第84話 そして再びアコチェーノへ

 考えているうちに偵察魔法がこの家へ接近する人の群れを確認した。脱出の村人第一弾、計20人だ。


「第一弾が来た」

 そう言ったところでノックの音。


「どうぞ」

 私の代わりにイリアさんが答える。


「失礼します」

 6家族くらいかな。男女年齢バラバラの集団が入って来た。早速私は奥の椅子に避難。


「それじゃよろしく、気をつけてね」


 リディナを先頭に今来た人達がトンネルの中へと入っていく。

 既に次の皆さんがこの家に近づいてきている。流れ作業のように人を送り込んでいく作戦のようだ。


 私は奥で取り敢えず待機している。村人は順にどんどんトンネルへ入っていく。なかなかいいペースだ。これなら気付かれずに村人全員が逃げられる可能性が高い。


 領主側の方の動きも無さそうだ。これなら大丈夫かな。そう思いながら偵察魔法の視点を2個使って村の上空とトンネル内を監視し続ける。


 さて、村人の最後発らしき群れも確認した。家々は領主側のきれいなものを除き中は空。どの家を収納するかを偵察魔法で確認しつつ様子をうかがう。


 最後の村人の群れ、そして村人を案内していたらしき若い男達がトンネルに入った。


「これで最後です。どうしますか」


 イリアさんが私に尋ねる。


「先に行って。私はやる事が残っている」

「わかりました。それではお気をつけて。本当にありがとうございました」

 

 イリアさんもトンネルに入る。だがまだ家々の収納はしない。もう少し待って、皆がトンネルから脱出出来てからだ。


 トンネルの中の最後部を確認する。まだだ。せめてトンネルを出るまで待とう。どきどきするがここで焦ってはいけない。脱出失敗なんて事になったらまずいから。


 おっと、領主か部下が何かおかしいと感じたのだろうか。領主家らしき大きい家から2人ほど出てきた。まっすぐこっちに向かってくる。


 最後尾は……もうトンネル出口付近だ。間に合うか……出た。よし、ならばオプションプランその1で行こう。


 私はトンネル全体を一気に土で塞いだ。残しておいたらどっちに逃げたか気付かれてしまう。ここは証拠隠滅がきっと正しい。


 私は椅子とテーブルを収納し、壁に土魔法で小さな穴をあけて外に出る。こちらは領主家からは裏側。だから向こうからは見えない。

 さて、それでは開始しようか。まずは計画通りに家の収納から。


 20程度数える間に集落の家の半数以上が消える。残ったのはもう人が住んでいない廃屋と領主側の家々だけだ。

 こっちに向かっている2人の足が止まった。今だ。


『縮地!』

 お約束の高速移動魔法。皆が脱出した北とは逆、南側の門の方へ向けて急ぐ。

 夜になって閉まっている門の閂を風魔法で無理やり上げ、突風魔法で門を無理やり開ける。


『縮地!』

 門を走り抜ける。ただし門の前後ではあえて速度を落とした。少し怖いが仕方無い。ここで門番に私の姿が見えるようにしておいた方が後の為にはいいから。


「何だ今の!」


 門番2人が反応するより早く南側へと通り抜ける。そのまま再び全力で走り100腕200m離れたところで停止。

 暗いからこの辺で門からはもう見えないだろう。だから今度は姿が見えないよう本気の縮地で高速移動。勿論向かう方向は北、皆がいる方向だ。


 大きいだけで出来損ないの村壁。しかし壁があるおかげですぐ外側は森の中より歩きやすい。だからこれに沿って村の外側を縮地を使って一気に走り抜ける。


 あっという間に村の北側の街道に出た。そのまま速度を落とさず移動。前方に灯火が見えた。リディナ達だ。

 先頭にいたリディナの更に前10腕20m位で停止する。


「合流完了。家も収納した」

「もう。フミノが来る前にトンネルが突如埋まって心配したんだから」


 言いたいことはあるだろう。でもまだ脱出が終わったわけではない。


「私は一番後ろにつく。出てきそうな魔物や魔獣は遠隔で片づける。リディナはとにかくアコチェーノまで前進頼む」


「わかった」


 私が先頭に行かない理由は他にもある。人が多すぎるから。だから私は縮地で列の最後へ。正確には最後尾から更に10腕20m離れた場所へ。


 さて、私は暗くても見えるけれど村人は足元が暗いと歩きにくいだろう。だから灯火を更に何カ所かに灯す。

 この辺は両側が森。木々は結構高く、かつ茂っている。だからこの灯りが村から見える事はないだろう。ミスリードさせる為に南の門から脱出したし。


 もし万が一気付かれて脱出阻止に来たとしてもだ。その時は私の魔法やアイテムボックススキルが邪魔をするだけだ。


 おっと、村人の方から誰か近づいてきた。誰かはすぐわかる。イリアさんだ。


「ご無事だったのですね」


 彼女ならぎりぎりで会話可能だ。


「問題ない。皆と一緒に頼む」

「わかりました」


 イリアさんが戻っていく。私が対人恐怖症である事を知っているからかそれ以上話さない。本当にありがたい。


 さて、それでは周囲の魔物や魔獣、追っ手を確認するか。

 今のところこの列は魔物等に襲われていない。だがまもなく前に出てきそうなゴブリンが2匹いる。まずはこれをアコチェーノ名物アコチェーノエンジュの丸太を出して潰して回収。


 後方、村から追っ手が来そうな様子はまだない。偵察魔法で村の中を見てみる。うん、こっちに来る様子は全く無い。こっちとは逆、南門で門番相手に偉そうなのがなにやらぎゃあぎゃあ言っている様子が見えるだけだ。

 

 領主や部下が無能なのは大変有り難い。そのまま関係無いところで空騒ぎをしていてもらおう。

 何せこっちは暗い中、老人や子供も連れて歩いているのだ。普通に歩いているより遙かにペースは遅い。


 でもこれなら心配する必要は無さそうだ。アコチェーノは遠くない。いくら足が遅くても3時間もあれば辿り着けるだろう。

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