第190話 次の設置作業
第7鉱区へのケーブルカー式トロッコ設置は簡単に終わった。私はほぼ持ち運んだだけ。ほとんどの作業はフェデリカさんがやってくれた。
「基本的には前の線路と同じなんだな。ワイヤーを2本通すだけで」
「そう。この関係だけ」
ワイヤー2本とは牽引用ケーブルと非常ブレーキ起動用ワイヤー。なお厳密には他にも線路の違いが数カ所ある。
ケーブルカー式トロッコでは
具体的にはワイヤー連動の非常ブレーキ起動装置、牽引用ケーブル自動締結用のバースイッチ、牽引用ケーブル自動解放用のバースイッチなど。
これらの装置も線路や枕木と一体化してある。だから場所さえ間違えなければ、設置そのものは簡単。
線路とケーブル、ワイヤーを設置した次はゴーレムの設置。ゴーレム設置場所は予め設計図を渡してその通りに作って貰った。だから設計通り金具等を使って設置するだけ。
線路から牽引用ケーブルをいくつかの滑車を経由させて通す。ゴーレムに直結した大型滑車やテンションプーリーを経由させ、坑道方向へ向かうもう1本の線路のところに出ているケーブルの場所へ。
熱魔法等を使って2本のケーブルをつなぎ目すらわからないよう接続。
非常ブレーキ用ワイヤーも同様にゴーレム側まで繋げ、別の滑車とプーリーに接続。これも同じようにもう1本の線路のところのワイヤーと接続させる。
最後にケーブルやワイヤーにテンションをかける為の錘をつけて、ワイヤーとケーブルを張ったら完成だ。
ここまで無事に予定通り午前中に終了し、3人でお昼御飯。今回は時間通りだぞ、と私は心の中で思ったけれど、皆はどうだろう?
そして午後、試験運用の前に今回のゴーレムについての説明。何せ形が一般的なゴーレムとかなり異なっている。だから以前作成した小型のゴーレム、コビーナちゃんを使っての説明と訓練をまず実施。
「なるほど、こんな生物がいるのですね。それでこの巻き取りゴーレムもこの形で作られていると」
「ゴーレムから直接回転を取り出せるので効率がいい。ただ感覚が普通の動物とはかなり異なるので慣れが必要」
コビーナちゃんで動きに慣れて貰った後、試験運用に移る。
なお動力ワイヤー用ゴーレムはショゴス君という名前にした。勿論仮称で、正式な名前は運用後につけて貰う予定だ。
この名前にした理由はやはり人間由来の名前をつけるのをためらってしまう外見だったから。元々使役生物の名称だからこれでいいだろう。この世界にクトゥルー神話なんてわかる人もいないだろうし。
「やっぱり普通のゴーレムとはかなり違う感覚だな。それでも巻き取り動作は問題無い。あとこの感覚に慣れれば振動でワイヤーの状態を感知する事も出来るようだ」
「運用時は自分の視界や空属性魔法による監視も同時に使った方がいい。ゴーレム自体の感覚が振動と力、温度だけだから併用しやすい筈」
何せゴーレムの元になったのは単細胞の超小型生物。人間と違いすぎて、この生物が実際にどのように感じているかの想像は難しい。視覚や嗅覚に相当するものも本当はあるのだろう。
しかし細かいところはスルーする。実用になればいいのだ、今回は。
「確かにそうした方がいいようだ。それにしてもこのゴーレム、随分と力を感じる。相当重い物でも動かせそうだ」
「本来は新しい鉱脈で使う為のもの。それだけの力を出せるように設計した。
ただあまり速く巻き取りすぎると荷車の事故が起きやすい。ゴーレムで引っ張るのと同じくらいで維持する必要がある」
「その辺は空属性魔法か自分の目でワイヤーの速度を見ながらという訳か。ゴーレムの方は大体わかった。あとは荷車の管理かな」
ゴーレムについては理解してくれたようだ。話が早くて助かる。それでは今度は
「この坑道用の
到着すると
だから線路の両端部分、坑道先端と選鉱場に
採掘現場側にチャック君とシェリーちゃん、選鉱場側に私達3人と作業用に出した一般型の採掘用ゴーレムという配置で試運転開始。
チャック君とショゴス君はフェデリカさん、シェリーちゃんと採掘用ゴーレムは私が操縦。シモーヌさんは私の偵察魔法と同等の空属性魔法で全体を見るという形だ。
「なるほど、慣れれば効率的だな。ただ放っておきすぎると片側に
「選鉱場側には要員を最低1人つけた方がいいですね。ある程度以上溜まってしまった場合は運行を一時停止して、
この2人は理解が早くて助かる。多分その辺も考慮してイオラさんが選んだのだろう。
そんな感じで本日の作業は無事終了。普段ローラッテにいるフェデリカさんを残し、シモーヌさんと馬車でアコチェーノへ帰還。
「まだ1ヶ月経っていませんが、これで追加の契約も含めて御願いした事はひととおり終わった訳ですね」
「万が一があるかもしれない。だから期間内はここにいるつもり」
私が1から作ったものだ。その程度の責任はあるだろう。だからせめて契約期間の間くらいは見守りたい。
「ありがとうございます。実は更に依頼をお願いする可能性があります。勿論当初の3ヶ月という期間より延ばさないようにしようとは思いますけれども」
おっと、何だろう。
「以前作ったゴーレム牽引式トロッコが鉱山で好評です。ですので他の採掘現場にも広げて欲しいという要望が現場から上がっています」
「現場で喜ばれているなら嬉しい」
商売として自分が製造したものを他人が使って、評価が返ってくるという経験ははじめてだ。
好評だと言うのなら私としては当然、勿論、まったくもって非常に嬉しい。もっと何でも作りますよ的な気分になってしまう位だ。
シモーヌさんは軽く頷いて、そして続ける。
「そうなると新たに牽引用のゴーレムが必要となるでしょう。ただ採掘用ゴーレムもある程度の数が必要です。ですから牽引用に採掘用ゴーレムを改造するのでは無く、新たなゴーレムを製造して欲しいという話になる予定です。
勿論鉱山の方の予算もあります。領主家の方でどう判断するかはまだわかりません。それに今回のケーブルカー式トロッコの試用結果によっては、こちらを増やす方がいいという判断になるかもしれません。
この辺りについては毎日現場からイオラ様やアノルド様に報告書を上げております。ですので遠からず次の依頼が入るかと思います」
なるほど。
「わかった。まだ此処にいるし、好評で追加がくるというのなら嬉しい」
「ありがとうございます。領主家の判断次第ですが、そうなった際は宜しくお願いします」
シモーヌさんはそう言って私に頭を下げる。
「こちらこそ、宜しく」
私もシモーヌさんに頭を下げた。
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