第245話 無事? 帰宅
ゴーレム車なしのライ君だけなら多少の森の中でも場所を選べば移動できる。道が無くても大丈夫。ライ君の身体が入る隙間と足場さえあれば問題無い。
そう思ってトンネル経由では無くあえて山道経由で移動。
多少の上り坂はライ君をやや跳ねさせる感じで移動。下り坂は普通に移動して大丈夫。
結果、思ったよりあっさりとローラッテ近くまで到着した。
どうやら道のあるなしや高低差についてはある程度無視しても問題なさそうだ。ライ君の力と速度と縮地+があれば。
むしろ最短距離を通れる分、正規の道経由よりも速い気すらする。
ならばだ。
とりあえず門の近くでライ君から降りて歩きながら私は考える。
行きは基本的に街道に沿って移動してきた。しかしライ君乗馬状態なら街道を通らなくても問題無い事がわかった。
それなら地図上の最短距離を通れば早く帰れるのではないだろうかと。
帰りに試してみよう。うまく行けば今日中に帰れるかもしれない。
実を言うと既にお家が恋しくなっていたりするし。
しかしまずは金属購入。鉄と銅、あと温泉ハウスで青銅を使い果たしたから、青銅も。
黄銅もあれば買っておきたい。
門と衛士が大分近くなってきたので身分証を出して提示しながら歩く。
「どうぞお通りください」
リディナやセレス無しの私1人でも、今は歩きで街に入る事が出来る。
これって相当な進歩だよな。そう思いながら製鉄所の事務所を目指す。
◇◇◇
思う存分金属を買いまくり、ついでに
この
今の私なら1人で買い出しをする事も出来るのだ。ローラッテとアコチェーノ限定だけれども。
実はカラバーラではまだ無理。頑丈そうで強そうな男性が微妙に多いから。
それにしてもローラッテ、もう村ではなく完全に街だ。街壁に囲まれている部分が広いし人も多いし活気もあるし。
というか街壁、更に広がっているような気がする。きっと人が増えたから街そのものを広げたのだろう。
新たな街壁を作ったのはフェデリカさんだろうか。今日は製鉄所では彼女を含め知り合いに会えなかったけれども元気かな。
イオラさんが特に何も言っていなかったので問題は無いと思うけれど。
鉱山は順調な感じだ。動きに何となく活気を感じる。偵察魔法で見た限りではトロッコは順調に稼働していたし。
それでは帰るとしよう。街門を出て周囲に人がいなくなった辺りでライ君を出してまたがる。
縮地や縮地+は短距離ワープみたいなもの。そう私は理解している。
1回の起動で縮地なら手拍子の音程度の時間、縮地+なら1数える程度の時間、ワープする。
そしてワープする方向と距離は基本的に起動時の方向と速度に依存する。
勿論ある程度の調整は出来るから、出る場所を調整して障害物を避ける事は可能。でも遠くへ出るのを近くへ調整するのは可能だけれど、近くへ出るのを遠く方向へ調整するのは難しい。
つまり目的地の方向へ向かって出来るだけ速く走りながら縮地+を起動すれば、より速くより遠くへと移動可能という訳だ。
私はライ君を道の左側に寄せる。向かいたい方向は街道まっすぐよりやや右側。だからその方向出来るだけ加速しやすいように。
では行くぞ。私はライ君を道を斜めに突っ切るような形で走らせる。道から外れる少しだけ手前まで加速して縮地+を起動。
縮地+で移動可能な場所がかなり先まで見渡せる。これも縮地+の魔法の効能というか機能なのだろう。
障害物を避けながら移動する事も難しくない。流石に途中で魔物を狩ったりする余裕は無いけれども。
勿論魔力はそれなりに使う、でも今の私なら余裕だ。
ならば更に速度を上げようか。少しでも早くお家に着くために。
私は足をライ君の左右にあるステップにかけ、中腰になって、持ち手を握った状態で更にライ君を加速させた。
おお速い。無茶苦茶速い。これはもう、新幹線以上なのではないだろうか。
よし行けライ君! 目標は明るいうちにお家到着だ!
◇◇◇
ガチガチの筋肉をだましだましライ君から降りる。
地面が揺れている。股関節が言うことを聞かない。膝もガクガクしている。まっすぐ歩くのが辛い。まっすぐ立つ事すら実は出来ない。
それでももうお家は目の前だ。入ってしまえば大丈夫。だから私は横歩きのような感じで扉の前へ。
ノックして、『ただいま』と声をかけて扉を開ける。中へ入ろうとして僅かな段差に足をひっかけて倒れてしまった。
けれど何とか手と膝をついたので顔は打たないで済んだ。膝は痛いが元々痛い筋肉痛と比べればたいした事はない。
「どうしたの、フミノ!」
リディナとエルマくんが飛んできた。確かにこの状態を見たら心配されても仕方ない。だから大丈夫だと説明をしておこう。
「アコチェーノと、ついでにローラッテにも行ってきた。疲れた。でも大丈夫」
「本当に大丈夫なの?」
「単なる筋肉痛。それだけ」
ただもう一歩も歩く事が出来ない。倒れた姿勢から立ち上がるのすら無理な気がする。
でも倒れたまま這いずるのは出来るかもしれない。しかしそれなら転がる方が楽かな。
エルマくんが足をぺろぺろ嘗める。それが妙にくすぐったい。
「でもフミノさん、出かけたのは昨日の朝ですよね」
私はセレスに頷く。
「ライ君に騎乗して最短距離を走りながら縮地+を使った。アコチェーノまで半日かからない」
帰りはローラッテを11の鐘より後に出たのだ。今はまだ4の鐘くらいの時間だろう。我ながらとにかく速かった。筋肉痛のおまけがついたけれど。
それでもこれで2日あればアコチェーノに買い出しに行ける事がわかった。これは成果だ。
「アコチェーノって、どのくらいの距離があるんですか?」
アコチェーノはあまり大きな街ではない。だからサリアちゃんは知らないようだ。
「普通の馬車だと片道で……8日はかかるかな。うちの速いゴーレム車で飛ばしても3日はかかる距離だよ。ラツィオより更に先、っていえばわかるかな」
「そんなに遠いんですか。うちはアルチェから1ヶ月以上かけて歩いてきたのに」
アルチェとはサリアちゃんやレウス君が以前住んでいた村。ラツィオとネイプルの中間くらいにあるらしい。それより遠いと聞いて驚いているようだ。
「余所では言わない方がいいです。これはフミノさんの特別な魔法とゴーレムが無いと出来ない事だと思いますから」
セレスがそう注意する。
「それじゃフミノ、どうする? ご飯を食べる?」
実は昼食を食べるのを忘れたけれど、それは内緒にしておこう。お腹は空いていないから問題無い。
それに今は筋肉痛を何とかしたい。そして此処にはちょうどいい施設がある。
「昼は食べたから大丈夫。温泉に入ってきたい。シェリーちゃんを使っていい?」
「大丈夫です。そこに置いてあります」
リビングの奥で壁によりかかった状態でお座りしているシェリーちゃんが目に入った。早速起動して、私の方へ呼び寄せる。
「温泉ハウスに行ってくる」
「わかった。ゆっくりしてきてね。フミノ用は食べやすいものを用意しておくから」
「ありがとう」
シェリーちゃんに私を抱きかかえさせる。これで私が動かなくても移動可能だ。
シェリーちゃんに抱きかかえられたまま温泉ハウスへ。やっぱりエルマくんがついてくる。
シェリーちゃんの両手が塞がっているので、扉をあけるのは私の手で。最初に入っていくのは勿論エルマくん。その後を私をかかえたシェリーちゃんが続く。
服は面倒なのでアイテムボックスへ収納。身体を洗うのも今日はパスでそのままぬる湯にドボンだ。
うう……身体全体がむずがゆい感じ。でも確かに疲れには効いている気がする。
これでしばらくすれば楽になるだろう。でも一応治療魔法と回復魔法はかけておこう。
そういえばリディナにお土産を渡すのを忘れていた。
まあ後で言えばいいか。何なら明日の昼、みんなで食べてもいい。
無事お家に帰ってきたのだ。ここからならリディナの、セレスの、サリアちゃんとレウス君の存在を感じる事が出来る。エルマくんに至ってはすぐそこの水風呂で遊泳中。
だからまあ何というか、めでたしめでたしだ。筋肉痛はちょい辛いけれど。
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