吐き、他人を貶める。自分の行動を顧みず、それを正当化する人たち。物心ついた時からそんな大人に囲まれて生きてきた。汚い、どす黒い感情すべて、余すところなく見てきた。その人の本質など見ることは出来やしない。心が透ければ良いのにと、何度思ったことか。どれだけ、善人であっても俺にとって味方になるかは分からない。それこそ、自分で見極め、選択する必要があるものだ。
「神父」
「ん?何かな、シナノ」
ずっと口を挟まなかった少年、いや、シナノが口を開く。
「話したい」
その言葉に神父は少し目を見開いた。はじめて人間らしい表情を見た気がする。そこまで頑なな神父の表情を崩す少年に今度は意識が向けられる。一体、何の話だろうか。
「分かったよ」
根負けしたのか、神父は退室しようとする。
「では、失礼しますね」
二人だけになった空間はよく冷えていた。沈黙が流れ、どちらも動かない。話したいと言った張本人から切り出すのが筋だが、子供にそう言ったところで大人気ないのだろう。一般的な感覚は俺には分からない。ただ、子供には優しくするものというのは分かる。俺がそうして欲しかったように接すれば良い。
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