第184話 ついでに馬車鉄道方式も

「それじゃ次の質問。この線路と荷車があれば持ち運ぶよりずっと少ない力で荷物を運べると考えていい? ワイヤーを使わないで荷車を引っ張ったとしても」


 馬車鉄道方式だな。その通りだ。私は頷く。


「ならこの線路と荷車を整備すれば、荷車をゴーレムに牽かせるだけでも今までの数倍以上の土や鉱石が運べるって事でいい?」


 その通りだ。ただし此処は注意も必要だと思う。


「その通り。ただゴーレムが牽引する場合は、安全装置をそれ用に改良した方がいい」


「わかったわ。ならそうした上で、あまり坑口から遠くない場所でもこれを使えば土や鉱石をもっと運べるようになる?」


「その通り」


 あ、でも待てよ。注意が必要な点がまだまだあるな。ただの通路と線路との違いを頭に思い浮かべて説明文をひねり出す。


「注意が必要な点は他にもある。分岐する場合の制御と行き違いの方法。

 道が分かれている場所は分岐を作って、場合に応じて行く方向を制御する必要がある。

 また同じ線路上で向かい合って進む場合、行き違いさせるのに専用の施設が必要」


 こんなものだろうか。


 イオラさんは図を描きながら少し考えて、そして理解したというように頷いた。


「わかったわ。それじゃ思い切り単純化してこんな例ではどう? 分岐前、他との共通の通路までこの線路を敷く。この端と端を運搬用ゴーレム1体が行き来して運搬する形。


 採掘をするゴーレムはこの運搬用ゴーレムのところまで土や鉱石を運ぶ。運搬用ゴーレムは他のゴーレム分の鉱石や土を一気に反対側まで運ぶ。これは可能?」


 まさに馬車鉄道方式だ。確かに可能だけれど、注意点をもうひとつ思いついたので付け加えておこう。


「可能。ただこの方法は急な坂には適していない。急な坂があるならその部分だけ別の動力で引く等の工夫が必要」


「なるほど。ゴーレムで牽く場合はあまり急な坂はなし。でもそれ以外なら効率は間違いなく良くなるのね」


 うんうんとイオラさんは頷いた。


「それじゃ今回作ったこれを、ワイヤーではなくゴーレムで引っ張る方法でこの坑道に使いたいけれどどう? この図面は古い坑道をこれからこう整備しますという案で、まだ実際の状況じゃないけれど」


 示されたのはまた別の図面だ。長い木の幹の先端に枝がついたような形の坑道が描かれている。


 幹にあたる坑道は坑口から100腕200m程度。坑口から奥の方へほぼまっすぐ入っていく。


 枝にあたる坑道が出ているのは幹にあたる坑道の先端部から20腕40m付近までの間。左右方向に5本ほど枝の様な支線がそれぞれ15腕30m位の長さで延びている。

 採掘はこれら支線の奥で行われているようだ。


「これはこの支線のところまで線路を敷いて、そこから坑口まで運ぶという形で考えていい?」


「そういう事。この場合どうすればいい?」


 少し考えた後アイテムボックスから紙を出し、Yという文字のような簡単な図を描く。


「この分岐して2本になっているのが現場に近い方で、1本になっているのが坑口側。この分岐は現場に近い方に作る。

 運搬専用のゴーレムは荷車を牽いてこの線路を行き来する。


 最初はこの分岐の片側に空の荷車を置いておく。採掘用ゴーレムはこの置いてある荷車に土や鉱石を積んでいく。


 ある程度の時間が経過したら、また運搬用のゴーレムが坑口側から空の荷車を牽いてくる。この分岐まで来た時、分岐先の2本の内、空いている方に空の荷車を牽いていき、空の荷車を置く。そして運搬用ゴーレムは先に置いてあって、鉱石が積んである荷車を牽いて坑口側へ行く。


 運搬用ゴーレムが鉱石や土を運び終わって、また空の荷車を牽いて戻ってくる。また分岐で空いている方の線路に荷車を置く。以降はこの繰り返し」


 口でうまく説明できない。その分紙に描いた図に描き足す形で何とか説明する。


「ゴーレムが戻ってきたとき、ここの分岐は行きたい方に自由に行けるの?」


 イオラさんは図のY字の交点部分を指して尋ねる。


「どっちに行くかを選べるレバーを設置する。ここへ来た運搬用ゴーレムがレバー操作でどっちに行くかを決める事が出来る」


「つまりそうすれば、ここの5箇所の鉱区はここまで運ぶだけで済むって事? 常に荷車がどちらかに置いてあるから、そこの空いている部分に運び込めばいいって事で」


 その通りだ。私は頷く。


「わかったわ、ありがとう。それじゃ試しにこれもお願いしていい? 内容は施設全部の設計と見本品の製作、運搬用のゴーレム改造。

 勿論これについては最初の契約とは別の契約よ。契約そのものはリディナさんを通してやるけれど、資材や量産については今までと同じ条件で、期間1ヶ月として正金貨6枚300万円と完成ボーナス正金貨1枚50万円


 どうにも申し訳ない気がする。何せ構造は今まで設計・試作したものとほとんど同じなのだ。ゴーレムも簡単な改造をするだけ。完全新設計は安全装置のブレーキ部分程度。


 ただこの辺の金額だの契約だのの妥当性は私ではよくわからない。その辺はリディナに丸投げした方が良いだろう。


「リディナと相談してみる」


「それじゃ御願いね」


 イオラさんはそう言って軽く頭を下げた。


「とりあえずこの見本品と図面は預かるわ。製鉄所の工房で図面の指示通り作らせるから。これが出来たらまたフミノさんに連絡すればいい?」


「それで」


「それじゃ新しい契約の方もよろしく。あと新しい契約の方は、改造するゴーレムも必要? それなら用意するけど」


 確かにその方がいいな。そう思ったので頷く。


「それじゃ次までに用意しておくわ。あと魔法金属が入ったらすぐ連絡するから」


 私は頷いた。


「あと昼食はちゃんと食べて。リディナさんが心配していたわよ。私にももし機会があったら注意しておいてねって言う位に。

 今日はもう食べた?」


 あ、まだだ。どうにも何かを気持ちよく作っていると食事を忘れる。


「これから食べる」


「わかったわ。それじゃまた」


 イオラさんが事務所に戻っていくのを見送って、そして私は作業再開。

 今度は牽引ワイヤー無しの線路だ。しかし軌間は同じにしておいた方がいいだろう。

 あとホッパー車の構造等は少し変わる。ワイヤー保持機能がなくなるかわりに連結機能をつけるから。あとは非常用ブレーキだな。牽引するゴーレムから操作できる方がいい。


 それではまず、牽引ワイヤー無しの線路から作り始めよう。とは言っても基本的な構造は同じだ。作るのは難しくない。


 まずは鉄インゴットを、熱魔法&踏み固め魔法&アイテムボックスによる切断&整形でレールの形にする。更に積んであるアコチェーノエンジュの太い角材を使って枕木を……


 あ、でもその前にお昼御飯を食べておこう。

 今日こそは、忘れないうちに。 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る