第191話 つかの間の休憩時間

 さて、お仕事の製作モードは一服した。久しぶりに気分転換をしよう。


 気分転換といっても討伐に出るとか図書館に行くとか、買い物に行くなんて事では無い。


 仕事ではない物の製作だ。実は作りたいと思う物がある。小型のゴーレム車だ。


 今使っているものよりずっと小さく軽く、3人で乗れば限界くらいの、小さく軽いゴーレム車。


 アコチェーノにいる間、リディナとセレスは主に魔物討伐をしている。少し遠くへ行くこともあるだろうし、荷物が多くなる事もあるだろう。


 そしてセレスは最近、魔物討伐にバーボン君改2を使っている。そしてバーボン君改2は改2だけあってパワーもスピードもそれなりにある。軽く簡素な荷車なら2人乗っても十分引っ張る事が可能な程度に。


 だから自在袋に収納できる軽くて小さなゴーレム車があれば便利ではないだろうか。そう思った訳だ。


 紙と鉛筆を出して概念図を描いてみる。

 今回は軽く最小限の大きさにしよう。普通の自在袋にも余裕で入る位に。

 車輪も2つでいい。重心を車輪にあわせれば問題無い。多少はバーボン君の重量で何とか出来る。


 まず描いたのは古代の戦車チャリオット。これに必要な装備を書き加えていく。

 サスペンションは当然必要だろう。椅子も屋根もありで。扉は省略しよう。革製の屋根を開けて出入りすればいい。晴れた日はそのままオープンなんてのもいいだろう。


 描いて消してを繰り返した結果、古代の戦車チャリオットだったものが現代日本で使われている観光用人力車みたいな形になった。

 でもまあこれはこれでいいだろう。小さく軽く合理的だ。


 形がきまったので製作、開始。

 構造そのものは簡単だし材料も揃っている。だからリディナ達が戻るまでの間にフレーム部分と車輪、車軸は完成。


 とりあえず手で動かしてみる。うん、軽く動く。重さも今の時点では15重90kgあるかないか位。


 軽い分振動はあるかもしれない。一応サスペンションはつけるけれども。ローラッテに行く時に乗せて貰う馬車と同じ革紐を使った振動対策が有効かもしれない。あれは簡便だし軽いし。

 

 そんな事を考えていたらリディナ達が帰ってきた。


「おかえりなさい」


「ただいま。あれ、これも注文があったのかな?」


 おっと、注文品と思われたようだ。


「これはパーティ用の小型ゴーレム車。セレスがバーボン君を使うなら、いざという時に専用ゴーレム車もあると便利かと思って」


 セレスはバーボン君を見ながらうんうんと頷く。

 

「確かにあると便利です。少し遠くに討伐に行く時なんか特に。でも今のバーボン君でもゴーレム車、大丈夫なんでしょうか」


 そう言えば以前、討伐専用に改造したと説明したような気がする。ここで少し訂正というか説明をしておこう。


「一応ゴーレム車も牽ける力はある。今回作っている軽くて小さい奴なら余裕。速度も普通の馬車と同じか若干速い。オーク2頭よりは軽く作るつもりだから」


 ちなみにオークは1頭で20重120kgくらい。バーボン君改2もそのくらい。ライ君は80重480kgあるけれども。


「ところで鉱山の方はどう? 今日の作業でひととおり終わる予定と聞いたけれど」


「無事終わった。今のところ全て順調。討伐は?」


「こっちも順調かな。バーボン君がいるとかなり変わるね。遠くを偵察したり、遠くから追い立てたり、一定の場所に寄せたり。セレスが大活躍だったよ」


「私はリディナさんやフミノさんほど空属性で遠くが見えないです。けれどバーボン君がいればその分遠くがわかりますから」


 なるほど、そういう使い方をするのか。


「それじゃ夕食を作るから、もう少し待っていてね」


「わかった」


 さて、それでは小型ゴーレム車の車体部分を作るとしよう。勿論今日の残り時間だけでは出来ないと思うけれども。


 あとバーボン君が討伐に役に立つなら、リディナ用にデュオ君をバーボン君並みにしておくかな。牽引機能はいらないだろうけれど。

 何ならヒイロ君もデュオ君も同じ仕様にしておこう。当然カトル君とウーフェイ君もだ。


 勿論この辺の改造は明日以降。ただ2~3日はお仕事が無い筈。時間はたっぷりある。


 何なら1日くらい図書館に行ってもいい。ここの図書館は王都ラツィオ程では無いけれど充実している。

 アコチェーノなら多分、私1人で歩いても大丈夫。慣れているし街の雰囲気も優しいから。


 ◇◇◇


 そんな感じで1週間6日間が経過。

 小型ゴーレム車は無事完成し、昨日からセレスが持って行っている。ヒイロ君をはじめとする討伐用ゴーレム、通称Wシリーズは5頭とも改造を完了。

 なおWはWolfの頭文字だ。ガン●ムWではない。多分きっと。


 今日も朝から作業場がわりの平屋で趣味没頭中。シェリーちゃんの手や指先がもっと人間のように、いや人間以上に動かせないだろうか。

 実物を見ながら考えていたところで扉がノックされた。


「どうぞ」


 名乗らなくても偵察魔法で誰かわかっている。イオラさんだ。


「失礼します。ちょっと時間、大丈夫かしら」


「わかった。事務所に行く」


「ありがとう」


 シェリーちゃんを収納して、イオラさんの後をついて事務所へ。

 いつものカウンターに向かい合って座る。


「それじゃまずは報告から。鉱山の方は昨日も順調。第7鉱区に設置したケーブル式も問題なく動いているし、最初に設置した方は本当に好評だし。

 そこで今度は鉱山全体にこのシステムを取り入れようって話になってるわ。父の許可は下りたし兄も乗り気よ」


 この世界は本当に物事が速く進むなと思う。こういった実験的な技術は日本なら年単位くらいの期間を使って検証するだろうに。

 おそらく魔法を使える事が関係しているのだろう。製作も土木工事も期間が短いし、魔法で金属疲労すら設置した状態でわかるし。


「それで明日以降、きちんと契約をし直そうという話になったわ。これだけ大規模にやるなら元の考案者にもそれなりの還元が当然。それに牽引用ゴーレムも数が必要になるし。


 だからもしリディナさんやセレスさんの都合が良ければ、明日の朝いつもの時間にみんなで事務所に来て貰っていい? 明日が都合悪ければその後でも大丈夫だけれど」


「わかった、話しておく。多分大丈夫」


 以前シモーヌさんが言っていた事がいよいよ本当になる訳か。なら明日になる前に聞いておこう。


「兼引用ゴーレム、何頭くらい必要?」


「予備を入れて15頭の予定。勿論こっちで材料は用意するわ。ただ魔法金属は取り寄せになるから必要な量を明日までに計算しておいてくれる? 


 あと、もしフミノさんが個人的に取り寄せたい魔法金属やその他の材料があるなら一緒に取り寄せるわ。一括注文すると送料が安く済むから。必要ならそれも計算しておいてね」


 おっと、それはありがたい。私は大きく頷く。


 よし、それならこれからやることは決まった。牽引用ゴーレムの再設計と魔法金属必要量の計算。そして個人的に購入したい魔法金属等のリストアップだ。


 お金は充分ある。今回の件で儲けた他に迷宮ダンジョンの攻略の褒賞金もある。


 それにイオラさん経由ならどれだけ量を注文しても問題無い。彼女は私のアイテムボックスが大容量である事を知っているから。


 いい機会だ。将来分まで思う存分考えて取り寄せるとしよう。

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