第137話 私の手伝えること
リディナとセレスは朝食の後出かけて行った。今日も魔物討伐をするそうだ。
私はまず偵察魔法で聖堂の様子をうかがう。人の気配はない。あの埴輪型のゴーレムがいるだけだ。
その代わり長屋の方に大人数が集まっている。朝食の時間らしい。
ついでだから朝食内容を見てみる。
メインは野菜やモツ肉が入った具沢山のスープ。他に塩漬け肉、チーズ、ラルド、やや色の濃いパンといった内容。
うちの朝食と比べれば質素。でもこっちの方がこの世界的には普通だ。
そして内容は質量ともに充分で悪い食事ではない。セレスが言った通りだ。
さて、ついでだから開拓中の場所も確認しておこう。偵察魔法の視点を一度かなり上空へと上げて確認。現在開拓しているのは北東側の森、川の近くの模様だ。
どうやら、
① 木や草の無い区画で一定区域を囲う
② 火をつけるか火炎系魔法で焼きはらう
③ 残った木の根や岩等を取り除く
④ 出来た更地を耕す
という順序で作業しようとしているらしい。
これなら私の魔法で手助けするのも難しくない。
一番手っ取り早いのは①の部分だ。アイテムボックスでやってしまえばほぼ一瞬で作業が終了する。
土中の生物が全滅しても問題は無い。④の作業で近くの土と混ぜ込めばある程度は問題ないだろうから。
ただ範囲にある程度大きい動物がいると魔力を消耗してしまう。これは事前にレベル低めの風魔法や土魔法で追い出してやればいいだろう。
③の作業は偵察魔法か監視魔法で確認しつつアイテムボックスを使って1本ずつ収納していけばいい。土属性魔法を使うより早く出来るだろう。
④も土属性魔法を使えば手伝える。何せ私は表向きは土属性の魔法使い。アコチェーノで実際に土壁作りなんて事までやったので土属性は比較的得意だ。
なら今のうちにやってしまおうか。一瞬そう思ったがやはり確認してからの方がいいだろう。残すべき場所があるかもしれないし。
おっと、食堂の方で人が動いたのを感じた。どうやら食事が終わったようだ。
様子を見てみる。よし、ヴィラル司祭本体が聖堂に戻った。念の為しばらく様子を見てみる。
聖堂からゴーレムのイーノック君が出て行った。その後動きは無さそうだ。
よし、それでは行くとしようか。
この家から聖堂まではすぐ。
私が中へ入ると埴輪ではなく本人が出て来た。あの白い仮面はもうつけていない。しかし動きは少々不自由に見える。
尋ねてみよう。
「おはようございます。身体の方は大丈夫でしょうか」
「ええ。昨日は本当にありがとうございました。早速身体を自分の力で動かす練習をしているところです」
なるほど、妙に見える動きはリハビリ故という事か。確かに年単位で動かしていなかったのだ。制御の方がまだ慣れていなくて当然だろう。
「ところであの後大丈夫だったでしょうか」
「ええ。こちらこそ運んでいただきありがとうございました」
「いえ、私のせいで魔力が無くなったのですから。それに新しい治療の方法も教えて頂きました。ある程度復習した後、私も出来るか試してみるつもりです。此処にはそういった治療が必要な者がおりますから」
なるほど、この辺もセレスが言っていた通りだ。
治療関係の方はこれ以上私が出張る必要はないだろう。ヴィラル司祭の方が私より魔力が大きいし、水属性のレベルも上。考え方さえ理解すれば治療能力は私以上の筈。
だから私は当初の予定通り、開拓側を手伝わせて貰う事にする。
「ところで開拓の方は順調でしょうか。小麦はそろそろ蒔き終わらせなければならない時期ですよね」
少しばかり意地が悪い質問だ。質問している私は既にここの開拓状況を把握している。
雨期の季節はあと2週間程度。雨期が終わると一気に寒くなり霜が降りる。こうなるともう播種は出来ない。
そして現況を見る限りでは現在開拓中の部分は冬小麦の播種に間に合わない。
「ええ。残念ながら現在開拓中の場所の半分以上は小麦の時期に間に合わないでしょう。ですので出来る部分だけでも急いでいるところです」
予想通りの答えが返って来た。ならばだ。
「それで宜しければお手伝いをさせていただきたいと思います。具体的には焼き払う前の緩衝地帯を作る作業、焼き払った後の根や石を取り除く作業。
これらに関してなら得意な魔法がありますから」
「流石にそこまでお願いするのは申し訳ないです」
「いえ、折角ここへ送ったタチアナさん達の今後に対して私達が安心したいだけです。それに手間もほとんどかかりません。私の特殊魔法だけでかなり早く出来ますから」
そう言いながら偵察魔法で探す。いたいた、さっき出て行ったイーノック君が。木の根っこを掘り起こす作業をしている。
ちょうどいいからこれを手伝おう。
「例えば木の根を掘り起こす作業。これはこのような形で行う事が出来ます」
ゴーレムの前方、4つほど見える木の根をアイテムボックスに仕舞う。
切り株が丸々消えて穴だけが残った。
「確かに早いですね」
「この応用で範囲内の木や草を一気に取り除く事も可能です。ただ土の中にいる微小生物が死にます。
ですから畑全体ではなく一部に対してのみ行う方がいいかと。例えば焼き畑を行う際に他に火が燃え移らないよう周囲に空地を作る際とか。
木の根を見ながら1つずつ収納していく場合は、土中の生物の事を気にしなくても大丈夫です」
「わかりました。それでは少しお待ちいただけますか。現地にいる同僚と相談しますから」
イーノック君がとことこ走っていくのが見える。
先には作業用の修道服を着た初老の男性。イーノック君はそこで立ち止まり、何かを話している模様。
偵察魔法では声は聞こえないけれど。
初老の男性が頷いた後、更にイーノック君は先へと走り出す。
「すみません。3人とも少し離れた場所におりまして」
つまりここのトップはそれぞれ率先して現場で働いている訳だ。うんうん、更に気に入った。
あと一応説明しておこう。
「大丈夫です。偵察魔法で状況を見る事も出来ますから」
偵察魔法は空属性としては一般的な魔法のひとつ。だからこう言えばヴィラル司祭もわかってくれるだろう。
「なるほど。それで遠方の様子も見えるのですね。了解いたしました」
わかってくれたようだ。
「なら此処で少しお待ちいただけますか。開拓計画の図面をとって参ります。そちらと現地を照らし合わせてやって頂ければ、何処をどうするかわかりやすいでしょうから」
ヴィラル司祭はそう言って立ち上がり、奥へ消えた。なおイーノック君の方も止まらず走って、そして修道士1名と話している。
司祭、少なくとも同時に自分の身体とゴーレム1体を別々に動かす事が出来る模様だ。私も同じくらいゴーレムを極めれば本を読みながらバーボン君を操縦できるだろうか。
司祭はすぐに戻って来た。図面を私の前のテーブルに広げる。
「現在はこのような形で開拓を行っております。此処が今いる聖堂で、この2つが横にある宿舎や業務棟です。先程木の根や草を燃やしていたエラム首輔祭がいたのはこの位置になります」
建物の形や見える山の形、特徴的な木や岩が描かれたわかりやすい図面だ。
おそらく私と同様に偵察魔法を使える人が描いたのだろう。方向が正確で形も正しい。
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