第220話 無事、帰宅
雨はまだ降っている。気がつくと私もびしょ濡れだ。クラーケンがある程度近づいてからは服を乾かすなんて事に意識が行かなかった。
とりあえず魔法で服と身体表面を乾かす。これでかなり快適になった。
リディナ達の方はどうだろう。騎士団の方には攻撃は通っていない筈だけれど。偵察魔法で確認。問題はないようだ。今はカレンさんとなにやら話している様子。
あ、話が終わったようだ。ライ君がかがんでシェリーちゃんを乗せた後、立ち上がってこっちへ向かって走り始めた。
「メレナムから連絡。事態終了」
何だろう。私は意識をミメイさんの方へ向ける。
「他に魔物は見当たらないそう。ただ領主家や騎士団は、この態勢や街の避難準備等も解除する作業等があるらしい。
あとカレンから伝言。
『一方的な都合で、お呼び立てしてしまった、にも関わらず、結果的に全てを解決していただいて、本当にありがとうございました。
おかげで、これだけの魔物の出現にもかかわらず、街にも騎士団にも、損害なく済みました。
またリディナさんやセレスさんにも、お手伝いいただき、ありがとうございました。
残念ながら今は、撤収作業の指揮をとらなければならないので、直接お礼を申し上げられません。後程改めてご挨拶させていただきます』
以上」
台詞を直接聞きながら伝えているような感じだ。所々に入る間は相手のカレンさんかメレナムさんが入れているのだろう。
伝えた台詞をミメイさんが私に話しやすいように。
聞いた内容を反芻する。確かにカレンさん達はまだまだ大変だろう。騎士団は見える範囲だけでなく街の方にも配置しているようだし。
冒険者ギルド等にも事前連絡しただろうから、討伐完了の報告を入れなければならない。
後始末だけで相当に手間がかかりそうだ。
「わかった。此処の地形変更の後始末や魔物の死骸はどうすればいい?」
「地形はそのままでいい。私が後で直す。魔物の死骸は後で連絡する。それまで保管頼む」
「わかった」
ミメイさん相手だとリディナと違う意味で会話が楽だ。
リディナ達、正確にはライ君とシェリーちゃんがやって来た。
「向こうは撤収するって。フミノも一度帰ろう」
「わかった。それじゃライ君の解除お願い。シェリーちゃんも解除したら収納する」
リディナとセレスがゴーレム起動を解除。私はシェリーちゃんを収納するとミメイさんのゴーレム馬からおりる。
「送らなくていい?」
「私も縮地を使える。大丈夫」
ミメイさんは頷いた。
さて、それでは戻るか。ライ君を起動。ミメイさんのゴーレムより背が高いので乗りにくい。だから膝を曲げて低い位置にしてから乗馬。いや乗ゴーレムかな、この場合。
「やはりそのゴーレム、良くできている。一度見せてもらっていい?」
私は頷く。あ、でも待てよ。
「何なら後で互いのゴーレムを確認しよう。広い作業場はある」
聖堂の中、まだ大部分がだだっ広いままだ。大物を作るにはちょうどいい場所だろう。
「ありがとう」
「私もそのゴーレム馬を見てみたい。それでは、また」
実は試したい事がある。縮地の使い方だ。
ミメイさんのゴーレム馬は道ではない場所も通っていた。私も同じ事が出来るか試してみたかったのだ。
まずは道を通りながら縮地を起動。これは問題無い。
なら次は道をショートカットする形で。駄目だ、途中に障害物があると私の縮地は起動しない。
どうやらミメイさん、実際にはメレナムさんが使っていたあの魔法は縮地よりも更に上級の魔法の模様。
つまりまだまだ空属性にも使えると便利な魔法がある訳か。意思伝達の魔法なんてのも使っていたようだし。
そんな事を思いながら道通りにライ君を走らせ、概ね行きの倍程度、つまり5~6分程度の時間でお家に戻る。
「ただいま」
「お帰りなさい。疲れたでしょう」
確かにそう言われると……疲れている筈だ。雨の中ああやって外で戦っていたのだから。
まだ緊張が残っているのかあまり感じないけれど。
「ところであの化物、どうやって退治したのでしょうか。山に埋めただけじゃなかった気がします」
「埋めた後、出てこようとしたから更に穴を掘って落とした。深さ
「
これは私にも答えられない。中学校の理科ではやっていない気がするし。
「わからない。リディナ、わかる?」
「私もわからないかな。でも火山で熱いマグマが出てきたりするから、それと関係があるのかも」
なるほど。
ところでひとつ、言っておこうと思った事を思い出した。今のうちに言っておこう。
「急に手伝いを御願いしてごめん。騎士団の方、大丈夫だった?」
「そっちは問題無かったよ。カレンさんがいたし騎士団の人も親切だったし。私は長弓部隊の援護で、セレスは攻撃魔法担当」
どうやら問題無かったようだ。ちょっと安心。
「私は水属性しか使えないから嫌がらせ程度です。見える部分に乾燥魔法をかけていました」
クラーケンとしては嫌な攻撃だろうなと思う。杭が突き刺さりやすかったのも、ひょっとしたらその魔法のおかげかもしれない。
「あと騎士団の長弓部隊ってやっぱり凄いね。36人で途切れないよう時間差で射続けていたんだけれど、みんな矢の軌道にブレがほとんど無いの。だから援護魔法も使いやすかったな。あまり効果はなかったかもしれないけれどね」
「あんな長距離なのに矢のほとんどがクラーケンに当たっていた」
「風属性魔法としては簡単なんだけれどね。風の具合を自由に調節出来るし。だから騎士団の腕だよ、ほとんど。
さて、フミノが帰ってきたしお茶にしようか。疲れてるだろうしフミノは甘いおやつがいいんだよね、用意してあるよ」
何だろう。
リディナが出したのは……チーズケーキだ。バスク風チーズケーキに似た感じで上が黒くなっている奴。
「美味しそう」
「セレスはどっちがいい? 甘くない方は野菜と蒸し鶏のピタパンサンドだけれど」
「私は甘くない方で」
うん、我が家だなあ。そんな感じがする。
チーズケーキはやっぱり美味しい。チーズたっぷりでほどよい甘さ。
今頃になって疲れが一気に押し寄せてきた。おかげでこのチーズケーキの甘みが一層、身体に染み渡っていく感じがする。
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