真実1
重たい瞼を持ち上げる。まるで初めて地上に降り立ったかのような感覚があった。焦点が合わず、不安定に彷徨っている。急に入ってくる光にまだ目が慣れていない。数秒後、はっきりと見えたのは一面の白。視線を横にすると、棚に入っているたくさんの液体が見えた。部屋中を見渡すが、やはり俺が知っている場所ではないらしい。
そこでふと気づいた。身体に激痛が走り、動けない。首から上は動くが、そこから下はからっきしだった。筋肉痛にも似ている気がする。身体の不調に見覚えのない場所、加えて少し記憶が曖昧になっている。整理できない状況に自分がどうするべきか分からなかった。動けないから俺がどうすることも出来ないのは確かだが。
俺は考えるのを諦めて真っ白な天井を見た。自分がこうして息をしていることが不自然に思えた。息に集中し、何度も吸ったり吐いたりを繰り返してみる。そうしたところで何も変わらないが、奇跡が起きないかと試してみるのだ。
「起きた」
一滴の雫のように、その声は部屋へと落ちてきた。思わず、声がした方に視線を向けると、どこか見覚えのある人物が立っていた。
記憶の欠片を拾い集めながら視線の先の少年を凝視する。
『「神父……」
目の前の人が口を開いたのかと思ったが、どうやら違うらしい。急に聞こえた第三者の声に驚き
を隠せない。
声が聞こえた方を見ると、そこには七歳から十歳程の少年がいた。その瞬間、身体の不調はな
く、代わりにまたあの現象が起きる。鎖骨付近の古傷が赤く光りだしたのだ。』
そうだ、俺が倒れる前に現れた少年だ。少年が現れた時、ホウショウと出会った時と同様の現象が起きたように見えた。ホウショウとの共通点はあまりないような気がするが、話を聞いた方が良いかもしれない。
「ホンモノ?」
考えを巡らせていると、少年が口を開いた。
言葉の意味を図りかねている。その少年とはほぼ初対面だ。初対面の相手に向ける言葉としては少し踏み込んでいるようにも思える。大体、俺の偽物にでも会ったことがあると言うのだろうか。普通の人にその言葉をぶつけたら、冷たくあしらわれるか怒鳴られるかの二択だ。
「シナノ。そろそろ宜しいですか。」
ドアの隙間から神父様が顔を出す。どうやら少年が来た時から傍にはいたらしい。人間離れした美しいご尊顔をこちらに向けられる。俺は緊張からか、身体を固くした。
「男」
俺の考えを知ってか知らずか、少年はボソリと呟いた。今度は言葉の意味をすべて理解した俺は取り繕った笑顔を少年へと向ける。
男だとは理解していた。只、神父様は性別を超越しているようなそんな美しさがあったのだ。決して懸想してなどいない。そういう思いを込めての笑顔だ。
少年はすぐに俺から興味をなくしたように目を背ける。どことなくホウショウに会った時と同様の雰囲気がした。目の前の少年とホウショウは容貌も性格も全てが似ていないのだ。あの謎の現象も気になる。目には見えない共通点が隠れているのかもしれない。動けない身体の代わりに、頭を全回転させていると、
「近づいても宜しいでしょうか」
まだドア付近に立っていた神父様に声をかけられた。
可笑しなことを聞くなと思った。教会では近づくのに許可が必要だっただろうか。正直、教会のことはよく分からない。だが、そのような話は一度も聞いたことがない。もしかしたら、俺の知識不足かもしれない。今まで教会に行ったこともなければ、興味もなかった。そんなこともあるだろうと甘く考えていた。
「急なことでさぞかし驚いたことでしょう。今から経緯を話しますので、心してお聞きになって下さい」
そう前置きし、神父は俺が気絶してからの出来事を順に話していった。
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