第125話 ゴーレム車に揺られて
リディナに相談しようと思ったがそんな時間も隙も無かった。何せ同じゴーレム車の中にいるのだ。密談なんて出来る訳がない。
そして開拓村は確かに歩いても日のあるうちにたどり着ける距離だった。お昼を過ぎてすぐ、それらしい村が私の偵察魔法の範囲に入って来たから。
村の様子を確認する。
開拓村という名にはふさわしくない古い石造りの大きな建物が1棟。その背後に古い連棟式の小屋が1棟、新しい連棟式の小屋が1棟出来ていて、更にもう1棟を建設中。
整備済みのそこそこ広い畑がある。他に森を新たに切り拓いている部分もある。伐採したり根を掘り出したりしている状態だ。
ただその開拓現場で妙なものが視界に入った。何だろう、あれは。
見た目は埴輪だ。土偶ではなく埴輪。丸い穴3つで目と口が表現されているアレだ。
その埴輪が伐採された後の、下草と切り株が並んでいるところをひょこひょこ動いている。
周囲
急行するべきだろうか。遠いが縮地を使いまくれば何とかなるだろう。そう思った時だった。
埴輪の前にあった切り株がいきなり浮き上がった。周囲に張られた根が土から抜き出てくる。
見ている間に切り株は太い根の部分を含め全て掘り出され、そして土の上に上下逆になって横たわった。
理解した。今のは魔法だ。それも土属性の魔法。そしてあの埴輪はただの埴輪ではない。ゴーレムだ。
つまりゴーレムを術者が操って、切り株の根を掘り起こす作業をしていた訳だ。よく見ると周囲の切り株のいくつかは同様に掘り起こされひっくり返っている。
なるほど、そう言えばエールダリア教会は魔法も司っていたのだった。魔法を使えればああいった開拓方法もとれる訳か。しかし何故ひっくり返すのだろう。
その答は近くだが別の場所で起動した魔法で明らかになった。これは火属性の魔法だ。
掘り起こされた根と周囲の下草を共に魔法で焼いて灰にしている。こっちの魔法はゴーレムではない。すぐ近くにいる初老の男性がその場で起動しているようだ。
確かにこうやって魔法を使えば単に人手を使うより効率がいいだろう。
納得しつつふと思い出す。ミメイさんもこんな感じで山の整備をやっているのだろうかと。
とりあえず皆に村が見えた事を言っておこう。
「その開拓村らしき場所が見えた。あと
「えっ、もう見えるの?」
男の子がゴーレム車の窓へと近づき外を覗いた。
「普通の人はまだ見えないと思うよ。フミノは遠くを見る魔法も持っているから」
「凄い。僕も向こうへ行って教会の人に教わったら魔法が使えるかな」
「ちゃんと勉強をしたらね」
確かに出来るかもしれないなと思う。少なくとも魔法使いが2人はいる事をたった今確認したし。
何ならその事も言っておこうか。サービスで。
「最低でも土属性使いと火属性使いはいる。土属性使いはゴーレムを使って切り株を掘り起こしていた。火属性使いは掘り起こした切り株や切り拓いた土地の雑草を燃やしていた。
他にもいるかもしれない」
「凄い。なら僕やアリサも魔法、使えるようになるかな」
女の子はアリサという名前のようだ。
なお最近の私はステータスシートの必要な部分だけを見る事が出来る。
3人については年齢と性別、親子である事、犯罪歴が無い事くらいしか見ていない。私は何でもかんでもステータスを見てしまう事に罪悪感を感じてしまうから。
プライバシーという単語を日本で知っている故だろうけれど。
「フミノさんリディナさん、いいですか?」
セレスがそんな事を言う。何だろう。
「何かな?」
「私が教わった範囲で3人に魔法を教えていいでしょうか。勿論あと2時間くらいしかないですし、私が知っている範囲ですからそんなに沢山は教えられませんけれど」
おっと、そう来たか。しかし私は判断がつかない。
個人的には教えてもいいとは思っているし、むしろどんどん広まって行って欲しいという位には思っている。
しかしこの国の社会的にはどうなのだろう。
「フミノはどう思う?」
おっと、リディナに先に聞かれてしまった。
ただこうやって皆の前で聞いてくるという事は、そうしてもいいとリディナが判断しているという事でもある筈だ。
だから私も隠さず堂々と答える。
「かまわないと思う」
「うん、フミノならそう言うと思った。私もいいと思うよ」
リディナ、あっさり。本当にいいのかなと少しだけ思ってしまう。
ただこの3人には今のところ悪いステータスは無い。生活を便利にする程度の魔法なら教えても問題ないだろう。
武器の所持と同じだよなと自分で自分に言い訳もしてみる。
銃や刀は法律で禁止している。しかし包丁のような生活に使用するものは必要な際に所持する分には問題にならない。
必要な場合でないのに持ち歩いたらおまわりさんに捕まるけれども。
それと同じだと思うのだ。レベル4未満では攻撃魔法は使えない。無理やり使えば使えない事もないけれど、それよりは刃物の方がよっぽど手っ取り早い。
だからレベルの低い魔法なら教えても問題ない。よし自己弁護終了だ。誰に何の理由で弁護しているのかは自分でも定かではないけれども。
「えっ、お姉さん、魔法を教えてくれるの?」
「私も!」
男の子も女の子も目をキラキラさせてセレスの方を見る。うん、これはもう教えないなんて訳にもいかないだろう。
ついでだ。少し手助けもしてやろう。ちょうどいいものもある。翻訳中の大事典、魔法部分はほぼ仕上がっているから。
「セレス、これ参考。私の字だから読みにくいかもしれないけれど」
自作の金具で止めただけの原稿状態だ。それでも無いよりは教えやすいだろう。
私はセレスにその紙束を渡す。
「いいんですか?」
「ここで使う分には」
セレスの復習にもちょうどいいだろう。問題は翻訳文に書かれた私の字に少し癖がある事くらいだ。
一応読めない程の字ではないとは思う。思いたいけれど。
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