第83話 家の中の小屋から

 リディナ達はノックした後、家に入ってきた。勿論私が潜んでいるお家ではなく、その外側のボロ家の方だ。


「フミノ、あれはどう? 出来た?」


 あれとはきっとトンネルの事だろう。


「出来た。出口はリディナでも動かせる程度の岩で塞いである」

「わかった。フミノの力と外の様子を確認させるために村の人2人とあれを見せて貰うね。フミノは出て来なくても大丈夫だよ。私が説明するから」


 よしよし、なら私はこのお家の中、上段ベッドに籠らせて貰おう。


「これが脱出用のトンネルか。これを、この村に来てから掘ったのか」

「階段まで出来ている。どこまで続いているんだろう」


 村人の声が聞こえる。


「フミノは優秀な魔法使いですから。それではトンネルを確認していただきましょう」


 中に入ったところで声が聞こえなくなる。これは秘話魔法が起動しているからだろう。

 ただ偵察魔法で3人の位置はわかる。どうやら出口まで確認しに行くようだ。私は偵察魔法で穴が崩れないかを確認しながら3人を見守る。


 そうだ。思いついて私はアイテムボックスからテジュラと半月デミデューマを全部出す。出したものは偽装の為に購入したリディナと共有の自在袋へ。


 リディナも村人達もお腹が空いているだろう。夕食の時間だし、この村は住民が栄養失調というステータスになる位に食料不足のようだし。


 紅茶と乳性飲料の入った瓶とコップ、お皿も自在袋に入れておく。そして小屋を出て洞窟入口の脇へ。テーブルを出して今食料や皿などを入れた自在袋を置く。


 これでリディナ達が向こうへ戻った時に皆で食べられるだろう。私はリディナ以外に会うと怖いので再び小屋の中へ退避。


 リディナ達は出口の岩も土属性魔法で退けて外へ一度出た後、街道までの道を確認。

 その後洞窟へ戻って岩をもとに戻した後、合計半時間30分位で戻ってきた。


「フミノありがとう。向こう側まで確認したよ。あとこの自在袋は何?」

「食べ物と飲み物。動けなくなると困る」


 リディナと一緒にいた2人がこっちへ頭を下げる。でも言葉はない。これはきっと、私が対人恐怖症で声も怖いとリディナに教えられているからだろう。


「それじゃあと1時間以内に皆を連れて此処へ来るから。後はお願い」

「わかった」


 そう言ってももうやる事は無い。ただ本を読んでいると夢中になってしまう虞がある。

 取り敢えず地図帳を見て時間潰しでもしよう。私は本棚から地図帳を取り出した。


 地図を見ながら脱出の手順を考え直す。

 万が一領主に脱走が気付かれた場合、何らかの手をうつ必要があるかもしれない。気付かれた時の村人の脱出状況にあわせて考えておいた方がいいだろう。


 あれやこれや考えてだいたい1時間くらい経過。まずはリディナが1人で戻ってきた。


「この家で健康診断と簡単な治療とをするって事にしたから。勿論表向きはだけれどね。村の人は領主関係者を除いて全員来るって。私が先頭で行くから家と最後をお願い。


 途中の誘導役と見張りは村の人がしてくれるって。だからフミノは最後と、万が一領主側の人が来た際にトンネルを隠す作業をお願い。領主側の人が近づいたら見張り役が教えてくれるから」


「わかった」


 領主側の人が来ない事を切に祈ろう。


 さて、健康診断なら灯りをつけておいた方がそれらしいだろう。私は家全体と洞窟内に灯火魔法で灯りを灯す。


 あとちょっと考えて大きめの板材と角材をアイテムボックスから取り出す。ささっとほぞと継手を組み合わせて大きい板を作製。

 これを被せて土を上にのせれば洞窟の入口が隠れる。勿論使う機会はない方がいいけれど念のためだ。


 さて準備は出来た。あとは待つだけだ。そう思ったら1人反応が近づいてきた。服装からして村人、それも若い女性だ。


「誰か来る。若い女性」

「見張り役と連絡を取ったり、此処へ来た人を案内したりしてくれる役のイリアさんよ。若い女性だからフミノでも大丈夫だと思うけれど、一応必要最小限以外はフミノとは会話しないようにって指示をしてあるから。対人恐怖症だってことも話しておいたからね。心配しないで大丈夫だよ」


 流石リディナだ。気が利く。


「助かる」

「私は先頭にいかなければならないから。だからフミノ、よろしくね」

「わかった」


 さて、それじゃ準備をしよう。

 最小サイズのお家を仕舞って、代わりにイリアさんが座れる椅子を出して、家の奥側に私用の椅子とテーブルを出してと。

 家の壊れかけの扉がノックされる。


「夜分失礼します。イリアです」

「どうぞ」

 

 17~8歳くらいかな。私達より少し年上という感じのお姉さんだ。


「それじゃフミノをよろしくお願いします」

「こちらこそ本当にありがとうございます」


 私も頭を下げておく。


「この椅子はイリアさん用?」

「そう」

「それじゃ向こうのテーブルと椅子はフミノ用ね」

「そう」


「それじゃイリアさんはここへ座って待機してください。フミノは奥の椅子で」


 ここで気付く。そうだ、リディナに一言言っておこう。


「もし領主側が気付いた場合、私が通る前に証拠隠滅でトンネルを埋める場合もある。その時も心配せずとにかく進んで欲しい」

「何か考えているのね」

「あくまで万一の場合。最悪でも私は縮地で逃げられる」


 万が一の際、これだけ言っておかないとリディナが引き返してしまうかもしれない。でもそれでは脱出が失敗してしまう。


「どんな事を考えている訳」


 うーん、どう説明しよう。オプションプランは5つ考えてある。領主側がどの時点で気付くか、気付いた後どう出るかで詳細が異なるから。


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