第263話 中ボス? の確認

 アルベルトさんが来てから丸一日が経過した朝。サンドイッチを食べながら出しっぱなしのヒイロ君経由で迷宮ダンジョン全体の様子を偵察魔法で確認。


 この迷宮ダンジョン、以前攻略したグランサ・デトリア迷宮ダンジョンより強力に感じる。


 魔物の数と質が上というだけではない。昨日400匹近い魔物を倒したのだ。それなのに今見た限りでは魔物の数も質も討伐開始前と変わらないように感じる。


 正直めげる。しかしだからと言って中止する訳にはいかない。


 アルベルトさんに迷宮ダンジョンが消えるまでいると言ってしまった。それに帰っても指名依頼でどうせまた此処に来ることになるだろうし。


 今の私に出来る事はより多くの、より強い魔物を倒して回収する事だけ。


 今のところこの迷宮ダンジョン内で私が倒した最も強い魔物はアークトロル。

 しかし北西端にはもっと強いのがいる筈だ。


 よし、ヒイロ君周辺とウーフェイ君周辺の魔物を全滅させた後、北西端へと行ってみよう。

 勿論行くのは偵察魔法の視点だけ。ゴーレムが壊れると直すのが手間だから。


 この迷宮ダンジョンはアークコボルトやエルダーコボルトが集団でたむろしている。まともに戦うと素早くて力が強く、しかも小柄なので攻撃を当てにくい。

 

 しかし偵察魔法&空即斬ならそんなの関係ない。バッサバッサ切って収納するだけだ。


 とりあえず2箇所合わせて100匹程度狩った後、視点を移動させて北西端へ。

 途中、視点は竜種ドラゴンの処を通る。やはり視点だけだと気付かれないようだ。

 

 念の為途中で魔物を狩る事はせず移動だけ。

 北西端へ近づくにつれ、前方に大きな気配を感じるようになった。最低でも混ざり物キメラ級だ。


 更に近づく。ようやく姿が見えてきた。混ざり物キメラとはかなり異なる姿だ。


 この魔物、正式な種類が分からないから、仮に中ボスとでも呼んでおこう。


 中ボス、形態はコボルトに似ている。しかし肌の色が黒に近い灰色で身体も大きい。魔力も存在感もエルダーコボルトやアークコボルト辺りとはまるで別物。


 コボルトジェネラルとか、コボルトキングとかいうようなコボルトの上位種、もしくはその変異種だろう。そう見当をつける。


 ただこの中ボス、大きくともコボルトの類いなら空即斬が効くかもしれない。効かなくても視点に攻撃をする事は出来ない。だから問題無い。

 試してみよう。


『空即斬!』


 固い! 斬れない!

 空即斬はウィンドカッターのような物理的な切断ではない。空間を歪めて断裂させるという魔法の筈。


 それでも斬れない。という事は魔法抵抗力が邪魔しているという事か。いずれにせよいつもの私の方法では倒せない。


 斬れなかったが衝撃はあったようだ。中ボスはさっと奥、北西側に飛び退き槍を構える。なかなか立派な槍だ。冒険者か騎士団員のものだろうか。それとも魔物と同様に生成されるのだろうか。


 中ボスは周囲をギョロギョロ睨む。攻撃してきた相手を探しているようだ。ただ視点の存在に気付く様子はない。


 さて、中ボスをどうしようか。


 無視して他の雑魚を倒していくのが多分堅実かつ正しい方法だろう。

 しかし竜種ドラゴン以外にも倒せない魔物がいると、他の魔物をいくら倒しても迷宮ダンジョンの弱体化が進みにくい気がする。あくまで私の勘だけれども。


 私が倒せないなら他の存在に倒して貰う、という手もある。

 しかし竜種ドラゴンに倒させるのはやめた方がいいだろう。万が一竜種ドラゴンがそれで進化、そこまで行かなくとも強化してしまったら洒落にならない。


 そうなると……あとは騎士団頼みくらいしか無いかな。

 アルベルトさんは何かあの魔物に有効な攻撃魔法を持っているだろうか。そうでなくとも何か役に立ちそうな知識を持っているだろうか。


 よし、わからない事は後回し、とりあえず雑魚討伐を続けよう。これでも魔素マナが減る事は確かなのだ。


 さしあたってはこの場所から迷宮ダンジョンの中央側に向かって雑魚を倒していこう。迷宮ダンジョンのこちら側はまだ討伐をやっていないから、魔物の人口密度? が高い。


 それではヒャッハー開始だ。この魔物、仮に中ボス君が多少騒いでも、この近くにゴーレムはいないから問題無い。


 まずはそこのアークコボルトの群れから……


 ◇◇◇


 コボルト類やトロル類は素材にならない。厳密に言うとトロルの毛皮はある程度の値段はつくけれど、需要はあまり多くない。

 だからあまり多いと引き取って貰えない。大量に取っておいても始末が面倒になる。


 だから昨日は夕方、アイテムボックス内に収納した魔物の焼却処理をやった。結果、もう数えたくない位の魔石が貯まってしまった。


 何と言うか、村でやっている教室で使っているおはじきをこれで代用しても余裕な位だ。勿論実際にそんな事はしない。魔素マナで何が起きるかわからないから。


 これらの魔石を冒険者ギルドに提出すればいいお金になるだろう。

 私1人なら一生ニートしても問題ない程度の額はありそうだ。肉は偵察魔法&空即斬で狩ればいいし、野菜と穀物代だけなら1月正銀貨2枚2万円もいらないだろう。


 リディナやセレス、子供達全員の生活費としても数年分くらいは余裕かな。こちらは洋服代とかかかるから少し余裕をみて計算。


 これだけ狩ると焼却処理が面倒だ。だから今日はもう焼かずに収納したまま。

 何せ昨日だけで400匹以上の魔物を狩っている。今日もそのくらいは魔物を狩っただろう。


 しかしこれだけ狩っても迷宮ダンジョン内、やっぱり変化が感じられない。


 きっと明日も同じ感じなんだろうなあ。そう思うと何と言うか私の努力? が何にもなっていないようで悲しい。


 夕方が近いせいかそんな風に弱気になってしまうのだ。赤みを帯びはじめた太陽の光が私をメランコリックにしているのだろうか。


 きっと少しは迷宮ダンジョンも弱っている筈だ。ただ変化が微小すぎてわからないだけ。多分きっとそう。

 希望的観測かもしれないけれど。


 でもそれなら迷宮ダンジョンが消失するまで、どれくらい時間が必要なのだろう。リディナのところへ帰れるのはどれくらい先になるのだろう。一ヶ月、二ヶ月、ひょっとして年単位……考えたく無い。


 もっと早く迷宮ダンジョンを消すには竜種ドラゴンか、せめて中ボスを何とかしないと駄目なのだろうか。何とかして倒す方法を模索した方がいいのだろうか。


 そんな事を思った時だった。


 偵察魔法で飛ばしている視点のひとつが、このお家に向かって進んでくる人の魔力反応を捉えた。

 近くに視点を移動させて確認する。間違いない、アルベルトさんだ。

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