第16章 三人の目的地

第122話 雨の山道

 テモリを出て3日目。ゴーレム車は石畳のゆるい坂道をトコトコと上っている。


 この国は南に突き出た長靴形の半島。そして北部の東西と中央部のやや西より南北には山脈が走っている。

 北部の山脈に比べると中央の山脈はそこまで厳しい高さではない。しかし超えるとなるとやっぱりそこそこ難儀だ。


 馬車は自動車と比べると坂に弱い。自動車に比べて段違いに非力だから仕方ないだろう。1頭1馬力として4頭立て大型馬車でも4馬力だし。


 だから馬車が通る街道の坂は非常にゆるく作られている。その分距離は長い。歩く人用に途中でショートカットの階段があったりもする。


「雨だし上り坂だし、歩きだったら大変だよね」


 リディナの台詞にセレスが頷く。

 

「ゴーレム車って楽でいいです。でもフミノさんは疲れないんですか」

「大丈夫。坂でもゴーレム操縦に使う魔力は変わらない」


 むしろ追い越し追い越されが無くなったので楽な位だ。あと山の中なので討伐も捗る。

 今もオーク3匹目を無事収納したところだ。


「フミノ、ご機嫌だね。何かいい物獲れた?」


 リディナ、気付いたか。


「オーク3匹目。絶好調」


「流石ね」


「そんなにいるんですか」


 ふふふ、いるのだよ。


「本来なら魔素マナが濃い街近くの方が魔物は発生しやすいんだけれどね。山地のように土地の起伏があると魔素マナの吹き溜まりのような場所が出来る事があるの。そうするとそこそこ強めの魔物が発生する訳」


 リディナがセレスに説明する。


「一度発生すると街の近郊ではないからなかなか発見されないし討伐されないでしょ。それに今は雨期、だから冒険者が遠征する事もない。

 だからこういった時期は往来が多い大街道以外の道は通らない方が無難なんだよ、本当は。強い魔物が出易いから」


「なら大丈夫なんですか?」


「心配はいらないかな。フミノの偵察魔法はこのゴーレム車の周囲かなり広い範囲を確認出来るから。

 どんなに強い魔物でもこっちを発見する前に倒せば問題ないでしょ。むしろ強い方が褒賞金が多くなってありがたいなんて前に言っていたくらいよ」


「でも強い魔物なら倒すのも大変じゃないんですか」


 確かにそれは無くもない。


「強くても基本的な方法は同じ。まずは足元の土を収納して半身を埋めて動けなくする。その上で上から重いものを出して落として撲殺のようにして倒す。


 アークゴブリン程度までなら丸太で倒せる。でもオークは丸太程度では倒せない。だから直径半腕1mくらいの岩を3腕6m位上から落としてやる。そうすればオークでも概ね倒せる。1回で駄目でも繰り返せば大丈夫」


「……それって無敵ですね。どんな相手でも」


 いやセレス、残念ながら違う。


「近接戦闘は無理。あと犯罪者以外の人間も苦手」


 何せ私、未だに攻撃魔法が使えない。あと犯罪者以外の人間は倒すわけにはいかない。故にこの2つは苦手だ。


 一方セレスは昨日、水属性がレベル4に進化。攻撃魔法が使えるようになった。水の衝撃アクアエ・イパルサムといって水を強い勢いで出す魔法だ。


 この魔法、出す水の量と速さと範囲の指定により、押し潰たり跳ねのけたり斬ったりと用途が広い。攻撃可能範囲は5腕10m程度でリディナの風の刃ヴェントス・ファルルムと同じくらいという近接攻撃用の魔法だ。


「まあ確かにフミノは最強に近いけれどね。こうやって旅しながら魔物や魔獣を狩ったり出来るし。

 でもまあ私達は私達で出来る事をすればそれでいいと思うよ。この髪型、結構気に入ったしね。動きやすいし前よりなんか雰囲気もいいし」

 

 私だけでなくリディナも髪型が変わっている。前髪ありのやや長めから、前髪無し耳かけショートに。素材がいいから前も悪くなかったけれど、今はもっと綺麗に見える。


「なら良かったです。でもまだ私、こんな事しか出来ないから」


「お買い物だって上手じゃない。それに攻撃魔法だって使えるようになったしね。文字の読み書きも計算も出来るようになったし、頑張っていると思うよ」


「同感。頑張っているし助かっている」


 実際リディナの言う通りなのだ。買い物の腕はテモリで見せて貰ったし魔法や読み書き計算もそう。


 特に読み書きや計算は勉強を始めてまだ1ヶ月も経っていない。それでここまで出来るようになったのは間違いなく努力の成果だと思う。


「そう言ってくれると嬉しいです」


「事実」


「フミノがそう言う位だから自信もっていいと思うよ」


 うんうん、セレスはもっと自信をもっていいと思うのだ。買い物の時くらいに。


「ところで今日はどの辺まで行けそうですか?」

 

 地図と偵察魔法で見た地形、そして雲の間から見える太陽の位置で今日中に行ける行程を計算する。


「峠を越えるか越えないか位。買い物があるならもう少しゆっくり行ってイゼラニアの手前で止まるけれど」


 峠の手前までの間では一番大きな街だ。と言ってもアレティウムと同じくらいのよくある程度の街だけれども。


「いえ、ただ単にどれくらい私達が動いているのか確認したかったんです。旅なんて初めてですから楽しくて」


「あ、でも遅い時間でいいからイゼラニアには寄ろうよ。テイクアウトのお店だけは見てみたいから。何か変わったものがあるかもしれないしね」


「わかった」


 リディナらしい理由だなと思う。

 テイクアウトの食べ物は街ごとに微妙に違う。北へ行くとサンドイッチやガレット系統が主流。中部の東海岸沿いはピザを2つ折りにしたようなものが多かった。


 それに旅行の楽しみはやはり見る事と食べる事。だからテイクアウトを購入するのは私も賛成。

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