第17章 開拓団の村

第126話 開拓村へ

 セレス、なかなか頑張った。村に着く前に母親を含めて3人とも灯火魔法が使えるようになった。


 更に男の子は湧水魔法も使用可能にまでなった。これだけでも生活がかなり楽になるだろう。


「お兄ちゃん、凄い!」


 アリサちゃんも喜んでいる。自分が出来ないので文句を言うかと思ったが、お兄ちゃんが出来るのが素直に嬉しいようだ。

 うん、仲良きことは美しきかなby昔の日本の文豪。誰が言ったのかは忘れたけれども。


「すみません。こんな事まで教えて下さるなんて。お礼も何も出来ないですけれど」


「いいんです。私が教えたかっただけですから」


 そう言ってからセレスはふと気づいたかのように私の方を見る。


「フミノさんすみません。小さいものでいいので紙を1枚、あとペンとインクを貸していただけませんか。

 どうせなら此処で適性を見て書いておいた方がいいと思うんです。そうすれば向こうへ行っても魔法を教えて貰えるでしょうから」


 なるほど、確かにそうだな。

 そう思ったので私はセレスに言われた通り紙とペン等を出す。


「ありがとうございます」


 セレスはそう言って紙に名前と魔法属性、魔力の値を書き始めた。3人分だ。


 うん、値はあっている。セレス、ステータスを見る事も完全に出来ている様だ。

 一方で文字の筆記はまだ慣れていない感じでゆっくり。それでも文字は丁寧に読みやすく書かれている。


 なお属性はやはり全部の属性に1以上ずつ適性がある。他にはお母さんが水属性に2の適性。お兄ちゃんが水と土に2の適性。アリサちゃんが風と水に2の適性。


「すみません。私は読めないのですけれど、何と書いていただいたのでしょうか」


「これは3人の現在の魔法の力と魔法適性です。見せれば今はどれくらい魔法の適性があるか、向こうの人にわかると思います」


 お母さんは文字が読めないようだ。識字率2割だから仕方ないだろう。

 しかし向こうにはエールダリア教会出身者がいる。だから問題はない。


 さて、ゴーレム車は森を抜け、畑へと差し掛かった。少し離れたところに村壁が見える。

 開拓村へ無事到着だ。


「折角だから村の中も見てみようか」


「申し訳ないです。そこで下ろして貰えば大丈夫ですから」


「せっかくだからセレスもフミノも中を見てみたいでしょ。それに今日、時間的にこれ以上進むと山の中で野宿になりそうだし。それなら同じ野宿でも村の中でやった方が安心でしょ」


 間違いない。何かリディナが企んでいる、もしくは考えている。全くの野宿でも私達は問題ない。むしろそっちの方が大きい家を隠さないで済むから楽だ。


 ただリディナは全面的に信用しても大丈夫。それは私もわかっている。だから取り敢えずリディナの言う通りにしておこう。


「わかった」


「わかりました」


 リディナの言葉で街道からわき道に入り村門を目指す。


「門の手前で一度止まって。歩いて行った方が向こうも安心すると思うから」


「わかった」


 門の20腕40m程度手前で一度停止。全員降りて、そしてバーボン君とゴーレム車をアイテムボックスに収納。

 あとは6人全員で歩いていく。


「すみません。セドナ教会やエールダリア教会の方がやっている開拓地というのはこちらでよろしいでしょうか」


 リディナが街門を守っている若い男性に話し掛ける。


「ええ、そうです。どうぞお入りください」


 あっさり。特に警戒している様子も何もない。


「検問や確認はしないで大丈夫でしょうか」


「大丈夫です。一応これでも犯罪者かどうかはわかりますから」


 つまりこの人はステータスの称号や職業の部分を見る事が出来るという事か。


「わかりました。それで入植希望者はどちらへ行けばいいでしょうか」


「それでしたら中央に石造りの大きな聖堂がありますからそちらへ行って下さい。責任者のヴィラル司祭がいますから。

 ただ司祭は普段ゴーレムの姿で動いています。ですから見ても驚かないでください」


 なるほど。ならあの偵察魔法で見たゴーレムはその司祭が操っているのだろうか。ならその方法論は少し気になる。


 出来上がったゴーレムを改造する方法はほぼわかっている。しかし私はまだ自分でゴーレムを造る事は出来ない。


 正確にはゴーレム素体、構造そのものを作成する事は出来る。ただそれをゴーレムとして認識させ動くようにする事が出来ないのだ。


 ゴーレムに関する本でもその辺は詳しく記載されてはいなかった。だからその辺教わることが出来れば面白いのだけれど。


 さて、門の中は割とコンパクトにまとまっている。石づくりのドームがある大きな建物。その奥に連棟式の小屋2棟。まあこの辺は偵察魔法で見た通りだ。


 ただ実際に目で見て感じた部分もある。石造りのドームがある建物、思った以上に大きくて古い。そしてかなり傷んでいる。


「この建物だよね。守衛さんが言っていたのは」


「かなり古そうですね」


 セレスの言う通りだ。現役の建物というより遺跡なのではないか。そう疑いたくなるような風情がある。


「失礼します」


 一礼して建物の中へ。中へ入っても印象は変わらない。補修済みの遺跡という雰囲気。


 その補修もお金をかけた感じではない。よく言えば質実剛健、悪く言えば見栄え無視。強度的には石灰石粉等でしっかり固めてあるのだろうけれど。


 そして中、奥の部分に7体の像が並んでいる。おそらく神像だろう。この世界に来て教会なんて場所に来たのは初めて。だから他もこうなのかはわからない。

 

 ただそのうち1つ、右から3番目の像に確かに見覚えがあった。

 間違いない。私をこの世界に連れてきてくれた神様だ。今より対人恐怖症が酷くて良く見ていなかった筈なのに、何故かはっきりそうわかる。


 あの神様はこの世界の神様だったのか。あの神社の神様ではなく。それとも両方とも同じ神様なのだろうか。


「ようこそいらっしゃいました。どのような御用件でしょうか」


 私の思考はそんな声で途切れた。しかしさっと見た限りでは人の姿は見えない。

 何処だと思った瞬間気付く。私の腰より少し低い位の何かが動いている。声はそこからだ。


「えっ!」


「魔物!?」


「大丈夫。これもゴーレム。人間が操っている」


 身構えたお母さんやセレスに訂正。

 間違いない。偵察魔法で見たあの埴輪だ。多分違う個体だけれど形と大きさ、そして魔力の反応が同じ。


「これは失礼しました。私はここの責任者を務めておりますヴィラルと申します。事情があって動けないものですからこの姿で失礼します」


 動けないか。何故だろう。ふとそう思ってしまった結果、半ば無意識でステータス確認をしてしまった。

 なるほど、ゴーレム越しでもある程度は操っている人のステータスはわかるようだ……えっ!


 酷い。思わず足がすくむ。立っていられなくなる。なんとか手をついて頭を打つのは避けた。けれどそのまま動けない。


「フミノどうしたの!」


 でも誤解される前に言わなきゃいけない事がある。


「違う。この人のせいじゃない。悪いのはこの人じゃない」


 そこまでで呼吸が限界。その分息を大きく吸い込んで吐く。

 まずい、これでは過呼吸になる。意識してゆっくり呼吸をするよう私の思考に残ったごく一部の冷静な部分が指令する。


 ゆっくり、ゆっくり。

 大丈夫。私が見たのは今現在じゃない。あくまで過去の痕跡。だから大丈夫。だからゆっくり息を吐いて。苦しいと思っているのは錯覚だから。

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