第70話 工作欲ついでに

 継手だのほぞだの木工の様々なテクニック、調べるとなかなか面白い。やり方を読んでいるとついついまた工作をしたくなってしまう。この辺のテクニックを使わないとしてもだ。


 アイテムボックススキルで切断や穴あけといった加工は思いのままに出来る。そして床に座る文化なら是非欲しいなと思うものもあったりする。


 作りたいものの構造を頭の中で考える。うん、出来そうだ。どうせ作るなら後々まで使えるいいものを作ろう。


 頭の中で必要な機能を考え、アイテムボックスから出したノートと鉛筆でまとめる。更に構造の図も描いてみる。


 うん問題ない。今ある材料で充分作れる。なら作るとしよう。背もたれの角度が3段階に調整できるリクライニング座椅子を。


 材料のメインは今まで伐採した樹木で作った板材。支えの構造部分はアコチェーノエンジュの余り材で作った角材。硬くて頑丈で肌触りもいい。


 なお回転する軸となる部分だけは鉄の棒。これは材料として木工組合ギルドで購入してある。早速使ってしまったがまだまだ在庫はあるので問題ない。


 アイテムボックスで切断加工した材料を組み合わせて試作第1号完成。うん、リクライニング調整も肘かけの位置も大丈夫。ただリクライニングした姿勢で座るとお尻が前にズレそうになる。改良が必要だ。


 少しだけ考え、アイテムボックス内の木材をカットして分厚い板を作る。この上に座ってお尻や腿の当たる位置をアイテムボックススキルで削る。うん、これでお尻が滑らない。


 板の上をどいて座面全体が少しなめらかになるよう削る。ついでに背もたれも水属性魔法と火属性魔法を使って軽く曲げてと。最後にもう一度座って確認。うん、問題ない。この曲面もいい感じ。


 仕上げだ。脂を塗って、魔法で熱処理及び乾燥させた後乾拭き。作業中ふと思う。木に塗るワックス、本当は亜麻仁油のような乾性油を使った方がいいのだろうかと。


 一人暮らしの時は他に油がなかった。だから狩った鹿の脂を床処理に使い、うまくいったので以後もそうしていたのだ。


 でも今まで通り魔法で熱処理して酸化させれば問題はないか。余分な脂を拭きとって熱処理して乾燥魔法かけて乾拭きすればべとつく事もないし。


 さて処理終了。いい感じの艶が出た。座ってみる。うん悪くない。これは全員分作るべきだな。お客様分も含めて。


 1個作って仕様さえ決まれば量産するのは簡単。アイテムボックスで思いのままに切削加工が可能だから。


「何これ。どうしたの?」

 

 量産した座椅子3脚の最後の工程、乾拭きをしているところでリディナに聞かれた。いつの間にか風呂からあがってきた模様だ。


「座椅子。今作った」


 我ながらいい出来だと思う。座り心地が最高にいい。足を伸ばして全てを背もたれやひじ掛けに委ねてリラックスすると下手な椅子よりよっぽど快適だ。


「試してみていい」

「勿論」


 ちょうど完成したひとつにリディナが腰掛ける。


「あ、確かにこれ、快適かも。何かこのまま寝てしまいそう」


 確かにお風呂上りには木の感触が気持ちいいかもしれないな。リディナの方を見てそう感じる。


「これもフミノの国にあったものなの?」

「そう。東の国の文化」


 嘘でも間違いでもない。東の日出る国の文化だ。この世界ではないだろうけれども。


「何かフミノの国の文化、気持ちいいけれど人を駄目にする方向に向かっていない? 床に寝そべるとか寝てしまいそうな椅子とか」


 確かにそうかもしれない。しかしリディナは甘い。上には上がある。


「人を駄目にするソファーなんてのもある。あれはもっと酷い」

「何それ。その何か試してみたいような試すとまずいようなのは」

「材料が足りない。材料が揃えばそのうち」


 ビーズクッションのビーズは何を代用にして作ればいいだろう。布は探せば伸縮する編み方の布くらいはありそうだけれども。

 材料が揃えば是非作ってみたい。今度ビーズの代わりになるものを探してみよう。


「そう言えばカレンさん、来たら先にお風呂入って貰って、それからご飯の方がいいかな。そうしないと眠くなってしまうだろうと思うんだけれど」


 そうだな。多少遅くなっても大丈夫ならその方がいいだろう。そう思ったので私は頷く。


「それでいいと思う」

「わかった。そろそろ来るかな。さっき5の鐘が鳴ったから」


 うーむ、きっと座椅子の量産中で気付かなかったのだろう。私は集中していると周りの事に気づかない。

 敵が近づいた時なら常時起動している偵察魔法でわかるけれど。


 そんな事を話しているとこの家に近づいてくる2人を発見した。勿論カレンさんとミメイさんだ。


「来たね。それじゃ迎えようか」

 リディナの監視魔法でも捉えたようだ。


 2人で表に出る。


「こんばんは。今日はお招きありがとうございます」

「いえ、こちらこそお世話になってます」


 勿論挨拶をしているのはリディナとカレンさんだ。私とミメイさんはあわせて頭を下げるだけ。


 なお念のため、私はカレンさんのステータスをちらりと確認しておく。うん大丈夫、見える。


 ついでに言うと魔法適性もちゃんとある。ただそんな事がかすむようなとんでもない情報もあったりする。

 何故こんな人がこんなローカルな場所にある冒険者ギルドのサブマスターなんてしているのだろう。そう思ってしまうくらいとんでもない情報だ。


「ところで何故、建物が3軒もあるのでしょうか」


 おっと、そっちを聞かれてしまったか。とりあえず思考をカレンさんのステータスから戻してと……どうこたえるのが正解だろう。


「その辺は後程食事でも食べながら。ところでカレンさんは今晩はゆっくり出来るのでしょうか」


 ありがとうリディナ。そう、その辺の話は後でして貰おう。

 一方でカレンさんとリディナの会話は続く。


「ええ。本日の仕事は終わりにしましたから」

「なら食事の前にお風呂はどうでしょうか。入って頂いている間に、こちらもゆっくり夕食の準備をしますから」


「いいのでしょうか。実はミメイにお風呂の話を聞いて羨ましいなと思ったのですけれど」

「ええ。使い方はミメイさんに聞いて頂ければ。お湯もミメイさんにお任せしていいでしょうか?」


 ミメイさんは頷く。ミメイさんは元々魔法使いで魔力は充分ある。それに今は火属性も使える。だから問題は全く無い。


「それではミメイさん、お願いします。あと今日はこっちの新しい小屋の方がリビングです。本棚もこちらにあるのでミメイさん、案内が終わった後はこちらへどうぞ」


「あとこれ、身体を洗ったり拭いたりする布」


 そう言えば必要だよな。そう思ったのでバスタオルサイズの手ぬぐいといった感じの布を2枚、アイテムボックスから出してミメイさんに渡しておく。


「それではゆっくり入ってきて下さい」


 さて、それじゃこっちももう少し読書でもしてようか。

 新しいリビングの小屋に戻り、今度は小説を1冊取り出す。

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