第26章 大物討伐
第217話 非常事態
気がついたら2ヶ月経っていた。
畑の作物も順調だし、エルマくんもアレアちゃん達も元気だ。
マスコビーに至っては既に小さいのが何羽も増えている。
しいて言えば今のエルマくん、何でもかみかみしてしまうのが問題点だろうか。
「歯が抜け替わる時期で口がかゆいので、つい噛んでしまうみたいです。ただ噛む犬にならないように、噛んだ時は駄目と叱ってやった方がいいです」
実際来たばかりの頃とは違って今のエルマくん、口の力が結構あるし歯も尖っている部分がある。だから噛まれると痛い。
それもあって噛まれたらすぐに叱るようにしている。すぐに叱らないと、何で叱られたか分からなくなるらしいし。
それでも気が付くと座卓だの椅子だのをかみかみしてしまう。結果、家具の端部分等についた噛み跡が順調に増えてしまっている今日この頃だ。
可愛いのはエルマくんだけではない。
アレアちゃんやノクトくんも可愛い。人懐っこくて放牧中に顔を見せるとこっちに向かって走ってくる。そのまま頭突きをしてくる事もあるけれど、これは山羊なりの親愛の情らしい。
なおアレアちゃんとノクトくんはセレスに一番懐いている。そしてセレスは慣れているのか頭突きが直撃する事は少ない。
逆にリディナは時々直撃を受けている。怪我する程の事はないけれど。私はまあ、常時偵察魔法で警戒しているので避けられる。
農場の施設も更に充実。
草地や貯水池の東側、岩だらけの急斜面に炭焼き用の穴と製陶用の窯を作った。これで炭が焼けるし木酢液も取れる。
前に3人で肥料作りをして、木をゆっくり焼く作業をして思ったのだ。これって炭で代用できないだろうかと。
そう言えば木酢液もセレスが言うように虫の忌避剤として使ったり出来ると聞いた事がある。ならばと思って炭焼き用の場所を作ってみた訳だ。
セレスに聞くと薄めた木酢液を散布するのでも効果は同じらしい。液体なら散布用機材を作るのも簡単だ。そんな訳で炭焼きは今までに2回程やっている。
製陶用の窯は実用というよりはお遊び。でもあると楽しい。時々3人で粘土をこねて、魔法で乾燥させた後、横の穴で作った炭を使って焼いて、実用と芸術の狭間にある物体を作ったりもしている。
街は少しずつ大きく賑やかになってきている。
開拓地も街に近い方は人の気配が増え始めた。場所によっては魔法を使って一気に木々を焼き払ったりなんて事もしている。
カレンさんやミメイさんはどうしているのかな。時々そんな事を思う。
ミメイさんは間違いなくカラバーラの街にいる。時々大規模な魔法を使っている気配を感じるから。
同様にミメイさんも私達がここを開拓した時の魔力に気づいただろう。
ただ連絡その他は無い。冒険者ギルドや商業ギルドを通じた連絡や依頼も。
「こちらから領主家や領役所に押しかけたりするのも失礼だしね。フミノのスキルは開拓に効果的だけれど、その分知られると危険だったりするし。カレンさんがその辺を考えてくれているのかも。
だから私達も静観かな。魔物だけはきっちり周辺からいなくなるように狩って」
そんなリディナの意見通り、特に連絡を取らないままになっている。
さて、今日は久しぶりに雨。だから皆外に出ないでリビングにいる。リディナは料理中で、セレスは何やら専門書を読んで何かを調べ中。
そして私はリビングでエルマくんと遊びながら、アイテムボックス内で注文を受けたゴーレムを作っていた。
作っているゴーレムは2種類。フェルマ伯領の鉱山で作った猪型の牽引・採掘両用ゴーレムとケーブル式トロッコの動力ワイヤー用ゴーレムだ。
鉱山から注文が来たのではない。商業ギルド経由でラモッティ伯爵家から注文が来たのだ。
「新しいゴーレムを記録したり分類したり、今後の参考にしたりする為だと思うよ。特に秘密にしたい部分等がなければ受けた方がいいんじゃないかな」
そんな部分はない。それに鉱山用ゴーレムの方は元々ラモッティ伯爵家製造のバーボン君や05君の機構を参考にして作っている。だからまあいいかなと判断。
お値段も牽引・採掘型が
そして今の私はアイテムボックス内でも自由に作業が出来る。細かい作業もシェリーちゃんをアイテムボックス内に入れて作業すれば問題ない。
商業ギルド経由で注文した魔法金属が届くまで2週間かかる。届くまでゴーレム全部は作れないけれど、今のうちに作れる部分は作っておくつもり。
そしてアイテムボックス内で製作作業をする傍ら、エルマくんとボール遊びなんて事もする。ボールというよりは木球だけれども。大きさはテニスボールよりやや大きい位で私の手製。
① ボールを速い速度で転がす
② エルマくんがボールを追いかける
③ 大きくて微妙に銜えきれないボールを、それでも銜えようとしたり転がしたりしながらエルマくんが持って戻ってくる
④ 私の近くまでボールを持ってきたら、しばらくはかみかみしたり前脚で持ったりして遊ぶ
⑤ そうやって遊ぶ事に飽きたら、エルマくんは私の前にボールを持ってきて置く
⑥ 『転がして!』と期待に満ちた目で私を見る
これの繰り返しだ。
エルマくん、結構大きくなっている。ただ動きはまだ子供っぽい。それがまた可愛い。
そんな時だった。私の偵察魔法がこの家に近づく何かを捉えた。異様に速い。私が縮地を使っているのと似た動きだ。何だ、これは。
更に偵察魔法で詳細を調べる。人、それも知っている魔力。ミメイさんだ。雨の中、ゴーレム馬に乗って、更にミメイさん自身とは違う魔法を使って移動している。
目的地は此処だ。そう直感した。何だ、何が起きているのだ。
「何かが起きた。ミメイさんが来る」
「えっ」
更に説明する程の時間はなかった。
扉をノックする音。ミメイさんだというのは判っている。
私はエルマくんをさっと抱きかかえて、そして返答する。
「どうぞ」
「ごめん、急に」
やはりミメイさんだ。以前と同じ濃い灰色のフード付きマント姿、身長は少し高くなった感じ。しかしそんな感想を言うような余裕はなさそうだ。
「どうしたの」
「大型の魔物。海から近づいてくる。空属性、地属性、風属性、水属性の魔法は効かなかった。おそらく特定属性しか効かないタイプ。申し訳ないけれどフミノの手を借りたい」
「わかった」
ミメイさんがそう言うならその通りなのだろう。私は抱きかかえたエルマくんをセレスに渡し、リディナとセレスに告げる。
「行ってくる。エルマくんをお願い」
「わかったわ」
「わかりました」
本当はもっと状況を聞きたいし知りたい。しかしミメイさんの様子を見ると急いだほうがいい。説明を聞く時間すら惜しい感じだ。
アイテムボックスから
外は雨だ。風もそこそこ強い。
「説明必要?」
「時間がない、違う?」
「ありがとう。乗って」
ライ君よりは一回り小さいゴーレム馬だ。ちゃんと2人乗りできるように後席用の鞍と鐙がある。本物の馬と違って乗りやすい。
ミメイさんの後ろに乗って、ゴーレム本体にある持ち手を握る。同時にゴーレム馬が走り出した。やはり空属性の魔法を使っている。縮地と同じ魔法だ。
「誰の魔法?」
「メレナム、現スリワラ伯爵。フェルマ家は代々空属性持ち」
カレンさんの夫か。
「それで魔物は?」
「メレナムが最初に発見。海上にゴーレム船を出して魔法攻撃した。しかし土、水、風、空属性どれも効かなかった。火属性は相手が海中なので効きが悪い」
私も偵察魔法の視点を動かして確認しようとする。しかし他人の縮地が起動しているのでうまく出来ない。
「向かっている場所は?」
「カラバーラの南、
この雨の中をか。
「魔法使いや騎士等、戦力的に大きい方が魔物を引きつけ易い。最悪の際でも街に直接上陸するのを防げる」
理解した。そこまで覚悟する程の相手だという事を。
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