第216話 聖堂の復活作業

 農家ってやってみると大変だ。

 朝起きて畑の見回り。


 御飯を食べたら山羊小屋へ行って、ノクトくんとアレアちゃんを連れて貯水池のところの放牧用の草地へ。


 その山羊小屋をお掃除。草刈り等の作業があればそれも実施。

 作業して、おやつを食べて、作業して、お昼御飯を食べて、作業して、おやつを食べて。


 そうしたらノクトくんとアレアちゃんを草地から山羊小屋へ戻す。2頭とも人懐こいのでこっちが顔を出せば寄ってくる。だから捕まえるのは簡単だ。

 気を抜くと頭突きされるけれども。


 戻ってくればもう夕方。夕食を食べてお風呂に入って、一日終了。


 もちろん私達にはゴーレム君達がいる。だから農地が広くても作業は早いから、その分空き時間も出来る。


 しかしゴーレム無しでは一日中作業しっぱなしになるだろう。しかもしゃがんだり中腰だったり蟹歩きだったりと疲れる姿勢で。

 本当に農家は大変だ。


 さて、ゴーレムのおかげで草刈り作業が1日で終わり、今日は農作業がない日。

 私はいよいよ聖堂の整備を開始する事にした。


 リディナもセレスも手伝うと言ってくれたがあえて断った。何となく1人でやりたい気分だったからだ。


 だからセレスは街までお買い物。リディナは家でエルマくんと遊んだり、草地でノクトくんとアレアちゃんの様子をみたり、マスコビーの様子を確認したりしている。


 それでは周囲を覆う蔦や雑木を始末するところから始めるとしよう。


 火属性魔法や空属性の空即斬を使うと建物が傷む可能性がある。だからアイテムボックススキルで蔦や雑木を収納していく方法を使う。


 これでも手作業よりは遥かに早い。聖堂の周りを反時計回りに進みながら、聖堂と周囲の樹木や雑木の間に2腕4m程度の空間が出来るよう作業していく。


 この開拓地は街から時を知らせる鐘の音が聞こえる。9の鐘の時間から始めて、途中休憩をちょくちょく挟みつつ作業。


 11の鐘が鳴った少し後、やっと聖堂周囲の蔦や雑木取り去り作業が完了。しかし周囲が綺麗になった結果、外壁の傷んでいたり汚れている所が目につくようになってしまった。


 外側を先に修理した方がいいだろうか。それとも荒れている中を何とかする方が先だろうか。

 少し考えて、中を先に作業する事にした。傷みは多少あるけれど建物本体の強度には影響がなさそうだと感じたから。


 この聖堂は上から見ると十字形をしている。クロス部分がドーム屋根になっていて、十字の上部分が礼拝堂っぽくなっている。

 十字がそれぞれ東西南北を向いていて、礼拝堂部分が東端だ。


 あの開拓村の聖堂とほぼ同じつくりで同じ大きさ。だから荒れていて見通しがきかなくても感覚的に内側の大きさがわかる。


 建物の西端にある入口から入って、ゴミ類をアイテムボックス収納で片っ端から片づけていく。


 ゴミはこびりついているコケみたいなもの、入り込んで枯れている蔦や雑木の蔓など。固まったコケのようなものから草が生えていたりもする。


 かつては椅子や机なんかもあったのだろう。けれど長年の放置で風化してしまったらしい。少なくとも今はそれらしい物は残骸すら発見できない。

 残っているのは聖堂の建物部分だけだ。


 木製品が残骸すら見当たらない程になるにはどれくらいの時間がかかるのだろう。数十年、いやもっとかかるだろう。

 それでもこの建物本体はそこそこしっかりしていると感じる。見栄え的には修理だの清掃だのしたくなるけれども。


 石造りやガラスの部分しか残っていないのなら、後で水属性魔法で徹底的にゴミや汚れを流してしまえばいいかな。攻撃魔法レベルではないけれど、私も水属性魔法はそこそこ使えるから。


 水よりお湯でやった方が綺麗になるかな。でもその前にとにかくゴミを片づけないと。


 目で見た物を収納する動作をただひたすらに繰り返す。結構頑張ったなと思った頃、やっと十字の中央部分、ドーム屋根下部分まで辿り着いた。


 前方、建物東端部分に神像があるのが目で確認出来るようになった。像は7体、開拓村と同じだ。偵察魔法で事前に確認してはいたのだけれども。


 周囲を見回す。こうやって見ると割と綺麗に残っているなと感じる。神像だけではない。窓ガラスもステンドグラス部分もしっかり残っている。どれだけ強いガラスなんだと思う。

 蔦の根とかがついているけれど掃除すれば綺麗になるだろう。


 さて、かなりやったように感じるが、まだドームから西側部分を片付けただけだ。南北部分も東の祭壇部分も残っている。もう一仕事しないと。

 いや掃除等も含めると一仕事ではなく二、三仕事位はあるかな。


「フミノ、そろそろご飯にしない?」


 おっと、リディナが呼んでいる。確かにそんな時間かな。ちょっと昼食休憩して、ついでにエルマくんと遊んで、それから午後、作業をするとしようか。

 

 ゆっくりやっても午後いっぱいかければ綺麗になるだろう。


「周囲がすっきりしたね」


「まだまだ。あとで掃除や補修をする」


 リディナと並んでお家へ。エルマくんが入口で待ってくれていた。

私達が入ると喜びのあまり勢いあまってぐるぐる回り出す。

 あまりに可愛いので捕まえて抱きかかえてやる。ガウガウと甘えてくるので右手で抱えたまま左手でわしゃわしゃなでなでしてやる。


 うん、やはりエルマくん、可愛い。


「やっぱりエルマがいるといいよね。何か生活に張りが出る感じ」


 うんうん、大いに同感だ。私は頷く。


「トイレのしつけが終わっているから楽だしね。それじゃご飯にするからエルマは可哀そうだけれど箱に御願い」


 ずっとなでなでしたいが仕方ない。エルマくんを箱に入れる。キューキュー文句を言ってくるがここは我慢だ。


 ◇◇◇


 午後も内部のゴミ収集をして、その後水属性魔法で中も外も洗い流し、更に石造り部分に入ったひびや欠けを土属性魔法で修理。

 がらんとはしているけれど、そこそこ綺麗になった。


「これだけ広くて立派だと、何か使い道を考えたくなるね」


 確かにそうだなと思う。でも何も思い浮かばない。


「何か使い道、ある?」


 リディナに聞いてみる。


「うーん、今は思い浮かばないかな。人を集めるような事はないしね。倉庫に使うのは申し訳ない気がするし。エルマの運動場というのも申し訳ないよね」


 そのエルマくんはご機嫌でフンフン鼻息をたてながら聖堂内をとことこ探検中。所々で匂いを嗅ぐなんて動作もする。

 それでも私達から3腕6m以上離れない。うん、やっぱり可愛い。

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