第69話 久しぶりの工作欲

 昼食のサンドイッチを食べた後、私とリディナそれぞれの作業へ。

 リディナは久しぶりに塩漬けや魚醤漬けの肉を再加工したり新たに漬けなおしたりしている。


「自在袋やフミノのアイテムボックスに入れておくと熟成が進まないしね。こうやって停滞している時にある程度面倒をみてやらないと」

という事だそうだ。


 時々魚醤の表現に困るとんでもない臭いがしてくる。ここは風通しがいいから問題はないだろうけれど。


 さて、細めながらも質がいい大きさが揃った丸太が手に入った。そして洞窟拠点を出て以来大物を作ってなかった為、工作欲がうずうずとしている。


 時間もあるしこれはやるしかないだろう。そんな訳で購入してきた丸太を使った製作実証と称した工作作業、開始だ。

 

 実は現在使っているお家2軒にはそれぞれ少し不満がある。

 まずは小さい方。こちらは狭い。しかも中が靴やサンダルを履いて歩くこと基準で出来てしまっている。


 確かに山の中等広いお家が出せない場所用だから狭いのは仕方ない。しかも疲れている時には靴のまま入れた方が便利だ。

 だから今はそうやって使っている。でもおかげで余裕があるときもリラックスしきれない感じがする。


 一方物置小屋改造のおうちは裸足で入れるがリビングが狭い。小さいおうちよりはましだがやっぱり狭い。大きめのテーブルと椅子、本棚と食器棚でほぼ目一杯だ。


 だから裸足専用で他よりは広い、リビング専用の小屋が欲しかった訳だ。

 

 頭の中でおおざっぱな設計図を描く。基本の丸太の長さが2腕4mだから、出来るだけそのまま使える大きさで作ろう。

 なら外壁部分は幅2腕4m、奥行き2腕4mというところか。軒や屋根の一部には長いものを使うとして。


 2人だけ用のリビングとしてはまあまあの広さだろう。広いとまでは言えないけれど。


 大きさ以外は基本的には小さい方のお家とほぼ同じつくりにしよう。最初だからまずは無難方向で。

 ただ入口に靴を脱ぐ場所をつける事。あと他の床を上げて、裸足でも歩けるよう床板を仕上げる事。この2点はやっておこう。


 まずはお家の隣のスペースを整地して乾燥させ、工作スペースを作る。その上に小さい方のおうちと全く同じように皮を剥ぎ、カットした丸太を組んでいく。見本があるから難しい作業ではない。


 ただ今回、床だけは仕上げにこだわる。平らにして脂を塗って熱処理して乾拭きして。寝そべっても心地いい床を追求するのだ。かつての洞窟の拠点のように。


 リディナのいる方向からの匂いが魚醤からパン焼きにかわり、更に肉を焼いたり煮込み料理を作ったりする匂いになった頃。

 私の習作はやっと完成した。


 外見としては簡素な物置小屋。屋根は片流れで窓は無く扉しかない。良く言えばシンプル、悪く言えば安っぽい作りだ。

 それでもリディナには言われてしまった。


「何か大きくて凄いの作ったよね」

「見本があるから簡単。料理の方がよっぽど難しい」

「普通の人はそんな事を言わないし考えないと思うよ」


 そうだろうか。間違いなく私の本音なのだけれど。


「折角だから今日からリビングはこっちを使おうか。広いし板も気持ちいい感じだし」


 私は頷く。確かにその方が快適だと思うから。


「それじゃ物を移動させよう。テーブルや椅子はまだ予備があるんだっけ」


 私は頷く。以前洞窟拠点で使っていた大きいものが仕舞ったままだ。今度のリビングはそこそこ広いから、これを出してやろう。


「なら本棚だけかな。調味料や食品類は私が移動させるから」


 確かに本棚が一番大事だ。あと料理用に食器棚も1つ出しておこう。アイテムボックスを使って移動。


 更に余った端のスペースに3人掛けソファーを置く。座ってもいいし寝そべってもいいだろう。勿論これもリディナの元勤務先から持ってきたものだ。


「いい部屋になったね。あと裸足で歩ける床はやっぱり気持ちいいよね」


 うんうんその通りだ。特に床、予想よりもいい仕上がりに出来た。理由は簡単だ。


「この木、固くて密で肌触りもいい。仕上がりが良く出来る」

「確かに寝転んでも気持ち良さそうだよね」


 まさにその通りだ。その為にこの家を作ったと言ってもいい。

さすがリディナ、よくわかっている。


「ならテーブル、低い方がいいかな。床と近い方が楽だし、食べてそのままぐたーっと横になれるしね。お行儀悪いと言われそうだけれど」


 そうか、確かにその方がいい。だから私はテーブルと椅子を収納して代わりに座卓を出す。洞窟拠点で作って使っていたものだ。


 出してテーブルにつくと部屋が広く感じられる。そして床の肌触りのよさが一段と感じられる。うん、これはいい。

 ただ床に座る文化はあまり一般的ではないかもしれない。少なくともこの国では。


「テーブルの方が無難? ミメイさんやカレンさん」

「大丈夫だと思うよ。私もこの方が好きだし」


 リディナがそう言うなら大丈夫だろう。そう判断。ただ一応固くて足が疲れると何なので小さめのラグも出しておこう。


「何かこういう所でべたっと座ってぼけっとしているのって、贅沢だよね。豪華な調度のある部屋とかとは別の次元で」


「確かに」


 その気持ちはよくわかる。私もそう思うから。でも日本の基準で言ったらこの座卓も豪華な調度なのかも。極相林の巨大な天然木からくりぬく形で作った一木造なんて代物だから。


「まだ5の鐘まで時間があるからお風呂入ったりして待ってようか。お風呂、先と後どっちがいい?」

「後」


 夜暗くなってからの方がいい。風呂内での暇つぶし兼小遣い稼ぎのゴブリン狩りが捗る。


「わかった。それじゃ先に入ってくるね」


 リディナを見送った後、本棚から百科事典を1冊取って床に広げる。

 今日やってみて大型の木工にも興味が出てきた。だから木工の技法についてもう少し調べてみたいと思ったのだ。

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