第241話 お家に帰ろう

 買物と食事が終わったらゴーレム車に乗ってゼアルさんの牧場へ。


 牧場入口のいつものところにゴーレム車を停める。黒い塊がものすごい速度で受付の建物から吹っ飛んできた。危険物とか魔物ではない。エルマくんだ。


 エルマくんは勢い余って私達のそばを通り過ぎ、そのまま周囲をぐるぐる回る。


「エルマ!」


 レウス君がそう呼ぶと嬉しそうに飛びついて、手や顔をなめなめする。うーん、どっちも可愛い。


「それじゃ山羊のお婿さんを迎えに行こうか」


「うん!」


 5人で受付の方へ歩いていく。エルマくんも私達の周囲をぐるぐる回りながらついてくる。


 建物に着く前にゼアルさんが顔を出した。


「お帰り。それじゃ山羊を出してこようか」


「お願いします」


 また砂場のような場所で白い粉を踏み踏み。それから台車を押すゼアルさんの後をついて皆で厩舎へ。


 厩舎に入ってすぐの場所でゼアルさんは止まる。


「放牧から戻す時にわけておいた。この2頭だ」


 右側のやや狭い檻の中に2頭の山羊が入っていた。1頭は真っ白で、もう1頭は背中にやや黒っぽい毛が生えている。2頭とも座ってのんびりしている状態だ。


「真っ白な方がカストール、黒っぽい方がボンペーロだ。2頭とも人懐っこいからそっちの農場でも苦労はしないと思う。ただ一応先住の雄山羊とは違う場所か、ロープで接触しないようにしておいてくれ」


「わかりました」


 ならこの2頭用の小屋も作っておこうかな。木材はまだ小屋2軒分くらいの在庫はある。ただそろそろ補充はしたいところだ。


 カラバーラの木材店で買うと軽くて柔らかい南部材になる。一度アコチェーノに買い出しに行ってこようかな。ライ君と私だけなら1週間あれば行き帰りできるだろうし。

 いや、縮地を使えばもっと速いか。


「それじゃ睡眠魔法処理をするぞ。3時間でいいか」


「ええ、お願いします」


 セレスの返答とともに山羊2頭がくしゃっと倒れた。


「えっ、山羊、死んじゃった?」


 レウス君はそう感じたようだ。


「眠っているだけさ。睡眠魔法処理と言ってな、動物を運ぶときに逃げたり騒いだりしないよう、眠らせる魔法だ」


「寝ているだけ?」


「そうだ。寝ているだけだ。それじゃ馬車まで運ぶぞ」


 ゼアルさんは檻の扉を開け、中に入って山羊を1頭ずつ台車へと運ぶ。

 レウス君は台車に載せられた山羊を見て頷いた。


「本当だ。息をしている」


「だろ」


 またゼアルさんの後をついて、ゴーレム車の方へ。


「ところでこの農場、何人位働いているんですか?」


 セレスが歩きながら尋ねる。


「俺を入れて7人だ。うち2人は昨年雇った」


「7人でこれだけの数の家畜を世話できるんですね」


「慣れれば5頭も10頭も変わりないさ。コーディとデイジーも手伝ってくれるしな」


 ラブラドールでも牧羊犬代わりになるのだろうか。少なくともうちのエルマくんはならない気がする。たまに気まぐれで山羊ちゃんを戻す作業を手伝ってくれるけれど、基本はやんちゃな弟分兼愛玩犬だ。


 ゼアルさんには山羊さん2頭をゴーレム車の床に寝かせるところまでやって貰った。


「カストールとボンペーロを返すのは種付けが終わってからでいい。その間の餌はそちらの山羊と同じものを食べさせてくれれば大丈夫だ。

 それじゃまたな」


「ええ、お元気で」


「それじゃ帰りは私が操縦するね」


 何も言わないうちにリディナが操縦を代わってくれた。私がこれから山羊小屋をもう1軒作ろうとしている事に気づいてくれたのだろう。


「ありがとう」


 さて、それでは山羊小屋を作るとするか。

 この山羊2頭がいなくなっても、子山羊が生まれたらまた必要になる。だから今ある山羊小屋と同じしっかりしたのを作ろう。


 あ、でも作る前に一応セレスに希望を聞いておこうかな。


「セレス、新しい山羊小屋を作るけれど、前のと変えた方がいい部分、ある?」


「無いです。あの山羊小屋、しっかりしていて雨漏りも壁や床の傷みも無いですから。山羊さん達も快適そうに使っています」


「わかった」


「ここで作るんですか?」


 サリアちゃんがもっともな質問をする。


「フミノはアイテムボックスというスキルを持っているの。自在袋のすごく大きいものだと思えばいいかな。木材なんかの材料も持ち歩いているし、その中で物を作るなんて事も出来る訳。

 ただこれは他の人に言わないでね。内緒にしているから」


「わかりました」


 さて、それでは作るとしよう。

 まずは必要な木材を取り分ける。今回山羊小屋を作ると、残りの木材は山羊小屋1軒分あるかないか位。これが終わったら買い足そう。


 とりあえず今回小屋を作る分としては問題がない。作業も既に一度やったのと同じだ。どう作ればいいか、構造は概ね覚えている。


 出来るだけ無駄が出ないよう木材を加工して、ログハウス的な山羊小屋を組み立てる。


 うん、今回もいい感じだ。もうこの手の小屋なら楽勝かな。


「出来た」


「えっ!」


 驚くサリアちゃん。わかっていないレウス君。

 一方でリディナとセレスは慣れたものだ。


「前以上に早いよね」


「そうですね。前はもっと先、あの新しい村の入口くらいのところだったと思います」


「出来たって、小屋ですよね」


 サリアちゃんはまともというか常識通りに考えているようだ。


「フミノはアイテムボックス内での工作なら、考えるのとほぼ同じ速度で作れるんだよ。だから材料さえあれば小屋1軒くらいこの時間で作れるわけ」


「でも考えてみたらやっぱり異常ですよね。私達は慣れてしまっていますけれど」


 その通りなのだけれど、出来てしまうのだから仕方ない。

 ただ木材の件については言っておこう。


「そろそろ木材、新たに仕入れておきたい。余裕がある時期でいいから、アコチェーノまで行って買い付けをしておきたい」


「フミノが買い付けをするなら、一度森林組合に手紙を出して在庫や買いに行く日について相談したほうがいいんじゃないかな。向こうへ行ったけれど在庫があまり無かったなんて事になると悲しいと思うし」


 リディナの言う通りかもしれないなと思う。


「農場の方は1ヶ月後の豆の収穫までは大丈夫です。その後は畑を耕す作業、芋の植え付け作業、豆2回目の種まき作業と続きますけれど」


 手紙の往復でどれくらいかかるかな、と考えてみる。うーむ、下手に手紙を行ったり来たりさせるより、私が動いた方が速そうだ。


「なら手紙を往復させるより、直接行った方が速い。私とライ君で、魔法を併用して走れば1週間以内に戻って来れると思う」


「……確かにフミノならそのくらいで往復出来るかもしれないけれど、何と言うか、出鱈目だよね、本当に」


「私もそう思います。普通なら2週間以上かかる筈です」


 そう言われると何だかなあと思う。確かに常識的に考えると異常なのかもしれないけれども。


※ 読者様から以下のような内容で指摘がありましたので追記しておきます。

『反芻動物を眠らせて移動すると、胃の中の微生物の発酵によるガスが胃を膨らませて他の臓器を圧迫して死亡する可能性が有ります。注意深くやって下さい』

 

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