第183話 見本品の納入
説明が終わって解散した後、私は更なる製作と研究に励む。
まずはワイヤー、どれを使うべきか実験して調べる作業から。
ワイヤーは太ければいいというものでもない。太すぎるとワイヤーの重さだけでとんでもない事になる。しかも太すぎるとプーリー等で方向を制御するのも大変だ。必要十分な強度があるなら細い方がいい。
ただ机上計算だけで必要強度を出せるような知識は私にはない。私の知識は日本の中学校まで。だから実際に斜面を作ってどれくらいの力がかかるか調べ、そこから計算して求めようと思う。
斜面を作るのは簡単。大量にアイテムボックスに入っている土を出して、土壌改良魔法である程度固めた後、レールを出して礫で固定すればいい。
本物と同じ大きさを作る必要もない。模型で十分。実物との誤差はまあ、その分余裕を見ておくという事で。
斜面、ミニチュアのレール、そのサイズの台車、それを引っ張る細めのワイヤーとプーリーを作る。
傾斜の角度は水平方向
模型作り、やってみるとなかなか楽しい。こういう趣味にはまる人の気持ちがよく分かる。魔法とスキルが使えない環境では私には無理だけれど。
ワイヤーの先をプーリー経由でバネばかりに接続して実験装置製作完了。なおバネばかりはリディナが小麦粉等を小分けする際に使っているのを拝借したものだ。
しかし位置を変えても値はほとんど変わらない。つまりこの値は正しいのだろう、きっと。
それならワイヤー、やたら太いものにする必要はない。勿論速度変化である程度の負担はかかる筈。しかしロケットのように10Gとか20Gとかかかる事はないだろう。
ワイヤーの長さ、台車を最大につける場合の個数、その場合の加重などを計算し、更に数倍の余裕を持ってワイヤーを選ぶ。
直径
これでワイヤーの仕様も決まった。つまり魔法金属が必要な巻取機以外は全て製作可能となった。
ならば台車もこのワイヤーに最適化して、更に分岐器も作って……
◇◇◇
3日目の昼過ぎ。
ついに巻取機以外の全ての試作品が完成した。
車両は2種類作った。
鉱石や土を入れるホッパ車と、ゴーレムや工事資材等を入れる無蓋貨車。
終点部分に設置するポイントと留置線も、その下に埋め込むワイヤー巻き取り用のプーリーも完成。
今回は量産作業を私がやらなくてもいい。
車両2種類もレールやポイントも見本と数だけ出してお願いすればいいだけ。
なおレールやポイントはあらかじめ枕木と組み合わせて固定した状態にした。
こうすれば敷設が簡単だから。
ただ一部のカーブレールは現場で私が現物合わせで作ろうと思っている。ある程度は直線のレールを魔法加工して曲げればいいけれど、それが現場に即さない場合もあるかもしれないから。
その辺の予備として必要な数も全部計算。
見本と計算書、更に何処に何を使うという説明書類を作って、森林組合事務所へ突撃だ。
「あ、フミノさん。どう、順調?」
ふっふっふっ。よくぞ聞いてくれたイオラさん。
「ゴーレム技術を使う巻取機以外は見本を作り終わった。必要数も計算済み」
そう告げて計算書と説明書類を渡す。
「もう出来た……でも初日にあれだけ作ってしまうフミノさんなら、まあそんなものか。ちょっと待って、まずはこれを読むから」
イオラさんは説明資料を手に取る。
「なら外に見本品を並べておく」
外に出て、いつもの場所に気持ちよく見本品を並べていく。
レールと枕木のセットは簡単に交換ができるよう、接続部分を更に改良した。ポイントも人、犬型ゴーレムどちらでも操作しやすい形状に設計。
更に車両の動力用の他に非常用ワイヤーを通した。これは動力用ワイヤーが切れた時等いざという際に、車両のブレーキ装置を直接叩く装置を起動させるものだ。
車両はワイヤー固定部分が二重になるよう再設計。更にホッパ車の荷台を車外装置で左右に自動で倒す装置まで設置。
これで車両は線路の内側に仕掛けた突起物により、
① ワイヤを掴む動作
② ワイヤを離す動作
③ ブレーキ作動
④(ホッパ車のみ)荷台を倒す動作
が自動で出来るようになった。
それぞれの部品は耐久性と作りやすさを考え大きく単純になるよう考えて作った。坑内用だからある程度は土を被る事も考え、その辺への許容とか、水洗いしやすさとか、注油しやすさとかまで考慮した。
お金を貰って製品を作り、納めるというのは初めての作業。だから設計も製造もいつも以上に注意したつもりだ。
さて、評価はどうだろう。個人的には予想以上のものが出来たと思っているのだけれど。
おっと、イオラさんがやってきた。
「何かもうとんでもないわね。いざという時とか、すぐには思いつかないようなところまでしっかり考えて作ってあるし。
それにこうやって見ると何か圧倒されるわ。見た事がない、でも間違いなく便利な新しいものに囲まれている感じ」
よしよしよしよしよし。反応は上々だ。
「それで質問がいくつかあるけれどいい?」
もちろんだ。私は頷く。
「それじゃまず、この線路をつなぐ部分。ここ、必ずある程度隙間を空けてあるよね。これはわざと? それとも繋げてしまっていい?」
これはお約束の質問だ。だから回答は簡単。
「鉄も伸び縮みする。繋げると伸びた時、この鉄が曲がってしまう可能性がある。だからあえて隙間を空けている」
「なるほど、そんな理由で、そしてそこまで考えてあると」
イオラさんはうんうんと頷く。わかってくれたようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます