第172話 ゴーレム車再改造

 奥の部分はかなり広い。私は全体を偵察魔法で確認。どうやら漢字の『王』の字の中央の線が上下に突き出たような形になっているようだ。

  ➀ 王の字なら中央の縦の線に相当する、まっすぐ北東・南西に伸びている洞窟1本

  ② ➀と直交し、交点から北西、南東方向に25腕50mずつ伸びている洞窟3本

 この計4本の大きな洞窟から成り立っている。


 中にはもう混ざり物あれほど凶悪な魔物はいない。

 アークトロルなんて大物もいることはいる。でも遠隔攻撃をもっていないし私の空即斬が効くから問題ない。


 コボルト類は素材が取れないから何処をばっさりやってもいい。オーク類は肉も売れるから首狙いかアイテムボックス使用の土埋め。トロルは毛皮が素材になるから頭狙いか土埋めで。

 そんな訳で倒して収納し倒して収納してを繰り返す。


 それにしても此処は何なのだろう。何の為に造られた場所なのだろう。

 道路トンネルから車が入れるくらいの入口出口が作ってあるという事は元々何かあったという事だろう。


 あの洞窟は間違いなくトンネルだった。それも21世紀の日本と同じような様式の。車線があって、私の知っている大きさの自動車に適していて、非常口までついている道路トンネル。右側通行か左側通行かはわからないけれど。


 今ここは迷宮(ダンジョン)化状態。だから、わかる事はこれくらいだ。

この場所を更に調べるためにも、今やるべき事は魔物を倒しまくって迷宮化を解除する事。

 

 そう言えば1人で魔物討伐なんて久しぶりだ。リディナと会う前だろうか、最後に1人でやったのは。


 勿論実際には同じゴーレム車の中にリディナもセレスもいる。しかし今、私の感覚はヒイロ君がメイン。だからつい単独討伐の気分になってしまうのだ。

 自由だけれど何か心細いかな。なんて事を思いながら確認した敵に空即斬を撃ちまくり死骸を収納していく。


 それにしても敵が多い。どう考えても200匹以上倒しているのにまだまだいる。これでは私の魔力が尽きる方が早そうだ。


 対混ざり物キメラ戦をやったし、その後も倒す魔物の数分は空即斬を撃っている。アークトロルなんて大物も4頭狩った。だから既に残り魔力は半分くらい。


 安全第一という事で、そろそろ撤退するとしよう。明日までに混ざり物キメラみたいな厄介者が再生成されるなんて事もないだろう。複写した資料にも希少種とあったし。多分、きっと。


「ちょっと数が多すぎる。魔力も半分を切ったから撤退する」 


 リディナに報告。


「わかった。それじゃヒイロ君が戻ったら此処を出ようか。まだお昼も食べていないし。街へ行くなら今日はテラーモがいいかな。ゴーレム車の向きが逆だけれど。

 向こうの出口ならこのゴーレム車のまま出られるから。それに個人的な理由だけれどテイクアウトを物色したいしね」


 確かにそうすればセレスを寝せたままで移動できる。更にリディナらしい理由も確認、了解だ。此処は広いので魔物さえいなければUターンも問題ない。


 途中の洞窟でもコボルトやアークコボルトを倒し、ついでに行きに倒したままにしていた魔物の死骸も収納してヒイロ君、無事帰還。アイテムボックスに収納する。


「それじゃ今日は私がこのままライ君を操縦するね。フミノには横と後ろの魔物対策と死骸の収納お願いしていい?」


「わかった」


 あれだけ倒したのにまだ魔物は出てくる。コボルトばかりだから脅威は全く感じないけれど。


 無事出口に到着。ここでリディナとライ君の操縦を交代。ついでにライ君の突撃槍と盾を収納。


 歩いているリディナの後をゴーレム車でゆっくりついていく。検問所のところで、リディナは警備中の騎士団に挨拶した後ゴーレム車に乗車。

 再びゴーレム担当をリディナに代わってもらって街へ。


「今日はギルドはいいかな。セレスも寝ているし。テイクアウトだけ買って今日は休もうか」


 確かにそうだ。でもそれなら街まで行く必要ないじゃないかとは言わない。テイクアウト購入はリディナの趣味だ。


 リディナが市場で何人かの人に聞いて選んだテイクアウトは久しぶりのクレープタイプ。野菜&チーズ&肉タイプとリンゴバタータイプの2種類を購入。


 街から出て、お昼代わりに買ったばかりのテイクアウトを食べながら移動。一昨日に泊まった場所へ家を出す。


「それじゃ私は中でセレス見ながら料理作っているね。フミノはどうする?」


 実はちょっとやりたい事がある。それも1つではなく2つ。どちらも出来れば明日には使いたい。まずは太陽がある内でないと出来ない大物からやるとしよう。


「外にいる。ゴーレム車を改造したい」


「どうするの?」


「屋根にのれるようにする。1箇所からゴーレム車の全周囲を攻撃できるようにしたい」


 私の空属性魔法は間に障害物があっても問題無い。しかしリディナの風の刃ヴェントス・ファルルムやセレスの水の衝撃アクアエ・イパルサムは術者起点で対象に向かって飛んでいく魔法。だから壁や柱があると邪魔だ。


 しかし屋根の上に警戒兼攻撃用の場所があれば、真下方向以外はほぼ全方位に攻撃が出来る。

 

「わかった。夕食の時間になったら呼ぶから」


 それじゃ作業をはじめよう。

 少しだけ家の手前部分を整地してゴーレム車を出す。やる事は、

  ① 上に立てるように天井部分を補強する事

  ② その荷重に耐えられるよう柱を増強する事

  ③ 上への出入口と梯子を作る事

の3点だ。


 このうち②は割と簡単。以前の改良で、中を3部屋にわける時用に柱が増設されている。この柱をもう少し太く強度のあるものにしてやればいい。


 ①は今の天井の上に更にしっかりした足場となる場所を取り付ける必要がある。今の天井兼屋根部分の板を一部取り外し、②の柱に直接固定して強度を稼ぐのがベターだろう。


 ③は上の作業が終わった後、最後に天井兼屋根を張る時にやればいい。梯子は普段は邪魔だから、必要な時だけ出すようにして。

 雨漏りしないよう、その辺は十分にきっちり作ってやろう。あとは出入口は必要ない時は内部からロックできるように。


 木工作業は得意だ。アイテムボックス魔法で思い通りに切断出来る。ほぞ継ぎなんてのも楽々だ。

 

 そんな訳で2時間もしないうちに無事屋上部分が完成した。形は上向きのお盆というか、RV車の屋根につけるルーフデッキというか、まあそんな形だ。


 屋上へは車内からでも車外からでも登ることが出来る。

 車内からの場合はリディナ達の席の後ろ付近に梯子をかけ、蓋のように開く出口から上に出る形。外からは前と後ろの出入口横に梯子をつけたのでそこから登るだけ。


 屋上は幅半腕1m、長さ1腕半3mで、中央に立てばゴーレム車の周囲がほぼ見える。厳密にはゴーレム車の周囲1腕2m位に死角が出来てしまうけれど、敵が近づく以前に倒せば問題は無い。


 仕上がりを確認する。うん、強度的にも雨漏りも問題はない。空気抵抗は悪そうだがそんなの気になるような速度は出さないし問題無いだろう。重さも少し増えたがライ君なら問題無い。


 この屋上、本当は屋根の上にゴーレムを配置して周囲を攻撃するために作った。


 しかし出来たものを改めて見てみると本来目的以外の夢想も膨らんでくる。夜間、星を見るなんてのも良さそうだ。この世界に来てからあまり夜空を見上げるなんて事をしていなかったけれども。


 晴れた日は屋上で寝そべりながら運転なんてのも悪くないかな。


「フミノさん、ごはん出来ました」


 おっと、セレスだ。


「魔力切れ、大丈夫?」


「ええ。まだ全部は回復していませんけれど。明日には大丈夫だと思います。

 ところでゴーレム車、上に乗れるようにしたんですね」


「これで周囲を攻撃する時も楽」


 そんな話をしながらゴーレム車を収納し、夕食を食べに家の中へ。

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