第236話 一緒の食卓

 目が覚めるといつものベッドだった。私の部屋の私のベッド。でも何か違和感がある。


 何故だろう。すぐにその答に気づく。服を着ている。私は寝るときは基本全裸だ。なら何故?


 頭の中がゆっくり起動しはじめる。

 そうだ、私は魔力切れで倒れたのだった。ならリディナとセレスがここまで運んでくれたのだろう。


 ステータスを確認。私の魔力は3割まで回復している。ならば倒れた後、5~6時間というところか。外は暗くなりかけているし。

 なお体力その他に問題はないようだ。


 偵察魔法で家の中を確認。リディナとセレスは1階のリビングでくつろいでいるようだ。あの2人の姉弟は3階、セレスの隣の部屋で睡眠中。


 よし、起きるか。身を起こして立ち上がる。服と髪を整え、濡れ手ぬぐいで顔をぬぐってから部屋の外へ。

 まずはリディナ達に謝って、それから状況説明だな。そう思いつつ階段を下りてリビングへ。


「あ、フミノ、もう大丈夫?」


 いつもと同じようにリディナが声をかけてくれる。

 そしてエルマくんが足下にじゃれてくっついてくる。


「大丈夫。ありがとう。そして済まなかった」


「それだけ急がないと間に合わないと思ったんでしょ。フミノが倒れるまで魔力を使ったって事は、相当酷い状態だったんだろうしね」


「場所はすぐわかったんです。フミノさんが大きい魔力で魔法を使っていましたから。だから2人で迎えに行って、フミノさんと向こうに居た姉弟2人を私のゴーレム車にのせ、バーボン君で引っ張って帰ってきたんです」


 セレスは以前作った小型ゴーレム車を入れた自在袋を持っている。

 そして山羊ちゃんが逃げた時や魔物が接近した時用に、Wシリーズかバーボン君を最低1頭はアイテムボックスから出した状態にしている。

 それを使って私と子供達を小型ゴーレム車で運んでくれた訳か。


「子供を残して夜逃げですよね、あの状況は」


 私はセレスの言葉に頷く。


「だと思う。でも2人には聞いていない」


「私がいた村でも一度あったんです。農業なんて誰でも出来るだろうくらいに思ってやってきた人達が、すぐに逃げてしまった事が。


 そういった人達は農業をやるという名目で支度金を借りていたりします。此処でもきっと領役所から支度金を借りたり農具の貸与を受けたりしたのでしょう。


 でも農業を断念したから返せない。他で働いて返すのは面倒だ。だから逃げるんですよね。ついでに貸与された農具等や最初からあった家財道具等も全て売り払って。


 子供がいると逃げる邪魔になるし食費もかかる。だから置いていくんです。あの時の子供は教会の牧師さん経由で何処かの孤児院に引き取られたと聞きましたけれど」


 なるほど。ごく希な例という訳では無いと。


「ごめん。勝手に私の一存で」


「連れてきたのは私とセレスだよ」


 確かにリディナの言うとおりだ。でもきっかけを作ったのは私。


「とりあえず明日は買い物ですね。2人に必要なものを買ってきましょう」


「だね。男の子用の服はうちに無いし」


 そのまま引き取る方向に話が流れている。

 もちろん私もそうするつもりだった。でもここまでスムーズに話が進むと本当にいいのか、何か申し訳ない気持ちになってしまう。


「フミノは心配しないでいいの。どうせ一緒に暮らすつもりで助けたんでしょ。この農場はあと数人くらいは余裕で大丈夫だし。

 それにフミノがそういう人じゃないと私もここにいないしね」 


「そうそう。私もフミノさんに助けられてここにいるんですから」


「……ありがとう」


 2人にどう言えばいいのかわからない。でもとりあえずそう言って頭を下げる。


「それじゃフミノ、2人を起こしてきて。あと夕ご飯を食べたらお風呂に入れてあげてね。服は女の子用のはセレスに借りて、男の子用はないからその場で洗って魔法で乾燥でお願い」


「わかった」


 偵察魔法で確認。2人とも起きているようだ。ステータス異常も普通に生活すれば数日で治る程度のものだけ。

 3階に上ってドアをそっとノックする。


「起きている? ご飯が出来たから」


「わかりました」


 サリアちゃんの声。少しだけ待つ。

 扉が開いて2人が出てきた。


「体調は大丈夫?」


「大丈夫。お姉さんは? 倒れたと聞いたけれど」


「大丈夫。魔法の使いすぎ。もう戻った」


 厳密には3割程度しか魔力は戻っていない。でも普通に生活する分には十分だ。


「急だから気をつけて」


 階段をゆっくり下りて、リビングへ。

 だだっとやってくるエルマくんに2人は後ずさりする。確かに黒い大型犬、慣れていないと怖いかもしれないな。そう思いつつ撫で撫でしてやってから2人に説明。


「大丈夫。怖くない。人に慣れているから。番犬にはならないけれど。エルマくん、お座り」


 お座りは覚えさせている。エルマくんはお座りして、尻尾をふりふりして2人の方を見る。


「よければ撫でてやって。喜ぶから」


「大丈夫?」


「大丈夫、怖くないから」


 お手本としてエルマくんの頭を撫でてやる。エルマくん、鼻面を上に上げるように動かしてもっと撫でろと要求。


「こんな感じ」


 レウス君がサリアちゃんの後ろから出てきた。どうやら撫でてみるようだ。

 レウス君が怖々という感じでエルマくんの頭に手を伸ばした。ゆっくりと手を近づけて撫でる。エルマくんが頭をふっとあげた。嬉しそうな顔でレウスくんの手を嘗める。


「うわっ」


「大丈夫。嘗めるのは親愛の印。お友達になったよ、という事」


「本当?」


「本当」


 今度はレウス君とサリアちゃん、両方が近づく。ゆっくり2人で手を伸ばして、頭を撫でた。

 あ、エルマくん嬉しくてしかたない顔になった。そのままだだーっと部屋中を走りまわる。


「えっ」


「心配ない。嬉しくなった時、こんな感じで走る」


「それじゃ夕ご飯にしましょう」


 セレスの言葉を聞いたサリアちゃんが私の方を見て尋ねる。


「食べて、いい?」


「勿論、サリアの分もレウスの分も用意済み」


 エルマくんが戻ってきた。頭をなでなでして、食卓へ。

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