第136話 本日の予定

 翌日、朝食の時間。


「昨日でかなり魔法の勉強の方も進みました。今日の夜で多分私が教えられる範囲の魔法は教え終わると思います」


 セレスからそんな話があった。


「3人とも大丈夫そう?」


「ええ。タチアナさんも昨日でレベル2の土属性魔法と、それ以外の属性の基本の魔法をほぼ使えるようになりました。

 アリサちゃんも湧水と温度上昇、温度低下は使えるようになったので、今日その確認と復習をすれば終わりです」


 アリサちゃんはまだ魔力が少ない。だからそのくらいが限度だろう。でも他2人がひととおり基礎魔法を使えれば教わる事も出来る筈だ。


「待遇とかは大丈夫そうだった?」


「ええ。食事も量質ともに充分な内容だそうです。部屋のつくりもしっかりしていますし、家財道具もひととおり揃っています。

 あと休息日には文字の読み書きの勉強会もあるそうです。だから心配はいらないかなと思います」


 至れり尽くせりだな、ここは。


「でもここの開拓村、それで大丈夫なのかな。困っている人を無条件で受け入れて、それだけの待遇をして」


 セレスも以前私がしたのと同じ心配をしたようだ。ならここは私が答えておこう。


「国からの支度金とセドナ教会からの援助で来年秋頃までは人が増えても問題ないらしい。

 あと農作業に便利な魔法を使える修道士が4人いる。冬小麦の種まきまでにはある程度の畑を作れるし、冬の間も開拓を続ければ春の耕作開始までには相応に広い畑を作れると言っていた」


「なるほどね。それなら何とかなるかな」


 リディナはそう言ってくれた。しかしセレスが何か微妙な表情をしている。


「何か気になる事がある?」


「少し厳しいかもしれないです」


 セレスはまずそう言って、そして続ける。


「此処は力のある大人の男性は少ないんです。

 開拓団といっても普通の、冒険者を引退したような人が中心の屈強な男性が多いところとは違います。ここは生活に困って保護された人が中心です。


 修道士さん以外はタチアナさん達のように夫を亡くした女性や子供、怪我や病気で他では働けなくなった人がほとんどです。普通に働ける大人の男性は街でも農村でも何とかなりますから。


 それでも一般的な畑作業なら何とかなるとは思います。耕したり水をやったりするのはタチアナさん達の基礎魔法も使えます。草取りや収穫は人数が多いので皆でやれば何とかなるでしょう。


 でも力の必要な仕事、特に開墾なんてのは保護した人では無理です。魔法を使ってもレベル2程度まででは難しいでしょう。

 だからある程度開拓するまでは修道士さんが大変な事になると思います」


 なるほど、よく見ている。

 でもそれならだ。


「つまりある程度切り拓いて畑になっていれば問題はなくなる。違う?」


「そうですね。畑作業だけなら基礎魔法が使えれば問題はないと思いますから。


 でも森を畑にするのは大変です。大きい木は切り倒して運んで、根っこを掘り出してこれも運んで。

 更に小灌木や草なんかを刈ったり燃やしたりしなければならないんです。


 土属性の高度な魔法を使える修道士さんや強力な身体強化を使える修道士さんでも大変だと思います」


 確かに普通にやればそうだろう。

 しかし私にはチートなスキルがある。収納可能容量が無限に近いアイテムボックスだ。しかも極4まで進化した。


 要は土ごと森を収納し、土だけを戻してやればいい。


 ただこの方法では土の中の微生物だの有用生物が死ぬ。だからその辺は他の場所から調達する必要がある。それでも普通に開拓するよりはかなり楽だろう。


 何なら収納した木や草の一部はアイテムボックス内で熱分解して土と混ぜ込んでもいい。

 極4ならアイテムボックス内で魔法による加工が出来る。いい感じで焼き畑農業的な肥料になるだろう。


 元々開拓にも手を出すつもりだった。

 だから私はセレスに言う。


「大丈夫、この後ヴィラル司祭に話して何とかしておく」


 そこまで言ってからふと思いついて言葉を付け加える。


「教えてくれてありがとう、セレス」


「でもそこまでフミノがやるって事は、余程此処が気に入っているんだね。あのフミノが知っている神像もあるし、何なら此処に移住する?」


 リディナがそんな事を言う。


 確かに私は此処を気に入っている。

 ヴィラル司祭だけではない。ここの雰囲気全体もだ。

 何というか善意でなりたたせているところとか。あの神像だってある。ここの聖堂でヴィラル司祭相手なら私も普通に話せる。


 しかし移住するつもりはない。


「ここの方針は好きだし気に入ってもいる。でも此処はヴィラル司祭達が作った場所。私は必要ない。

 気に入った分の手伝いはする。でも此処に定住するつもりはない」


「わかった」


 あっさりとした返答で気付いた。リディナ、最初から私の答えに気づいていたなと。気付いていてあえてそう言わせたなと。


 やっぱりリディナには私の考えている事が丸わかりのようだ。何故わかるのだろう。私からはリディナの考えはわからないのに。


 私の考えがリディナに分かる事が嫌という訳では無い。リディナになら別にその辺まるわかりでもかまわない。


 ただ私の行動を常にリディナに追認して貰っている状況が、リディナに甘えっぱなしでいるように感じるのだ。


 その辺が何かリディナに申し訳ない。だからどうするという事は今の私には出来ないのだけれども。

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