第67話 2日目の朝

 魔法を教えたり先程のような話をしたりしたら遅くなってしまった。

 そろそろ寝るかと思ったところで、リディナがミメイさんに声をかける。


「何なら私達、もう1つ小屋を持っているから、そのベッドを使わない? 2段ベッドだけれど一応ちゃんとしたマットと布団を使っているから、向こうの部屋で寝袋で寝るよりは寝心地もいいと思うよ。明日の朝食はまたこっちの家に来て食べるという事で。

 灯火魔法はもう使えるし問題ないよね。何ならそこの本棚の本を持って行って読んでもいいよ」


「本棚?」

「そこの棚、中は全部本だよ」


 リディナは本棚の扉を開ける。


「えっ……!」

 

 どうやらミメイさん、本棚だとは気づかなかったようだ。

 確かに元々は食器棚だし、扉を閉めていれば中の本は見えない。気付かなくても無理はないだろう。


「本は図書館で読むもの。どうしても時間が足りない時だけ借りて読むものだと思っていた」


「私も以前はそう思っていたんだけれどね。フミノと一緒だと買うのがつい当たり前になってしまって。

 ただこの程度でもあれば便利だよ。大抵の事は家で調べられるしね。

 それに小説は一度読んだ後でも読み返したいって時があるじゃない。買っておけばいつでも気兼ねなく読めるしね」


「でも、これだけ買うとかなりかかる」

「そう言えば食費と最低限の日用品代以外は全額本につぎ込んでいるかな。それでも大したことはないよ。まだパーティ組んで半年経っていないしね」


 そんなに珍しくて意外なのだろうか。リディナが私と同じように本を買っているからそんな印象はなかったのだけれど。


「それでは本当に本を借りていい?」

「勿論よ。私もこの後寝室に本を持っていくしね。フミノもでしょ」


 当然だ。今日購入した小説のうち1冊は読破せねば。


「ならベッドを借りて、本も借りる。寝袋とレポートを取ってくる」

 

 偵察魔法で確認。付近には誰もいない。ついでに言うと魔物や魔獣もいない。一応街の中だから当然だけれども。


「なら小屋を出す」


 私も一緒に外に出る。収納と踏み固め魔法でさっと平地を作って小屋を出す。

 自分の小屋から戻ってきたミメイさんにリディナが小屋へ招いてさっと説明。


「それじゃ私達はお風呂入って寝ようか。フミノはお風呂、先と後とどっちがいい?」

「後がいい」


 理由は簡単、本が読みかけだから。先に読んでしまいたい。


「わかった。それじゃ私、先に入っているね。あとミメイは遠慮なく本を選んで」

「わかった」


 私とミメイさんで大きい方の小屋のリビングへ戻る。

 それでは私も本を選ぶとしよう。ミメイさんと並んで本棚から本を選ぶ。さっきまで読んでいた本と、あと今日購入したうちのもう1冊と……


 ◇◇◇


 本を読んで、お風呂に入って、いつものように長風呂しながら魔物や魔獣を探して。

 ただ今いる場所は一応街の中扱い。だから魔物や魔獣が闊歩する街壁の外が遠い。おかげでゴブリン3匹小銀貨9枚9,000円しか狩れなかった。

 寝る前に本日購入した小説をもう1冊読んで、おやすみなさい……


 朝はいつも通り胃袋を挑発するような匂いで目が覚める。

 顔をふいて服を着てリビングへ。既にミメイさんも来ていた。

 料理もほぼ完成している。本日もいつもとほぼ同じくパン、サラダ、ロースト鹿肉、豆のスープといったところだ。チーズとラルドもパンに載せられるように置いてある。


「朝食も豪華」

「私ががっつり食べたい方だからね。フミノも朝はしっかり食べるし」


 3人だけれどいつもと同じように食べ始める。


「今日は冒険者ギルドに行くんだよね。その後はどうする?」


 本はまだ読んでいないのが数冊あるから図書館はいいかな。かと言って食料品もひととおり購入してストックしてある。特に今日急いでやるべきことはない。


「リディナは何かある?」

「特にないかな。本はまだ読んでいないものがあるしね」


 私と同じか。


「何もないなら冒険者ギルドに行ってから考えようか」


 私は頷く。それでいい。特に困る事も無いし。


「なら9半の鐘が鳴ったら出ようか。その頃なら空いているでしょ、きっと」

「ありがとう」

「フミノも混んでいると入れないからね」


 その通りだ。特に大人の男性が多いのは勘弁して欲しい。


 朝食終了後、9半の鐘まで2時間ほど時間がある。本を読んだり他の作業をしたりして時間を潰す。


 私の場合は昨晩捕えたゴブリンを焼いて魔石を取り出すところから。河原なので燃やすのに適した場所はいくらでもある。


 魔石を取った後は家の掃除。方法は簡単、部屋の中にあるものを全て意識した後、それ以外を収納してやるだけ。そうするとゴミだの不要物だのが収納される。


 たまに間違ってゴミや不要物以外のものまで収納してしまう。でもその時はまたアイテムボックスから出してやればいいだけだ。


 収納したゴミ類は外で廃棄。場合によっては穴を掘って埋めたりもする。今回は埃類だけだったからそこまでしないけれど。


 小さい家と大きい家、リディナの個室以外は全てを掃除して一仕事終了。さて次は何をしようかと思ってふと目の前の壁に視線がいく。


 今いるのは小さい方の家。アコチェーノで作って貰ったログハウスだ。細めの丸太を組み合わせて作られている。


 その構造をあらためてじっくり見てみる。なかなか面白い。木を切り欠いて組み合わせる事によって箱構造を作っている。


 しかも皮を剥いで磨いただけの丸太かと思ったらそうでもない。壁として組み合わせる部分は少し削って平面をつくり隙間がでないようにしている。


 ついついじっくりと屋根の部分まで構造を見てしまう。なるほど、こうやって加工すれば丸太を組むだけで箱というか小さな小屋を作ることが出来る訳か。


 もちろんこれは間伐材と言えど丸太の質が揃っているから出来るのだろう。それでもこの工夫を頭に入れれば私でも小さな小屋位は作れそうな気がする。アイテムボックス魔法で出し入れする際に加工して、出す時に適切な場所に置けば……


 よし、いつかこの知識を試してみよう。ただその為には質が揃った丸太が必要だ。

 私のアイテムボックス内にも樹木がそこそこ収納されてはいる。しかし太さがまちまちで曲がっていたり枝が多かったりして同じように使うのは無理。


 よし、丸太を購入しよう。質が揃っていれば間伐材の細いのでいい。それでもこの小さい方の小屋位は作れる。


 なら必要本数は、予備も含めて……

 私は小さい方のおうちで使っている丸太の長さと本数を数えはじめた。

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