第185話 製作の日々
既に作ったものをもう一度つくるのは簡単だ。渡した見本品以外に自分用にも試作品を残してある。だからそれを見ながら作ればいい。
今回用の改造もそう難しくない。たとえばホッパ車の場合は牽引用に連結器をつける事と、ゴーレム側からホッパ車のブレーキが操作できるような装置をつける事だけ。
安全の為、ゴーレム側からの操作だけで連結したホッパ車全部のブレーキが同時にかかるようにしたい。
まず最初に考えたのは圧縮空気でやる方式だ。日本の電車でもブレーキに圧縮空気を使っているものは多い。漏れたら止まる形式にすれば安全性が高い。それに空気ならゴーレム内で圧縮すればいくらでも入手できる。
しかし圧縮空気を通すパイプを作るのが難しい。空気が漏れないのは当然で、その上で自在に曲がる事が必要だから。
少し考えた後すっぱり諦める。自転車のブレーキと同じようにワイヤーを使う方式に変更。これなら此処にある材料と私の技術で問題無く作れる。故障して止まった後の復帰も簡単だ。
そんな事を考えながらガンガン作った結果、翌日の本契約までにはゴーレム以外の見本品が完成。
具体的には直線用の枕木セット済みユニット線路、カーブ用の線路と枕木、レールを枕木に固定する金具やレール接続器、枕木付きのユニット型
「何と言うか、フミノさんの製作ペースは早すぎて驚くわ」
なんて言うイオラさんと、リディナ&セレス立ち会いのもと新しく追加の契約を結んだ後、見本品をイオラさんに渡す。
更にその場でイオラさんからゴーレムを1頭、受け取った。
「鉱山用の予備だけれど。まずはこれを改造して試してみて」
バーボン君より新しい型のゴーレムのようだ。今回は自分のゴーレムでは無いから名前はつけない。鉱山での呼称『05』のままで。
その後は勿論、作業場の平屋に直行。仕事と興味を兼ねて05君の仕様を確認。
どうやら05君、基本的にはバーボン君とそう変わらない模様。性能もほぼ同じ。ただ機構が幾分整理されて整備性が良くなっている。あとは一部の部品を改良して強度をやや高めている程度。
改造方針はすでに決まっている。
まずは以前のバーボン君と同様、脚の長さを可変長にして力と速度の配分を可変にする事。
あとは牽引用の装置やブレーキ制御機能などを追加する事。
これらの機能を実装する事そのものは簡単だ。しかしバーボン君と違い、この先ずっと私が近くにいる訳では無い。
だから部品の耐久性、それも水濡れだの泥汚れだのに耐えられる形にしなければならない。また整備も私以外が出来るようにしなければならない。
そんな訳で05君の改造はじっくり行った。
まず受け取った当日は『05君がどれくらいの耐久性や整備性を考えて作られているか』の確認。
翌日は部品の仮設計と動作確認、更に耐久性を考えて改良して……
そして約
「おはよう。どう? 改造の方は順調?」
勿論イオラさんだ。
「一応試験中。でもこれで多分大丈夫」
「やっぱり早いわ、作るの」
そうでもない。私としては結構時間をかけたつもりだ。でも否定するのもこの場は良くないかなと思って、返答を考えてみる。
「以前貰ったゴーレムとほぼ同じ構造だったから」
バーボン君を貰った件については勿論イオラさんも知っている。
「ところで報告が幾つかあるんだけれど、いいかしら」
何だろう。私は頷く。
「まずは1件目。思ったより早かったけれど、注文していた魔法金属が届いたわ。この自在袋に入っているから中身を確認して、この受取証書にサインをお願い」
おっと、それは朗報だ。早速自在袋を受け取って中身を確認。うん、間違いない。
まずはこれらをアイテムボックスにしまい直す。あとはアイテムボックスからペンを出し、受け取った書類にサインしてイオラさんへ。
「ありがとう。それでもう1件はローラッテの鉱山からの連絡。この前見本を渡したもののうち、ワイヤー無しの方の線路が図面の数通り完成したって。
それで出来ればワイヤー無しの方、早いうちに設置をお願いしたいのだけれど。いい? 魔法金属も同時に届いちゃったけれど、出来れば先にやってくれると助かるわ。線路を使う事でどれくらいの効果があるかを見てみたいから」
おっと、こちらも朗報だ。もう線路が敷設できる状態という訳か。
魔法金属が手に入ったしケーブルカー式トロッコ用のゴーレムを作りたいという気持ちもない訳では無い。しかしどうもこちらのゴーレム牽引タイプの方が優先度が高いようだ。
それに……考えてみる。ゴーレム牽引式トロッコなら同じ線路を使う方法でもケーブルカー式トロッコ用より原理は簡単。だから予習という意味でもちょうどいい。
それに使用する05君のダメ出しも早めにしておいた方がいいだろう。
「わかった。私はいつでもいい」
どうせ予定は特にない。
「それでは明日、御願いしていい? 向こうへは私では無くシモーヌが同行する事になるけれど大丈夫? 私はこの事務所をあまり長く離れる訳には行かないから。フェデリカさんとは向こうで合流する形で」
正直なところ少しだけ不安はある。イオラさんは慣れているけれどシモーヌさんはあまり知らない。フェデリカさんもだ。
しかしイオラさんが選んでくれたのだから多分大丈夫だろう。それに私も大分その辺強くなった自信があるし。
「わかった。大丈夫」
「あと坑道は人が入れないから作業はゴーレムを使う事になるけれど大丈夫? フェデリカさんは作業用ゴーレムを持っているし、採掘用ゴーレムなら貸し出せると思うけど」
坑道の大きさを思い出す。私ならぎりぎり立って歩ける程度の高さだ。なら問題無い。シェリーちゃんを使える。
「大丈夫。持っている」
「わかった。それじゃお願い」
あ、でも、一つ聞いておこうかな。
「何ならゴーレム車を出すけれど」
「大丈夫。こっちで馬車を出すわ」
何か申し訳ない。
「いいの?」
「領主家と契約したゴーレム製作者なんだからそのくらいの待遇は普通。それに移動時間も節約したいし。だからその辺鷹揚に構えて」
そんなものなのか。
ただ私、この世界の馬車にはまだ乗ったことが無い。だから少し楽しみではある。乗り心地がどうかとかゴーレム車と比べてみたい。
「ありがとう」
「それじゃ明日、宜しく。あと昼食は食べてね」
おっと、言われてしまった。でも今日はまだお昼になっていない。だからセーフだ。
しかしこのままでは忘れるだろう。だから今のうちに食べておくことにする。まだ大分早いけれど忘れるよりいいだろう。
それから05君のチェックだ。何なら明日から実用で使える位にしっかり確認しておきたい。
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