第264話 報告

 もう夕方だ。一体何だろう。

 そう思いつつ私は起き上がって、そして偵察魔法で再度アルベルトさんの位置と速度を確認する。


 アルベルトさんの位置は道から外れて森に入ったばかりの場所。ただし歩く速度が前に比べて速い。前回魔法で道を切り拓いてあるからだろう。この調子だと10分も経たずに着くはずだ。


 男性は苦手。対人恐怖が無くなってもそんな意識が無い訳では無い。

 しかしアルベルトさんなら前回の件があるので大丈夫。それにあの中ボスについて何か聞くことが出来るかもしれない。


 出しっぱなしにしている平屋の中をアイテムボックススキルと風属性魔法で掃除する。部屋の中の家具類を全て収納した後、強風で埃その他を外へ出しただけだけれども。


 テーブルと椅子を戻してカップとお皿を出し飲み物とお菓子を入れる。飲み物は前回と同じ冷やした蜜柑葉茶、お菓子は前回はチーズケーキだったから今度はプリンで。


 なおリディナが作るプリンはがっしり固くて大きめ。しかも生クリームとカラメルソース両方仕込んである豪華版。

 だから1個でショートケーキ1個と同等の充実度がある。


 準備はこれでいいだろう。外に出て彼が到着するのを待つ。

 それにしても今度はどんな用件だろう。そう思いつつ待っているとほどなく姿が見えた。到着だ。


「すみません。わざわざ待って頂いたようで」


「いえ、それでは中へどうぞ」


 前回と同様、平屋の中へ。


「それで今回はどのようなご用件でしょうか?」


「今回はフミノさんへの報告になります。内容は隊の方へフミノさんの件を報告した結果についてです」


 おっと、それは。


「わざわざありがとうございます。それでどうだったでしょうか」


「分遣隊長の言葉をそのままお伝えします。

『正規の冒険者で、かつゴーレムを使用しているならば命の危険は無いだろう。任意の協力で本人が公にする事を望まないなら特に報告する必要は無い』

 以上です」


 助かった。私の要望通りだ。


「ありがとうございます。これで安心です」


「いえ、こちらがフミノさんにお手伝いしていただいている立場ですから。

 それでは詳細について御説明致します。


 私から分遣隊の幹部に直接、

  ○ こちらにフミノさんがいらしている事

  ○ 内部にゴーレムを送り込んで迷宮ダンジョンを攻略いただいている事

  ○ 目立たないように行動したい事

  ○ 指名依頼も受けたくない事

について報告し、了解をとりました。

  

 ただし、

  ○ 迷宮ダンジョンを地下へと送り込んだのがフミノさんである事

については報告していません。


 これは通常知られている魔法では実行不可能だからです。

 何か知られていない特殊な大魔法か、またはごく希に見られるという特殊なスキルか。そういったもの無しではこのような事は無理でしょう。


 ですのでこれをフミノさんが行ったと報告すると、騎士団上層部、あるいはその他の王国内組織の注目を浴びることは間違いありません。

 おそらくフミノさんはそういった事態を望まないでしょう。ですので報告は控えさせて頂きました。


 ですのでフミノさんは、

  ① 空属性魔法で迷宮ダンジョンへゴーレムを送り込んで討伐を実施していたが、

  ② ゴーレムを送り込んだ後、原因は不明だが迷宮ダンジョンがいきなり地中深くへと降下したので、

  ③ ゴーレムと空属性魔法を使い、そのまま迷宮ダンジョンの攻略を続けている

事になっています。


 以上です」


 確かにアイテムボックスのスキルを使わないで迷宮ダンジョンを地下へ落とす方法となると……私にも思いつかない。


 土属性の魔法、例えば土移動の魔法でも理論的には出来ない事はない。ただ迷宮ダンジョンを周囲の土ごと5離10km移動させる事になる。


 地中の土を移動させるのは大変だ。それを迷宮ダンジョン全体分となると冗談みたいな魔力が必要となる。

 ミメイさんとかフェデリカさんレベルの土属性高レベル魔法使いが100人……でも足りない、多分。


 あとは空属性の高レベル魔法、物質転送で直接送り込むなんて方法も理論上は可能だ。

 ただし物質転送、空属性レベル8の魔法使いでも20重120kg程度のものを5離10km先に送るのがやっとらしい。本で読んだ限りではだけれども。物質転送魔法、私はまだ使えないから。


「本当にありがとうございました」


「いえ、迷宮ダンジョン対策にはフミノさんの力が必要ですから。


 我々の物質転送魔法では10重60kg程度の物を1日1回、迷宮ダンジョン内部に出し入れする程度です。魔物を倒しても回収する余裕はありません。ですので迷宮ダンジョン弱体化の為、魔物を倒して回収する作業はフミノさんにお任せする事になってしまいます」


 確かにそうだ。でも私としては本当に助かった。何というか、ここに調査に来たのがアルベルトさんで本当に良かった。

 そう思って、そしてふと思い出す。そういえばアルベルトさんが来たら聞いておきたい事があったのだった。


 質問しようかと思ってそして気づく。まずは一服してからだろう。 


「折角ですのでお茶とプリンをどうぞ」


「ありがとうございます。いただきます」


 アルベルトさん、やはり美味しそうに食べる。見ていて気持ちがいい。

 さて、それではあの中ボスについて聞いてみよう。


「ところで迷宮ダンジョンの北西端側に、遠隔の魔法では倒しにくい魔物がいるのですが、何という魔物でしょうか?」


「北西端というとコボルトキングですね。この迷宮ダンジョンで確認されている中で2番目に強力な魔物です」


 やはりコボルトの上位種だったようだ。そして騎士団把握済みと。


「私が使える空属性の魔法では倒せなかったのですが、何か弱点はありますでしょうか?」


「コボルトキングは全属性の魔法に強い抵抗力があります。倒すとすれば槍による格闘戦しか無いでしょう。

 ですが兵士が周囲に展開可能な平地であっても、騎士団の精鋭が最低2個中隊は必要とされています。ですので迷宮ダンジョン内でしたら倒す手段は無いと言っていいでしょう」


 魔法で倒せる相手では無いようだ。ならどうすればいいだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る