第107話 魔法の最新情報
セレスが冒険者登録をするのにあたって、想定外だった事がひとつあった。
「本来は冒険者として登録出来るのは12歳からとなっています」
受付嬢さんの言葉に三人で顔を見合わせてしまう。
セレスは現時点で11歳だ。なら冒険者として登録出来ない。
「どうしよう。知らなかった……」
リディナも知らない事があるというのは珍しいなと思う。
でもどうしよう。12歳になってからまた冒険者ギルドに来ればいいだろうか。
受付嬢さんが口を開く。
「ですが今回は大丈夫です。同行されているリディナさんとフミノさんは魔法使いです。そして魔法使い見習いとしてなら年齢が12歳に達していなくても特例として冒険者登録することが可能となっています。誰でも魔法を使える事が明らかになったとはいえ、まだまだ魔法使いは貴重な存在ですから。その扱いでよろしいでしょうか」
「それでお願いします」
私だけでなくリディナもほっとした表情だ。
こんな感じでセレスは無事E級冒険者として申請を完了した。
次は私の番だ。
「それでは渡して頂ける魔石や魔物、魔獣をここにお願いします」
まずはスライムやゴブリンの魔石から。昨日狩りまくったので単価は安いが数は笑えるほどある。おかげで今朝熱分解して魔石だけ取り出すのが大変だったのだけれども。
だだだたっ。数が多いのでカウンターから落ちないように出すのも大変だ。
「これで全部でしょうか」
甘いなキミ。
「あと小型のクラーケン1匹」
冒険者になって最初に出し過ぎでミスった。だから今では大惨事にならないようちゃんと考えて出している。
「クラーケンですか。8本足と10本足のどちらでしょうか」
この国ではタコの化け物もイカの化け物も同様にクラーケンと呼ぶ。区別をつけていないのかと思っていたがそうでもないようだ。
ちなみに今回私が狩ったのはタコもどきの方。
「8本足、足まで含め
「わかりました。準備をしますので少々お待ちください」
大型の魔獣や魔物を受ける準備は何処の冒険者ギルドでも同じだ。カウンター上を自在袋で片づけ、大型の籠と大容量自在袋を持ってきてカウンタ―上に置く。
「それではお願いします」
足を頭側に曲げて丸めた姿をイメージして籠の中へ出す。うん、いい感じで収納できた。
「新鮮でいいですね」
「倒してすぐ収納した」
「至急処理して参ります。しばらくお待ちください」
自在袋に収納し、受付嬢さんは奥へと消えた。新鮮でいいという事は食べられるという事なのだろうか。なら味見をしておけばよかったかなとちょっとだけ後悔。
また今回の受付嬢さんの台詞から、タコもどきとイカもどきで扱いの差がある可能性も出て来た。この辺は後で調べておこう。図書館に寄るからその時にでも。
さて、それでは少しギルドの中を見てみるか。幸い冒険者は私たち以外にいない。それに昨日気になった事もある。
「掲示板を見てくる」
「あ、私も見ます」
「なら3人で見ましょうか」
魔石の数は百を超えている筈だし、タコもといクラーケンの解体もある程度かかる筈。だから3人で行っても掲示板を見る時間はあるだろう。
そんな訳で3人で掲示板へ。
「冒険者になるとこんなに依頼を受けられるんですね」
「私達は討伐専門だから依頼を受けた事はあまりないけれどね。依頼はここから左側で級によってわけられているの。こっちがE級でここまでがD級、ここからがC級でこれがB級」
リディナがセレスに掲示板について説明する。そう言えばセレスはまだ文字が読めないのだった。
「E級で受けられる依頼は少ないんですね」
「討伐関係はC級以上になるからね。でもパーティの場合はメンバーのうちいちばん上の級相当の仕事を受けられるから問題ないよ。私もフミノもC級だからC級の依頼まで大丈夫。
ただフミノは対人恐怖症だし私も面倒なのは嫌いだから、常時依頼の討伐ばかりやっているけれどね。掲示板だとこの辺の部分。これはさっきフミノがやったように討伐の証拠を持ち込めばいつでも褒賞金を出してくれるの」
リディナとセレスは依頼の方を見ている。
しかし私が見たかったのはお知らせの方だ。魔法に関する講習か何かが載っていないかと思ったからだ。
うーん、講習そのものは無い。魔法やステータスに関するお知らせそのものは数件あるけれど。
貴族以外でも魔法の適性をもっている事、誰でもどの属性でも最低1の適性がある事といった発表内容の概略。発表内容詳細についてパンフレット有料配布の案内。文字が読めない冒険者向けステータス確認サービスの開始。
今回の発表に関連するのはその辺まで。魔法についての講習や独習本について等、魔法を教える関係は見当たらない。
「フミノ、何か探しているものがあるの?」
リディナに気づかれた。
「魔法やステータスの件、その後どうなったか知りたかった。ギルドで魔法について講習や何かをやっているか確認しようと思った」
「まだ発表からそれほど経っていないし教える体制が出来ていないんじゃないかな。あとでさっきの事務員さんに聞いてみるね」
ありがとうリディナ。私では他人に質問するのは難しいから。
「それじゃそろそろ戻ろうか」
リディナにそう言われて先程のカウンターへ戻る。
すぐに先程の受付嬢さんが戻って来た。リディナ、監視魔法か偵察魔法で受付嬢さんの動きを確認したのかな。そう思う位ドンピシャのタイミングだ。
「お待たせしました。先程の魔物や魔獣の褒賞金の計算が終了いたしました。また昨日の盗賊団の捕縛についての褒賞金の連絡も衛視庁から来ております。
総合計で
内訳の詳細はこちらの計算書をご覧ください」
「えっ、そんなになるの」
セレスが驚いている。
「討伐系の報酬は結構多いのよ。それに今回はあの盗賊の捕縛があったからね。昨日の今日でもう褒賞金が出ているとは思わなかったけれど」
どれどれ、計算書を見てみる。
うーん、盗賊は基本的に1人につき
あと大量に狩ったスライム、
逆にタコ、もといクラーケンは褒賞金が
「フミノ、大丈夫?」
とりあえず計算に間違いは無さそうだ。だから私は頷く。
「確認しました。大丈夫です。それで今回の件とは関係ないのですけれど、少し質問いいでしょうか?」
おっと、そういえば質問をするんだった。リディナありがとう。
「どうぞ。御覧の通り今は雨期で暇ですので」
「掲示板に魔法やステータス閲覧についての掲示がありましたが、冒険者ギルドで講習会とかをやられる予定はあるのでしょうか。また教則本みたいなものはあるのでしょうか。
ちょっと掲示板を見て気になったものですから」
受付嬢さんは頷く。
「確かに魔法使いさんにとっては気になる事ですよね。ただ今のところ講習会も魔法に関する教則本についても予定は立っておりません。
ギルド職員対象の内部講習会はギルド本部や地方統括支部で始まっています。ですが当ギルドでもやっとサブマスターが1週間の簡易講習を終えて戻って来たばかりという状態です。
またサブマスターによると、魔法の教え方も今までとはかなり違う模様です。うちのサブマスターは元貴族家出身の魔法使いですが、今までの常識とは全く違う内容で理解するのが大変だったと言っておりました。
そのような状況なので一般冒険者向けの講習会を開催するとしてもかなり先の事になると思われます。また冒険者以外の一般へ講習会を開けるかどうかもまだ不明です。エールダリア教会が教育監修権を剥奪された今、教育を何処が管轄するか国の方でまだ決まっていませんから。
概ねこのような感じですが、これでよろしいでしょうか」
なるほど、よくわかった。
「わかりました。どうもありがとうございました」
リディナと一緒に私とセレスも頭を下げる。
用件無事終了だ。
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