第158話 戦闘準備

 準備は1人でする必要がある。

 私の行動パターンはリディナにいつもバレバレだ。そして今回は絶対感づかれる訳にはいかない。危険な目にあわないとも限らないから。


 そんな訳で翌日、私はカレンさんの家に居残った。


「フミノは出かけないの? 図書館も行くけれど」


 勿論言い訳は考えてある。


「人駄目ソファーを完成させたい。ゴーレム車の改良も必要」


「わかった」


 リディナもセレスも疑う様子は無い。

 なおカレンさんとミメイさんは勿論お仕事だ。カレンさんはギルドの仕事、ミメイさんは街中を流れる運河の浚渫工事の仕事があるとの事。


「それじゃ行ってくるね」


 全員の気配が遠のいていく。念の為全員が旧街壁より外に出るまで待った後、私も行動開始だ。


 目立たないよう歩きで家を出る。

 1人で外出するのはものすごく久しぶりだ。リディナと出会ってからは基本、リディナと一緒だったから。この前はセレスと2人で市場回りなんてのもしたけれど。


 大丈夫、恐怖耐性(3)もあるしセレスによる武装も効いている。だから大丈夫だ問題無い。いやこれは大丈夫では無いフラグだから駄目か。でも問題無い。大丈夫。


 そんな事を思いつつも門番の挨拶にも耐え、何とか街へ。昨日図書館にいながら偵察魔法で確認した魔法道具店へ向かう。

 大丈夫。一人でも大丈夫。問題無い。そう自分に言い聞かせながら。


 店の50腕100m手前で店を再確認。大丈夫、営業中の看板が出ている。中にも怖い人はいない。店員さんも優しそうな若い女性だ。


 だから大丈夫。それにこっちは客。無理難題を出される可能性は限り無く低い。お金も充分ある。だから大丈夫。


 呪文のように大丈夫を心の中で繰り返しつつ、店の扉を開ける。

 店員のお姉さんは静かに頭を下げて出迎えた。いい反応だ。いきなり声をかけられるとどきっとするから。


 既に欲しい物は偵察魔法で確認済だ。どの棚の何処に展示しているかまで。

 ただ一応店員さんに声はかけておこう。自分で取るには棚の位置が少し上過ぎるというのもある。


「すみません。錬金術師のアルケミストローブ、非透過タイプと透過タイプ、それぞれ小サイズを1枚ずつお願いします」

 

 錬金術師のアルケミストローブなんて名前は厨二病的。しかし実際は実験用白衣のようなものだ。色は白では無くグレーだけれども。


 このローブは魔法研究者が実験をする際に着用するもので、ある程度の耐火耐熱耐寒耐衝撃能力がある。


 透過非透過とは魔力に対するもの。実験に魔力の観察が必要な際は自分の魔力が影響しないよう非透過タイプを使い、自分が大きな魔力を使う場合は透過タイプを使う。


 出会った頃のミメイさんがよく着ていたのもこんな形のフード付き衣装だったな。そんな事を思い出した。

 きっと非透過タイプだろう。外に魔力が漏れる事で魔法使いだと気づかれないように。多少の防御力も期待出来るし。


「かしこまりました」

 

 店員さんは棚の上からローブを取ってくれる。別に店員さんの身長が高い訳では無い。私の身長が低いのだ。

 普通の身長が欲しいと思う事は結構多い。たとえば図書館で高い棚の本を取る時とか。


「こちらで宜しいでしょうか」


 彼女は私が頷いたのを確認。


「合計で小金貨2枚20万円になります」


 白衣と思えば無茶苦茶高い。しかし此処は古着ですら1着正銀貨1枚1万円する世界。これくらいしても不思議ではない。


 お金を払って2着をアイテムボックスにしまい店を出る。少し歩いた後、非透過タイプを出して羽織る。

 透過タイプはアイテムボックス内でシェリーちゃんに着せる。フードまでしっかり被ればゴーレムとはわからない。


 広い道に出た。バーボン君とゴーレム車を出し乗車。シェリーちゃんも出し、シェリーちゃん経由でバーボン君を操り南門に向かって移動開始。


 大丈夫、この非透過タイプを使ってもゴーレムの操作はできる。遠方に対しても魔法が使える。

 勿論このローブを着ていない時より距離は短い。それでも2離4km程度は大丈夫そう。だから問題無い。


 偵察魔法で確認。門を出るときは入るときと比べて格段にチェックが簡単だ。身分証明書を見せて通り抜けるだけでいい。

 衛士は男性だけれど大丈夫。今の私なら大丈夫。クロッカリと戦う事に比べれば怖くない。だから問題無い。


 南門が近づく。私は前と横の扉を開けて外から中が見えるようにする。シェリーちゃんはゴーレムとわかるようにフードを取る。私の冒険者証を出す。


 走りながらの提示で問題無く門は通り抜けられた。シェリーちゃんのフードを再び深く被らせる。


 衛士から見えない建物の陰まで来た。石造りの農具小屋で中は無人の模様。ここだな。

 ゴーレム車を走らせたまま私はその陰へ飛び降りる。無事着地。そのまま街道の脇、一段低くなっているところに伏せてフードを深く被る。


 あとは奴が罠にかかるのを待つだけ。幸いというか予定通りこちらの街道は人も馬車も少ない。他の通行人と出来るだけ離れる事を意識してバーボン君を走らせる。


 門からおよそ半離1km離れた。周囲も少しずつ畑以外、雑木林等が増えてきた。

 そろそろかな。私はシェリーちゃん経由で偵察魔法を最大限厳重にかけ、魔法の気配を見逃さないよう注意する。

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