第159話 耐えられない事
ゴーレム車の両脇が雑木林になる。
そろそろかな、そう思った瞬間だった。
誰もいない場所から魔法の気配。予想外の場所だ。ゴーレム車より私に近い。
縮地を使ってゴーレム車方向に逃げる。
直後に私の背後で轟音。振り返らず走りながら偵察魔法で確認する。背後が絵に描いたような爆発炎上状態。先程いた場所の背後にある石造りの小屋も崩壊した。
犠牲者はいない。小屋が無人である事は最初から確認済だ。
何が起こったのかはわかっている。クロッカリに作戦がばれてしまったのだ。
どうやら奴は私の予想よりラツィオに近い場所にいたようだ。南門から出たところを目視出来るくらいに。
それとも偵察魔法に類する魔法を奴も持っているのだろうか。可能性が無い訳では無い。確かめる事は出来ないけれども。
縮地を連続起動して距離をとる。あとゴーレム車とバーボン君、シェリーちゃんを収納。おとり作戦は失敗した。だからもう出しておく必要はない。
安全策をとるなら縮地で完全に逃げ切り、その後別の門からラツィオに入るべきだ。
それはわかっている。しかし私はそうしない。そうするつもりもない。
そう、この事態は予想外だが予定内。リディナ達を連れてこなかったのも、そもそも気づかれないよう行動したのも、こうなる事を覚悟していたから。
私はここで決着をつけるつもりだ。どんな状況になったとしても。
先程ゴーレム車がいた両側が雑木林のところで縮地を解除。道路の真ん中でラツィオ方向を向いた状態で立つ。
これは誘いだ。その事は勿論クロッカリにもわかるだろう。しかしそれでも襲ってくると私は思っている。
奴はそれだけ私を憎んでいる筈だ。そして自分の魔法に自信を持ってもいる。
そうでなければ冒険者ギルドを危険を冒しつつ何度も襲うなんて事をしない。別の場所へ行って悪行をしているだろう。その方が理性的に考えて安全確実だから。
そう出来ないのなら、此処で私を見逃す事も出来ないだろう。私はそう判断している。
偵察魔法で最大限に警戒。縮地をいつでも起動できるようにしておく。
思ったより早く反応があった。縮地で更に街の外側に向けて逃げる。
今の攻撃である程度理解できた。奴は隠蔽状態のまま移動が出来る。移動速度は少なくとも人が小走りで走る程度以上。そして攻撃の前にはかならず魔力の反応がある。
ちょうどいい農道を発見。周囲が麦畑では無く休耕中だ。クローバーが生えているけれど、これは家畜用ではなく土壌調整用。
ここを使わせて貰うことにしよう。奴を倒す、いや殺す為の場所として。
農道を縮地で思い切り走り、街道から
奴が前から来るか後ろから来るかはわからない。多分後ろからだと予想しているけれど。
横ということはない。畑の土が軟らかい為足跡でばれてしまうから。
なかなか奴は来ない。迂回して後ろから来るか、後ろから来ると思わせて前から来るか。
最大限に警戒して待つ。
そして……来た!
咄嗟にアイテムボックススキルを起動する。
収納するのは土、深さ
これは私がいる場所を含んでいる。
同時に姿勢を低くして、フードを深く被り両手で頭と顔をガードする。更に水属性魔法
それでもスキルを起動した分だけ防御が遅れた。
思ったより痛みは感じない。感覚も残っている。しかし偵察魔法で自分がどういう状態かはわかる。腕が肘から先ほぼ焼失。腕とフードで護った頭もかなり酷い火傷。
でも傷口は焼けたから出血は酷くない。意識も残っている。偵察魔法で状況も見える。なら問題ない。怪我等は後で魔法で完全再生できる。
それより奴を逃がしてしまう方が怖い。そしてその後に襲われるのが怖い。私が襲われるよりリディナやセレスが襲われる方が怖い。
自分の痛みには慣れている。他人の痛みより慣れている。だから嫌だけれども耐えられる。少なくともリディナが痛い思いをすると感じるより。
奴が私の穴攻撃を逃れる為にとるだろう行動は予想済み。私のいる方向へ向かって出来るだけ速く移動しながら魔法を出す事。自分を巻き添えにするような範囲には穴を出さないだろう。そう推測して。
だから今回は私自身を含めて穴に落とした。そして奴はその事に動揺している。すぐに私に再攻撃をしかけるべきなのにそうしていない。水属性魔法で第二撃に備えたのに攻撃がない。
この隙に空即斬を私の周囲全方向に飛ばしまくる。穴に落ちている最中だから他に被害は少ない。思ったより近い場所で手応え。それでも手は抜かない。更に空即斬を連続で飛ばす。
偵察魔法の視界に落下中の何かが出現した。生命反応はない。人の形をとどめていない。
それでもステータスは見える。間違いなくクロッカリ。仕留める事が出来たようだ。
姿が見えていない分、遠慮無く攻撃魔法を飛ばす事が出来た。でももし見えていたらどうだっただろう。
遠慮無く倒せた気がする。確かに人を殺すのは好きでは無い。戦うのは怖い。この年代の男性は怖い。
でもリディナやセレスが危険にあう可能性の怖さの方が上。それを私はわかっている。
落下に備え水属性魔法で私の周囲に水を大量に出す。それでもかなり強い衝撃。20m落下したから当然だ。
でも問題無い。意識さえあれば大丈夫。
水を収納して出来たばかりの穴の底に倒れこむ。立つことも座ることも出来る状態ではない。正直かつてのヴィラル司祭より数段酷い状態。
それでも意識はある。魔力もまだ残っている。偵察魔法で周囲の確認も出来る。だからまだ大丈夫。
まずは奴の死体をアイテムボックスに収納。討伐はこれで一件落着だ。
次は再生治療魔法。今の状態はとてもではないが人様に見せられない。痛覚が麻痺していて痛みは感じないけれど。
とりあえず顔と頭を優先。火傷だけなら重度でも手間はそれほどかからない。傷もない状態に何とか治せた筈。熱でやられていた目や耳も痕が残らないくらい完璧に治療完了。
髪の毛も見苦しくないよう再生しまくって伸ばした後、偵察魔法で確認。これで大丈夫かな。
一方で腕は両方とも肘から先が炭状態。とりあえず魔力の限界までこの辺を治療することにしよう。作業できるよう利き腕の右を優先して。
今頃やってきた痛みで意識がやばい。でも大丈夫。痛いと感じるのは意識がある証拠。
何とか形だけでも右腕を修復。ただ無くなったものを修復するのはやはり魔力を食う。魔力の限界は近い。
意識がある内にこの大穴の私がいる部分以外を修復しておこう。
アイテムボックスから抜いた分の土を戻してやる。収納した場所のクローバーは枯れてしまうだろう。その辺は後で褒賞金か何かで弁済することにする。あとは壊れたあの農機具小屋も。
そろそろ本当に意識が限界。これは痛さではなく魔力の問題。左腕は外見すら治せなかった。でもしかたない。
これだけの反応があったなら衛士も気づいているだろう。だからまあ、ここで倒れても保護はしてくれると思う。
だからきっと問題無い。衛士が怖くても私の意識が無ければ問題無い。
だから大丈……
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