第192話 今日も引きこもり
「想像できない金額です。これって人が使える金額なのでしょうか……」
セレスの言うとおりだ。私も同意とばかり頷かせて貰う。
今は3階建てのお家の1階リビング。3人で座卓を囲んでいる。
先程までイオラさん&シモーヌさんと事務所で契約の話し合いをしていたのだ。ただ今回はちょっと金額が大きく条件も複雑。
だから条件記載の契約書を一度持ち帰り、3人で再検討している状態。
「条件としては妥当かな。大規模鉱山全体に対する案件だし、専用新設計のゴーレム15頭分も含んでいるしね。金額も妥当な線だと思うよ。
ただそれでも一応図書館で最近の取り引き事例を確認してみるつもり。絶対大丈夫だと思うけれど、確認するのも相手に対する礼儀みたいなものだから」
「リディナさんがいて良かったです。こんな金額判断できません」
うんうんまったくだ。私も大いに頷かせて貰う。
「ただ図書館で確かめる前に聞くけれど、フミノ、ゴーレム15頭を作るのは大丈夫かな? 他にも監修とか追加製作時の依頼なんかもあるけれど問題ない?」
「大丈夫」
そこは即答できる。真っ先に確認した。この契約、居所が定まらない私でも問題ないように出来ている。
追加製作依頼や改修時の相談等の事項についてもそうだ。たとえば連絡は商業ギルドを通して半年以内となっている。よく考えられているなと思う。
「それじゃ私は契約事例の確認をしに図書館に行ってくるね。フミノやセレスはどうする?」
「私は少し街を回ってこようと思います」
「私は此処でゴーレム製作の準備をする」
15頭、それも私が新規に作成するゴーレムだ。じっくり取り組みたい。
将来にわたってある程度使い続けられる余裕ある性能とか、過酷な環境でも使い続けられる耐久性とか、素人でも維持可能な整備性とか。
「わかった。それじゃお昼には帰ってくるから。行ってくるね」
「私も出掛けてきます」
2人を送り出した後、私は作業場になっている平屋へ。
基本にするのは採掘用ゴーレムの性能。実はまた1頭借りてきている。05君と同じタイプの新型採掘用ゴーレム、06君だ。
移動性能等の基本性能は勿論、現状と同程度以上にする必要がある。採掘も出来るようにした方が運用上楽だろうから。
そして実用品である以上、耐久性や整備性も考慮しなくてはならない。最低でもこの06君並みかそれ以上。
そんな訳で各部の構造と使用素材を再確認。
05君の時にも一度調べた。しかし新たなゴーレム製作となるとまた視点が異なってくる。性能に関わる部分だけで無く使用素材や耐久性まで再確認する必要があるから。
こんなリバースエンジニアリングみたいな事をすると地球なら問題になるかもしれない。しかし此処はスティヴァレ、知的財産権などという概念はあまり重要視されない。だから問題はない、きっと。
ふむふむ、やはり脚の下半分、胴の下回りは鉄ではなく黄銅を使うのが正しいようだ。ただ異なる種類の金属が接触していると錆びやすいなんて事を何処かで読んだ気がする。
この辺は06君、どう処理しているのだろう。全体を調べる。どうやら亜鉛部分をかわりに腐食させる事で対応しているのか。なるほど、参考になる。
勿論全く同じにする訳では無い。私なりの流儀もある。整備のために分解をしやすい構造にするとか、できるだけ部品点数を少なくするとか、それでも可動部はベアリングを必ずかませるとか。
少しずつ構造を見直し、図を描いたりメモしたりして構想を見える形にしていく。
重さは自在袋、それも普及品に入る程度までとか、全長は狭い坑内で転回出来るようにできる限り短くとか、足を曲げればレール用の車輪が出る仕組みは必要だろうかとか。
難しい。でも楽しい。
形はどうやら05君や06君とかなり変わりそうだ。バーボン君改2やWシリーズの狼型ともまた違う。
猪型だ。体内容積を大きく取り、更に軽量化と単純化の為にくびれ等を極力無くし形状を単純化した結果こうなった。
この国の人はこの猪の形に対して、忌避反応等が無いだろうか。私の常識がスティヴァレの一般とは異なる事はわかっている。後でリディナやセレス、更に念のためイオラさんにも聞いておこう。
採掘性能は今までのゴーレムとほぼ同じ。収納も同等。
歩行速度は時速
ブレーキ制御その他の牽引用ゴーレムとしての性能も専用設計だけに05君より遙かに上。
予算的にも問題ないように考えた。たとえば使用する魔法金属は高価な
この大きくした部分は強度材にもなっている。だから無駄にはなっていない。
ただ首がほとんど動かなくなった。でも目が左右についているので視界が人間より遙かに広い。だから問題は無いだろう。
また重さは少し増えてしまいそうだ。それでも
これで概念設計は出来た。厳密な設計図ではない。しかし私はこれで製作することが出来る。でもイオラさんに見て貰う為、ある程度は清書しよ……
「フミノ、いい?」
びくっ、ちょっと驚いてすぐ気づく。大丈夫、リディナだ。
「大丈夫。何?」
「もう夕ご飯だよ」
もうそんな時間なのか。てっきりまだ昼前くらいの気分だったのだ。
しかし偵察魔法で見る外の風景は既に暗い。この平屋には窓がないので気づかなかったけれども。
「ごめん」
「本当はお昼ご飯の時に呼ぼうとしたんだけれどね。ちょっと声をかけられない感じだったから」
しまった、いわゆるゾーンに入ってしまっていたようだ。ついつい夢中になるとこうなってしまう。気に入った本を読んでいるときとかも。
「出来るだけ気をつけるようにする」
「あまり気にしなくていいよ。それに本やこういった工作に夢中になるのは悪くないと思うし」
ありがとうリディナ。でも今度から出来るだけ気をつけるから。そう思いながらとりあえず、机を概念図や筆記用具ごとそのまま収納。
リディナに続いて平屋の外へ。3階建ての方へ移動する途中にふと思い出したので尋ねてみる。
「リディナ、この国の普通の人って猪に拒絶反応とか、ある?」
「特にないと思うよ。畑を荒らされる農家なんかは憎く思っているかもしれないけれど。でも何で?」
大丈夫か、良かった。しかし明日、念の為イオラさんにも聞いておこう。
「実は……」
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