第219話 対クラーケン特殊個体

「わかった。騎士団も助かると思う。カレンに連絡しておく」


 カレンさんに連絡?


「連絡出来る?」


「メレナム経由。私とカレン、メレナム、騎士団の各部隊長は意思伝達可能」


 メレナムさんの魔法ならおそらくは空属性。しかし空属性が得意だしそれなりに本でも調べた私でも知らない魔法だ。

 ただ、今は詳細を聞く時ではない。使える物は何でも使うべき場面だろう。


「御願い」


「了解……通じた。了解。御願いしますとのこと。場所はカレンの前」


「わかった」


 そしてリディナ達の方を確認。2人とも起動したようだ。よし、それならアイテムボックス経由で移動。


 ゴーレム2頭が出現した瞬間、カレンさん周辺が少し驚いたようだ。しかしカレンさんはすぐに私のゴーレムだと気づいたらしい。ライ君を操るリディナと会話をはじめた模様。


 これであとは敵を待つだけだ。偵察魔法で見るとかなり近づいてきた様子。もう少しで浜の遠浅部分に入る。


 弩弓部隊や長弓部隊が攻撃を開始した。

 この世界の長弓の射程は本来100腕200m程度。しかし風属性魔法で強化すれば半離1km以上届く。魔力から魔道部隊に混じってリディナが風属性魔法で援護しているのがわかる。


 水上を移動しているクラーケンに矢が降り注ぐ。リディナの腕か騎士団の腕か、矢は吸い込まれるように頭上に降り注ぐ。攻撃魔法そのものではないのでそこそこダメージはある模様。あ、でもそれならば。


 アイテムボックス内に大量在庫しているアコチェーノエンジュの丸太。これの片端を鉛筆のように研いでやる。風魔法その他を使用してアイテムボックス内で加速させ、クラーケンの上で投下。


 おし、刺さった。この攻撃は攻撃魔法ではないから効くようだ。ならば第2弾、第3弾……


「あの大きな杭、フミノ?」


 ミメイさんが気づいたようだ。それともメレナムさんかな。


「特産アコチェーノエンジュの丸太。重いし固い」


 刺さらず落ちたものは再回収して使用。うん、エグくも効果はそこそこある模様。少なくとも矢よりは効いているようだ。


 クラーケンの速度が上がった。どうやら攻撃に怒った模様。そろそろ向こうからも攻撃が来るだろうか。そう思った次の瞬間。


 敵の魔力が一気に膨らんだ。


「来る」


 ミメイさんの台詞。そう、攻撃魔法だ。


 海上が強烈に盛り上がる。壁の様にそそり立った波がこちらに向かって押し寄せてくる。水属性のレベル7攻撃魔法、タイダルウェーブだな。

 しかし見える物理攻撃なら問題無い。


『収納』


 私のアイテムボックスは無制限に近い。実際無制限なのじゃないかと思う位だ。この程度の波、まるごと収納出来る。


「今のはメレ……フミノ?」


 ミメイさんが私に尋ねる。

 さてはメレナムさんから質問か何か入ったな。


「波なら海水を収納するまで」


「わかった」


 攻撃魔法が失敗した事が分かったのだろう。クラーケンの速度がさらに上がる。また魔力が膨れ上がる。来るかな。


 今度は水の衝撃アクアエ・イパルサムだ。セレスの得意魔法。攻撃方向は騎士団方向。威力と規模こそ違うけれども。

 ただし見える物なら収納可能だ。問題無い。


『収納』


 今考えれば混ざり物キメラの爆砕火球もアイテムボックスで収納出来たかなと思う。


 ただあの時は狭い洞窟内で、しかもカーブして飛んできた。だからゆっくり確認する余裕が無かった。


 しかし今はまだ遠距離。しかも舞台は広い屋外。だから見て認識してから対処するまでの余裕が結構ある。


 そうだ、杭攻撃の威力を更に上げる方法を思いついた。今度は尖らせたアコチェーノエンジュに、高熱魔法で火をつける。燃えさかる状態で、加速して投下。


「%&$##!!!!」


 奴は言語化できない音を放った。今のは悲鳴だろうか。それとも怒声だろうか。

 いずれにせよ効いているなら結構。どんどん行こう。


 火杭を作っては投下していく。手間がかかるので連射は出来ない。しかし効果はそこそこある模様。奴の魔力というか体力というか、何かが減っているのが感覚でわかる。


「こんな攻撃、予想外」


「効いているなら問題無い」


 7発目の火杭が突き刺さったところで奴はすっと頭を海面下に沈めた。逃げるか。そう思ったのだが……

 ふっと膨れ上がった気配の後、奴が一気に前進した。方向はまさに私達の方。速度も今までと比べものにならない程の速さ。


「まずい!」


「問題無い!」


 ミメイさんはゴーレム馬で海とは逆方向に走り出す。しかし私は思っている。もっと近づけ、もっとだ。


 クラーケンは足の付け根付近からジェット噴射のように水を勢いよく出している。この方法で一気にこっちに近づいてくるつもりらしい。


 確かにこのままではこの場所は危ない。しかし私にはアイテムボックスがある。中に収納した大量の土砂がある。


 クラーケンと私達の距離は100腕200mまで縮まった。もう奴の巨体もほぼ海上に出ている。海が浅すぎて潜れないのだ。それでも水を噴射してこっちに飛ぶような勢いで近づいてくる。


 だが、そこまでだ。


「取り出し」


 アイテムボックスに収納していた土を全部出す。ミメイさんにわかるよう、あえて声に出して。

 クラーケンとその周囲を土砂が覆う。


 先程収納した岬より遙かに大きな山が出来上がった。少しだけ揺れて土が崩れる。でもそれだけだった。


「ミメイさん、任せた」


「任された」


 ミメイさんは私の意図を理解してくれたようだ。

 山が岩盤化する。今出した部分、全てだ。


「……流石に疲れる。魔力の限界」


 確かにこれだけ大量の土砂に土壌改良魔法を使ったのだ。しかも岩盤化は砂や土、礫よりも更に魔力を必要とする。


「これで出てこられたら化物」


 確かにそうだよな。そう私は思う。

 いずれにせよこれで一件落着かな。そう思った時だった。


「まずい!」


 突如ミメイさんがそう叫ぶ。


「何?」


「中から岩を壊している。岩盤化が間に合わない」


 何だそれ。クラーケンからはどの方向も30腕60m位の分厚さがある筈だ。

 しかし私の偵察魔法でも確かにわかる。奴め、水属性魔法を駆使して岩を壊している。岩が壊れつつある。


「もう無理。魔力が限界」


 岩の表面が割れはじめた。まさに私達の側だ。何か方法はないか。

 ふと思いついた。アイテムボックススキルの限界を試すような方法だ。しかし大丈夫、多分私のアイテムボックススキルなら。

 そしてこれならどんな化物でもきっと倒せる。空を飛べない限り。


「大丈夫」


 私はそう言い放って、アイテムボックススキルを起動する。


「収納」


 今度収納するのは今作った山の下の土だ。深さはとりあえず2離4km


「土壌改良魔法」


 下に穴があいたところで、私は土属性魔法を起動する。私の土属性レベルでも砂礫に変えるなら余裕で出来る。


 砂礫に変えるのは今できている山の、クラーケンの周囲。クラーケン本体にくっついている部分は奴の動きを封じるため、あえて残しておく。


 奴が穴の中へ落ちていった。私は偵察魔法で確認しながら奴が這い上がれないよう周囲の土を砂礫に変える。水が出る部分は冷却魔法で凍らせて、奴がその部分を落ちて通過した後、さっと土を出して塞ぐ。


 2離4km下の地下はかなり温度が高い。穴を開けて圧力が抜けると周囲の水が蒸発する位だ。

 深さも温度も充分だろう。私は穴の上の方を土で塞ぎながら、クラーケンが落ちきるのを待つ。


 地響きがした。落ちた衝撃でクラーケンは変形。それでもかろうじてまだ魔力が残っている。しかし周囲は高温だ。奴の苦手とする世界。


 みるみるうちに奴の気配、魔力が減少していく。完全に死んだと確認したところで私は奴の死骸を収納。


 アイテムボックスで今開けた穴に土をガンガン入れて塞ぐ。問題無さそうだ。ならこれで一件落着としよう。


「終わった。奴の死骸を収納した」


「……力尽くというか論外というか、わかっても理解しにくい方法」


 おっと、ミメイさん、私がなにをやったのかわかったようだ。


「偵察魔法?」


「メレナムが把握。私とカレンにフミノがやった事を伝えた。他の人には何をやったかは知らせていない。規格外過ぎる」


 メレナムさんは私より空属性レベルが高い。だから偵察魔法で何が起きたのか見る事が出来たようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る