第240話 街でお食事

 放牧されている牛、羊、山羊。小屋の横にある囲われた半屋外スペースにいるアヒルやマスコビー。

 

 サリアちゃんもレウス君も興味津々という感じでじっくり見ている。


「あの黒っぽいのも山羊?」


「そう、山羊だよ」


「何で色が違うの?」


「山羊も種類が色々あって、種類によって色や大きさが違うんだよ」


 そんな説明を主にリディナがしつつ、ぐるっと半時間程度見て回る。 

 最初の厩舎まで戻ってきたら、ちょうどセレスとゼアルさんが厩舎から出てくるところだった。


「ごめんね。遅くなっちゃって」


「いいえ、私も今、お婿さん候補の山羊ちゃん達を見てきたところです。種付けはお婿さんの山羊を2頭借りて、うちの農場でやる事になりました」


「じゃあ帰りの時に雄山羊2頭は渡すから。あとエルマもその時まで預かっておくな」


 エルマくん、今はロープがつけられている。私達の方を見てこっちにこようと紐を引っ張る。

 うーん、何か罪悪感をおぼえてしまう。大丈夫とわかっていても。


「エルマ、大丈夫かな」


「大丈夫だよ。最初に真っ先にあの家に飛び込んでいったくらい、このお家も大好きだから」


 私達はゴーレム車に乗って、そして今度は街へ。 


「お婿さんの山羊は今日、帰りに寄った時にお借りする予定です。普段は離しておいて、種付けの時だけ一緒の場所に入れて様子を見ればいいそうです。

 

 種付け料金は無料ですが、もし子山羊が生まれた場合、1匹でもいいから譲って欲しいそうです。子山羊が2ヶ月くらいで離乳するので、そのころにと言っていました。以前購入した時と同じ価格で買い取るそうです」


「良心的だね」


「そうやって周囲の飼育者とやっていかないと血が濃くなって問題が出るって言っていました」


 そういった事まで考える必要があるわけか。飼育も難しいものだなと思う。


 さて、ここの牧場から街までは1離2km無い。

 このゴーレム車の速度ならすぐに街が見えてくる。


「まずは市場に行ってぐるっと回ってこようか。生鮮だけじゃなくて日用品も必要なものがあったら言ってね。私かセレスに」


 私は戦力外だ。自分でもその通りだと思っているから仕方ない。


 なお今日は本屋というか図書館は回らない予定。2人ともまだ本を楽しむ段階まで行っていないから。

 本はまた別の機会でと昨日3人で話し合っている。


 カラバーラの街は小さいし何度も来ているから地理はほぼ把握済み。リディナの道案内無しでも無事、市場街の端にある広場に到着。

 ゴーレム車を停めて降りた後、背負っていたディパックを前に持ってきて蓋を開け、わざとらしく収納する真似をしながらアイテムボックスへ収納。


 さて、それでは行こうか。


「今日はまず、食べ物から。家にない野菜や果物、お肉やお魚を中心に見ていくよ」


 リディナのそんな号令の後、皆で市場外へ突入。

 最近少しずつこの街も人が増え、賑やかになってきている。つまり私の訓練にはちょうどいい。


 私はサリアちゃんとレウス君を上空から偵察魔法で確認しつつ、頑張って市場街へと踏み出した。


 ◇◇◇


 お昼過ぎ、大分空いてきた食堂に入って一息つく。


 うん、私、頑張った。いつも以上に人が多いこの街を3時間くらい歩いたのだ。昔なら気絶してもおかしくない。


 しかも空いているとはいえ他にも人がいる食堂で一息つけるくらいになったのだ。もうこれは一般人と同等ではないのだろうか。


 ただこの食堂に着くまでの道のりは平坦では無かった。


 私とリディナ、セレスにとって、今回の買物の主役はサリアちゃんとレウス君だ。品定めも2人には必要かな、気に入ってくれるかな、なんて事が第一。


 その結果。たとえばリディナの場合、熟れた食べ頃のサボテンの実なんてのを見つけると、2人を引っ張って行き『あのサボテンの実、美味しそうだと思わない?』なんて聞いたりする訳だ。

 セレスや私がその時何処をどう歩いているか、一切気にせずに。


 勿論セレスもまた似たような状態。こちらは食べ物より衣服や生活用具でそんな感じ。


 結果、気を抜くと残された私ともう1人が他の3人を探す羽目になるわけだ。

 勿論私もリディナもセレスも偵察魔法と魔力感知が使える。だから近距離なら誰かを見失うなんて事は無い。


 ただ私の場合、そもそも他人が苦手。それなのに人混みの中で、他人の気配を感じつつ探さなければならない。

 精神的にいい鍛錬になる。言い方を変えると疲れる。


 そんなこんなで市場街を歩き回った結果、本日のお買い物はなかなかいい感じ。サリアちゃんとレウス君の服や靴はひととおり揃った。フルーツ類も魚も買った。

 あとは御飯を食べて、エルマくんを迎えに行き、一緒に雄山羊2頭を連れて帰るだけだ。


「さて、お昼は何にする?」


 サリアちゃんとレウス君にメニューを渡そうとして気づく。このメニュー表は文字だけだ。まだ2人はあまり読めない。


 リディナもすぐ気づいたようだ。


「今日のランチメニューで選べるのは、

  ○ 牛のカツレツ 牛の肉を揚げたもの

  ○ 鶏肉猟師風 鶏肉と夏野菜を煮たもの

  ○ 牛と豚のハンバーグ

  ○ 白身魚のフライ

のどれかだよ。どれがいいかな?」


「うーん、じゃ、牛の肉を揚げたの」


「白身魚のフライを御願いします」


 レウス君は当初の予定であるハンバーグではない模様。

 サリアちゃんは割とさっぱり系が好きなようだ。


「わかった。飲み物はオレンジジュースか牛乳、トマトジュースが選べるけれど、どれがいい?」


「それではオレンジジュースで」


「僕も」


 やはりサリアちゃん、まだ少し遠慮気味だなと思う。一応ちゃんと頼んでくれたけれど。


 それでも来た頃よりは大分良くなったかなと思う。いちいち本当にいいか聞いたりしなくなった。牧場で動物を見た時は素直に喜んでいた。むやみに怯えるような事も無くなった。


 ステータス的にもマイナス表示は無くなった。そう思ってふと気づく。むしろ私よりステータス的には健全なのではと。


 私の場合は対人恐怖症を恐怖耐性で誤魔化しているだけ。

 今だって背後からお店の人が近づいてこないよう、一番奥の席に陣取らせて貰っていたりする。

 うーん、どう考えても私の方が……


 でも、これでもかなりましになったのだ。きっとサリアちゃんがスティヴァレ語を書けるようになる頃にはもっとましになっているだろう。

 今はそう思う事にする。  

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る